シリーズ 未来の学校

開校22年目、子どもたちの自主性からすべてが始まる山間の自由学校

未来を生きる子どもたちは何をどう学ぶべきなのか
そこで大きな役割を果たす学校はどうあるべきなのか
「未来」といっても決して空想や夢物語ではない、実は
もう始まっている先端的な意味での未来の学校を探訪します。

【後編】 自己決定と個性が切り拓いた、卒業生の未来 [1/4]

7:33

「プロジェクト」とよばれる体験学習の授業が週に14時限もある時間割でありながら、文部科学省から認可を受けた学校、きのくに子どもの村学園小学校(以下、きのくに)。前編では開校から22年目を迎えた「きのくに」でいま何が行われているかをレポートした。

後編では、学園長の堀さんが感じる現在の教育課題と展望についてのインタビューと、「きのくに」の卒業生たちがどのような大人に成長しているのかを中心にレポートする。

 「きのくに」の教育理念に宿る、A・SニイルとJ・デューイの精神

「きのくに」は、「世界一自由な学校」といわれるサマーヒル・スクール(以下、サマーヒル)のような学校をつくりたいという、堀さんの思いのもと設立された学校だ。「きのくに」の「宿題がない」「試験がない」「学年の壁がない」などのユニークな教育方針は、このサマーヒルをお手本にしている。サマーヒルを設立したイギリスの教育家A・Sニイルは、子どもたちに対して「自分自身の生き方をする自由」、言い換えると「自己決定」を徹底して認めた。ニイルが自己決定を大切にしていたのは、個性を尊重し、権威にすがることなく自ら考える姿勢を身につけて欲しいと願ったからである。堀さんは実際にニイルに会い、ニイルが亡くなった後もサマーヒルを何度も訪れ、学校の在り方を根本から問い直した。

そしてニイルのほかにもう1人、「きのくに」の教育方針に多大なる影響を与えた人間がいる、J・デューイ(以下、デューイ)だ。デューイは、20世紀前半に活躍したアメリカの哲学者で、プラグマティズムをベースにした教育思想を唱えた。具体的には、衣食住の最も基礎的な活動に子どもが全能力を挙げて従事することを、「活動的な仕事」と名づけた。「活動的な仕事」は機械的な作業ではなく、自発的な知的探求でなければならず、それ自体に価値があることを子どもが実感し、何か別の目的のための手段として利用されてはならないという。

「きのくに」は、サマーヒルを設立したニイルの考え方を中心にして、さらにデューイの体験学習の理論を統合して設計された、従来にない教育方針を掲げる学校である。

いまの教育に必要なことは、自分で考える楽しみ

1984年10月、日本にもサマーヒルのような学校がほしいという堀さんを中心としたメンバー6人は「新しい学校をつくる会」を発足。翌年、「きのくに子どもの村山の家」を開設し、山の家合宿をはじめたのが「きのくに」の原点になっている。学園長の堀さんに、「きのくに」を開校した思いを聞いた。

 私は日本の学校の教育が物足りないと思っていました。何が足りないかというと、自分で考える楽しみをおろそかにしていることです。極端なことを言うと、普通の学校教育では先生から教えられた知識をテストで憶えているか、確認しているだけだと思いました。自分で問題を発見して、考えて、調査して、失敗しながら身につける体験ができる学校がほしいと思ったのです。直接の影響を受けたニイルは世界で一番自由な学校「サマーヒル・スクール」をつくった人ですが、「サマーヒル」のような学校を日本でも設立しようと思ったのです。また、体験学習を中心にしようと考えた理論的な根拠は、アメリカの教育家・デューイの「何事も為すことによって学ぶ」という言葉の通り、実験的に行動を繰り返すことで人は学ぶということにあります。このニイルとデューイの考え方をドッキングして楽しい学校にしたいなあと構想したのが「きのくに」です。その際、無認可の学校だと発信力が弱いので、正式な認可を得た学校にしたいと思いました。


堀さんは、文部省(現・文部科学省)からの認可にこだわった。堀さん自身、いわゆる無認可の「フリースクール」を過小評価しているわけではないが、「こんな学校もある」「こういう教育もある」ということを広く発信するには、国から認可を得た方が影響力があると考えたからだ。

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