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日本の未来の学びに大切なことは何か。
様々な立場から教育の第一線で活躍する6人が一堂に会し、現在感じている課題や、未来の学びに対する思いを語り合いました。その「未来の学びを考える会議」レポートの第3回。
専門領域を超えて教育現場で実践も行うデザイナーの太刀川英輔氏が未来の学びを展望します。

 進化の過程に着目し発明の手法を考える、
  誰も教えてくれなかった発想や発明の方法

太刀川英輔氏

NOSIGNER代表 太刀川英輔氏

進化思考家。デザインストラテジスト。慶應義塾大学特別招聘准教授。ソーシャルデザインで美しい未来をつくる(デザインの社会実装)発想の仕組みを解明し変革者を増やす(デザインの知の構造化)を目標とするデザイン活動を続け、社会課題に関わる多くのデザインプロジェクトを実現。100以上の国際賞を受賞する。発明の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、変革者を育成している。

「未来の学び」に大切なことというお題に対して、私の専門分野であるデザインの視点から、創造性や課題発見・解決能力についてお話ししたいと思います。

デザインとは、その形によってどういった関係が生まれるのかまでを考えて、形を整えることです。形は必要な状況によって、ふさわしい形状が異なるので、当然ですが単に見た目がかっこよいデザインがよいものだとは限りません。

人間は様々なデザインをつくり上げてきました。ただ、人間よりもデザインが上手な存在があるとしたら、それは生物の進化だと考えています。進化は、形による関係のイノベーションの連続とも言え、環境に完全に適合した形をそれぞれの場所で生み出しています。そうした考察から私は、生物の進化から創造性の本質について考えるようになり、創造性教育のためのメソッドを、「進化思考」というプログラムとして体系化しました。

進化は、基本的に「変異」の繰り返しと「関係」による淘汰を、何度も往還するループによって起こります。例えば、たくさんの卵からは、ちょっとずつ形が違う生物が生まれてきますよね。ある環境に適応した変異だけが生き残っていき、それを何世代も繰り返すと、状況に適応したデザインとなっていきます。それが、ダーウィニズム、自然選択による進化です。

進化的な発想のためには、淘汰圧となる「関係」を理解する"秀才"的なプロセスがあるだけではなく、「変異」を生み出す知恵、すなわち"バカ"になる知恵も必要なはずです。しかし残念ながら、現在の教育では「関係」のごくごく一部を国語・算数・理科・社会といった形で切り取ったものを教えるのみで、「関係」を教える上でも中途半端ですよね。文系・理系、教科ごとに違うみたいな乱暴な分け方で世界を理解できるはずがありません。

また、「変異」に相当する「今とは違うことをやる方法」は、全くと言っていいほど教えてはいませんね。これからを生きる子どもたちには、正しく「関係」を理解する方法や、新しい「変異」をどんどん出せる創造性を学んでほしいと思っています。学校の教科学習も、なぜ教えているのか、どのように「関係」を学んでいるのか俯瞰して理解できれば創造的な思考につながります。

作品名:evolutionary map "MOBILITY" 写真提供:太刀川氏

では、「関係」を俯瞰し理解する方法として、進化思考の「時空観」を説明しましょう。

自然科学において世の中を理解する方法は、大別して四つあります。一つめは解剖(内部)で、分解して中にあるものを確認すること。二つめが生態(外部)で、それぞれのつながりの先に、何があるかのシステムを理解すること。三つめは系統(過去)で、車輪がなければ、馬車は登場せず、馬車がなければ自動車が発明されることはないように、歴史の文脈を理解すること。そして、四つめが予測(未来)。創造的であるためには、フォアキャスティングとバックキャスティングの両方を駆使して未来を想像しなければなりません。この四つがあれば、たいていの物事の関係性を説明できます。空間的・時間的な関係性を網羅的に考える手法として、これを進化思考では、四つまとめて「時空観」と呼んでいます。

出来事には、こうした様々な「関係」があります。例えば、タンカーの事故が起きた際、原油の輸出という「社会」の経済的な影響を考える一方、被害に遭った「生物」への影響も調査しなければいけません。それらは、一つの事象で結びついていますが、ひとたび教科で言えば国語・算数・理科・社会という教科に分けられてしまうと、それぞれの「関係」は分断されてしまいます。こうしたものを時空観の視点はつないでくれます。

作品名:evolutionary map "MOBILITY" 写真提供:太刀川氏

解剖は、教科にあてはめれば理科のように思えますが、英語の文法は解剖的だと言えます。社会科の中にも、解剖的・生態的・系統的・予測的なそれぞれの視点を見いだせるでしょう。このようにすべてのカリキュラムは、この四つの考え方に分解してあてはめることができるのではないか、という仮説を持っています。解剖、生態、系統、予測の時空観的な視点によって物事を考えていくと、様々な事象が起こる理由に自分で気づくことができます。

創造性のための教育では、自由な学びを提供するだけでは意味がありません。その学びがなぜ必要なのかという目的を、学び手が解剖や生態、系統を通して自発的に発見することが大切です。そのためにも様々な事象の関係性を問うことはとても重要であり、それによって得られた自分の学ぶ目的に従うことで、学習は、やらされるものではなくなります。学校においても、「先生」という存在は決して従わなければいけない存在ではなく、自分を進化させるための目的に至る上での善きガイドであるべきなのではないでしょうか。


 創造性を育む思考方法をプログラムに

進化思考は、現在、様々な大学や企業で活用いただくようになっています。進化思考の基本的なプログラムは、解剖や生態、系統などの考え方それぞれに対して、創造性をワークショップ形式で学べるようにしたものです。主に大学生や社会人を対象に行っていますが、参加者に様々な化学反応が起こり、新しい価値が生まれていく様子を目の当たりにしています。それを子どもたちにも経験してもらうために、今後は、例えば小学生対象のプログラムなども制作したいですし、将来的には、このプログラムに基づいた学校をつくりたいと考えています。

現在までも芸術や建築に大きな影響を与えているドイツの学校「バウハウス」の発想は、実はフリードリヒ・フローベルの幼児教育理論の影響を受けていて、その根底にはゲーテから続く自然哲学の考えがありました。もう一度、教育の根幹を自然から学ぶような流れの源流に立ち返って、創造性の本質を幼児や小・中学生、高校生にも学んでもらえることができたら、今より未来の世代の子どもたちの住む世界はきっと面白くなりますよ。


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