シリーズ 未来の学校

開校22年目、子どもたちの自主性からすべてが始まる山間の自由学校

【後編】 自己決定と個性が切り拓いた、卒業生の未来 [3/4]

 自由は楽しく面白い、だけど厳しい

2人目の卒業生は、佐賀直人さん(以下、佐賀さん)。現在、総合商社に勤め、エネルギー部門で石油の輸出入およびトレーディング業務に従事している。

佐賀 小学校3年生の時に小学生新聞を読んだのがきっかけです。自分でクラスや授業を選べる学校として紹介されていた「きのくに」に興味をもち、親に入学をお願いしました。当時通っていた学校も好きだったのですが、大人に言われたことをそのままやるのはつまらないと思っていました。

取材班 「きのくに」で印象に残っていることは何ですか。

佐賀 入学した当初は、意見を求められても自分の意見をもっていないので、ミーティングではとても苦労しました。「きのくに」はミーティングが多く、自ら考えて発言することが求められ、話し合いの中で校則や卒業旅行の内容などが決まっていくことはとても印象的です。

取材班 卒業から現在まではどのようなキャリアを積みましたか。

佐賀 「きのくに」の中学校を卒業後、高校はスイスのボーディングスクールであるLeysin American Schoolに入学しました。自由とは別の厳しさを体験する必要があると、感じたためです。高校在学中は縁あって、また好奇心も手伝い、ケニアでの農業支援やボスニアでの食料緊急支援などの国際協力事業に従事しました。高校卒業後、帰国して大阪府立大学で農業と植物を専攻、大学卒業後の2007年に総合商社に入社しました。入社前にNGO団体で国際支援活動をしていたので、そのような仕事に就きたいと思っていましたが、ビジネスという観点がこれまでの自分に欠けていたため、総合商社を選びました。

取材班 社会で「きのくに」での経験が生きているところを教えてください。

佐賀 今の仕事は、ゼロからビジネススキームをつくることです。誰と話してもいいし、どこの国に行ってもかまいません。とにかく自分で考えることから始まります。調べて、わからないことは人に聞き、自分の考えをまとめて話し合い、協力し実行に移していく。このプロセスはまさに「きのくに」でやっていたことです。壁にぶつかった時に、とことん話し合えば活路を見出せることは、「きのくに」の全校ミーティングや深夜の寮でのミーティングの経験から学んだことです。また、自ら選択して生きていく自由は厳しいのですが、その厳しさを乗り越えるために頑張ることは面白くて楽しいと学べたことは、いまでも仕事をするうえで中心的な考えになっています。

取材班 社会に出て、現在の教育に必要なものは何だと思いますか。

佐賀 自由の面白さと厳しさの両方を経験できる教育です。今は日本だけではなく、海外の知らない人たちと仕事をしなければなりません。子どもたちが自由な発想で柔軟な方法を自ら考え、未知の状況から新しい何かを切り拓くことができる能力の育成を助ける教育が必要ではないでしょうか。


現在、ビジネススキームをゼロからつくるという、自由の面白味と厳しさに直面している佐賀さんの言葉は、胸躍る響きもある半面、しっかりと地に足のついたものだった。高原さんと佐賀さんは「きのくに」を卒業後、紆余曲折はあるものの、それぞれに自分の意志をもち、自分が決めた道を歩んでいる。この2人の卒業生だけで「きのくに」の卒業生全体を語ることはできないが、「きのくに」の教育を人生のベースにしている卒業生は少なくない印象を受けた。

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