シリーズ 未来の学校

軽井沢の豊かな自然と多様性の中で、変革を起こせるリーダーを育てる

【前編】 ISAKサマースクール2013から考える、グローバルリーダー教育の今 [3/4]

授業の冒頭、担当であり脳科学の研究者でもあるデイヴ・モーケル先生が自己紹介した後、生徒が4人ずつのチームに分かれた。最初のワークは、生徒それぞれが思い浮かべる優秀なリーダーの資質を大きな正方形の模造紙に各人が4方向から書き込む。そして、その資質が適したものかどうかについてチーム内で議論して、合意した資質だけを模造紙の中央に書き込んでいく。合意する際には、自分の意見について勇気をもって伝え、質問したり議論したりしながら、他人の意見も受け入れていく必要がある。

模造紙の中央には「Responsible」「Smart」「Confident」「Honest」「Fair」など、リーダーの資質とおぼしき単語が並んでいく。続いて、自分たち以外のチームの模造紙も移動しながら順番に読んでいくのだが、ここでしっかり時間を取っている。ここでも多様な価値観が存在することを生徒たちに感じ取ってもらうのだろう。

 「リーダーシップ」は先天的な資質ではない

 次にモーケル先生が、教室前方のプロジェクタ画面に、リーダーシップに必要な3つの要素、「ハーモニー」「イニシアチブ」「プラクティス」のキーワードを映し出した。先生の説明によると、調和を表す「ハーモニー」は東洋的、自発性を表す「イニシアチブ」は西洋的、リーダーシップにとってはどちらも重要で、ISAKでは「ハーモニー」と「イニシアチブ」を結合した教育手法を採用している。

3つの要素のなかでも「プラクティス」は特徴的だ。ISAKは、そもそもリーダーシップは生まれながらの先天的な資質ではなく、後天的に獲得するスキルだと考えている。つまり、「プラクティス」はリーダーシップを後天的に獲得するための鍛錬で、具体的には「気づくこと」「責任をもつこと」「貢献すること」を実践することであり、単に「練習する」という意味ではない。

 リーダーが気がつかなければならないこと

脳科学者の先生らしい授業展開も興味深かった。教室前方の映像には、地図を持って道を聞く白人の若者と道順を教える女性が映し出される。道案内の最中に、人より大きな絵をもった一団がふたりの間に割って入り、通り抜けて行く。実はこのとき、道を聞いている白人の若者と絵を運んできたアフリカ系アメリカ人が絵の裏側の死角で入れ替わっていた。 しかし、再度道を教える女性は、人が入れ替わったことに全く気がつかない。人間はひとつのことに集中していると案外他のことに気がつかないのだ。

次に前方には、得体の知れない形が現れる。先生「これは何だと思いますか?」 その形は、アルファベットの「A」のようでもあり、「はしご」や「道路」にも見える。生徒たちからもさまざまな回答が出るなかで、先生は生徒に話しかける。

「人間は同じ形を見ても違った解釈をする。つまり、解釈の仕方によって、それぞれのストーリーを作り出すことができるんだね。」

前方の画面は切り替わる。

「イベント」と「ストーリー」のキーワードが現れ、先生が一旦まとめる。この授業のひとつの山場だ。

「みんなは、実際に起こったイベントと、イベントから意味付けをしたストーリーの違いをきちんと認識できるようにしよう。」

人間の脳は優秀ではあるが、先入観や想像力によってさまざまな解釈が生じ、人によって異なるストーリーを作り出す。他人との関わりのなかではさまざまな「イベント」と「ストーリー」が生じることを認識し、区別すること。人間の特性や可能性を意識すること自体が、リーダーにとって大切な資質だと言っているのだろう。

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