シリーズ 未来の学校

開校22年目、子どもたちの自主性からすべてが始まる山間の自由学校

未来を生きる子どもたちは何をどう学ぶべきなのか
そこで大きな役割を果たす学校はどうあるべきなのか
「未来」といっても決して空想や夢物語ではない、実は
もう始まっている先端的な意味での未来の学校を探訪します。

【前編】 きのくに子どもの村学園の『自由』な子どもたち [1/4]

7:47

和歌山県橋本市彦谷、人口20人足らずの山間の村落に『きのくに子どもの村学園』(以下、きのくに)はある。1992年4月に開校した過去に例のない体験学習中心のこの学校には、現在小中学校合わせて177名の生徒が在籍している。

「自己決定」「個性化」「体験学習」を基本方針として開校から20年以上を経た今、実際にどのような教育が現場で行われ、また、卒業生はどのような社会人に成長しているかということを中心に、前後編の2回に分けて詳しくレポートする。

 宿題がない、試験がない、学年の壁もない

きのくに子ども村学園には宿題がない、試験がない、学年の壁がない。そして、「先生」とは呼ばれる大人はいない。担任は、〇〇さんや△△ちゃんなどとニックネームで呼ばれている。一見ないない尽くしのこの学校に「ある」のは、「子ども」と「大人」によって作られていく楽しい日々なのだ。

その日々は、「プロジェクト」と呼ばれる授業を基調として作られていく。きのくにの小学生は何年何組という学齢別クラスではなく、学年縦割りの「プロジェクト」というクラスに属している。「プロジェクト」にはそれぞれ特色のある「劇団きのくに」「工務店」「おもしろ料理店」「ファーム」「クラフト館」というクラスが並び、子どもたちはそれらの中から好きな「プロジェクト」を選ぶ。きのくにの教育理念を象徴する「プロジェクト」は、生活に根差した生きる力を身につけるために、年齢や教科、さらには子どもと大人の壁を超えて活動する体験学習のテーマそのものである。小学校の時間割では、この「プロジェクト」に週14時限もあてており、きのくにの学びの中心的な時間になっている。

ただ、明言しておかなければならないのは、きのくには文科省の通常のプロセスによって認可された私立小中学校である点だ。つまり、「特区」や「教育課程特例校」ではないが、この「プロジェクト」が教科学習としてきちんと認められているということだ。

プロジェクト「クラフト館」に密着する

プロジェクトの1つ、「クラフト館」(以下、クラフト)が「隠れ家」を建設中だと聞いたのは、取材初日の朝。「隠れ家」というワクワクする響きに「是非のぞいてみたい!」と思った。

クラフトの教室には、年齢がバラバラの20人ぐらいの子どもたちが3つの大きな机を囲んで座り、黒板の前に立っている大人と一緒に話し合っている様子が見えた。

黒板には、「隠れ家づくり」と大きく書いてあり、その下に「やね」「かべ」「かいだん」「はしら」と書かれている。今日のプロジェクトの役割分担を話し合っているらしい。

「なおちん」と呼ばれる大人が、呼びかける。
「それじゃあ、分担しようか」
ひとりの男子が、みんなに聞く。
「屋根作りたい人?」
パッと7割ぐらいの手が挙がる。屋根づくりは人気があるようだ。
「壁作りたい人?」
パラパラと1割ぐらいの手が挙がる。
「階段作りたい人?」
だいたい1割ぐらいの手が挙がる。
「柱は?」
こちらも1割くらい。分担が「屋根」に偏っているので、子どもたちが調整の話し合いをする。大人のなおちんは話し合いを見ているだけで口出しはしなかったが、分担が決まったのを見届けて現場へ向かう。子どもたちは、さっと立ち上がり、各自トンカチ、のこぎり、くぎ、木材などを持って、作業現場に向かった。

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