シリーズ 未来の学校

開校22年目、子どもたちの自主性からすべてが始まる山間の自由学校

【前編】 きのくに子どもの村学園の『自由』な子どもたち [4/4]

 子どもたちの「自己決定」の原則を徹底する

本日の全校ミーティングは、「学園で消費する水の使用量を減らせないか」という議題だ。

議長「水の使用量を減らせないかという、前回からの続きです。どうやったら、もっと水の量を減らせると思いますか?」

数人の子どもたちからさっと手が挙がり、次々と発言する。

自分が使っていなくても水が漏れていたら蛇口は閉める、皿を洗う前に紙で油汚れを落としてはどうか(ただし、1食につき200~300枚の紙が消費されるのが問題という意見も)、紙ではなく食器を戻すところに水を張ってはどうかなど具体的な意見が出されていく。ここでプロジェクト「工務店」のひとりの女子が発言する。

女子「工務店の6年生が、現在のシャワーと歯磨きに使う水の量について調べたのですが、発表してもよいですか?」

議長「どうぞ」

女子「シャワーで1回に使う水の量は、男子1人あたり52,000ml,女子のあるふたり組は1人あたり66,000ml,別のふたり組は1人あたり35,000ml,3人組は1人あたり61,000mlという結果でした」

ホール全体に何となく「???」という雰囲気が漂うなか、学園長の堀さんが絶妙の合いの手を出す。

堀さん「今、工務店の6年生が発表してくれたなかで、『ミリリットル』という表現が出てきたけど、小さい子にもわかるように『牛乳パック』何本分で言い直してくれないですか?」

『牛乳パック』で言い直した6年生の発言で、ホールは「なるほどー」という空気に包まれた。堀さんは勿論、きのくにの大人たちは話し合いを円滑に進める高い技術を持っている。

この後、出された意見が議決され、次のようなことがルールとして決まった。

 
  • ・ きちっと閉めていない蛇口を見つけたら、閉める
  • ・ お風呂に入っている時、使わないシャワーをこまめに止める
  • ・ 歯磨きをする時、磨いている時は水を止め、ゆすぐ時だけ使う

もしかすると、わざわざ全校生徒と多くの教職員を集めて「たったこれだけのことを決めたの?」と思うかもしれない。しかし、きのくにがこの全体ミーティングを最も大切にしている理由がここにあるのではないだろうか。そもそも子どもたちにとっては「たったこれだけのこと」ではないかもしれない。そして、自分たちに関わることは自分たちで決められる、決めなければならないという環境で育つことの重要性だ。

子どもが自由で大人と対等と言えば、子どもに迎合し、単に甘やかしている印象を与えてしまうかもしれない。しかし、きのくにで見たものは、子どもたちが自由を享受し学びつつも、その自由を守るために自主的に行動する姿だった。

開校から22年目。学園長の堀さんは現在の教育にどのような課題を感じ、「きのくに」の子どもたちはどのような大人に成長しているのだろうか。
後編(12月9日公開予定)では、学園長と卒業生のインタビューを中心にお届けする予定です。

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