シリーズ 未来の学校

過疎からの脱却、地域を復興に導いた教育改革

【前編】 生徒の夢と地域の将来を見つめた、隠岐島前高校の人間育成 [3/4]

 住民参加型の特色あるキャリア教育「地域学」

「そんなことなら小学生でも考えられる。もっと自分ごととして地域の課題解決に取り組んでほしい」――。

隠岐島前高校の「地域学」の授業では厳しい声が上がった。同校の地域学は、地域内外のエキスパートの協力を得ながら、高校生たちがそれぞれの興味に応じてプロジェクトチームを組み、実際の地域の課題解決に取り組む実践的な授業である。

取材班が訪れた日は、生徒たちが約半年間取り組んできた課題の解決提案を、多くの地域住民の前で発表していた。参加者からはプレゼンテーションに対する率直な意見や感想、アドバイスをもらっていた。発言には厳しい意見も多かったが、これらにはむしろ、地域を代表する高校の生徒たちへの期待の裏返しだと感じた。

 住民の心を捉えたプレゼンテーション

「地域学」の発表会では、8つのプロジェクトチームに分かれた高校生たちが、「公民館の有効活用」や「第一次産業の活性化」「魅力的な観光地となる方法」「少子高齢化対策」などバラエティに富んだテーマについて、これまで準備してきたアイデアを発表した。

なかでも、集まった大人たちが高い関心を持った発表は、「島前3島の海岸に流れ着く漂流物が隠岐の海の環境を汚している」と警告したチームの提案だ。

このチームのメンバーは、海岸の状況を肌で感じるため「ビーチコーミング」を体験してきたという。「ビーチコーミング」とは、浜辺に落ちている漂着物を見つけること。すると日本だけでなく、韓国や中国から流れ着いたゴミが多くあることがわかった。また、ゴミが生物に与える影響についても着目。ウミガメや魚、鳥、アザラシなどの命を脅かしているという。

そこで、メンバーらは海岸に打ち寄せられるゴミ問題の解決方法として、まず啓発ビデオの制作を提案した。地域住民や観光客など外部の人間に、ゴミ問題は身近な問題だと訴えかけるためにドキュメンタリー形式で制作することを検討しているという。島前3町村の代表的な海岸を撮影現場に想定、台本作りや制作方法については今後詰めていく予定だ。

海士町役場の環境整備課の職員のひとりが、「ゴミ問題が大きくなっており、いいところに着目している。意識啓発は行政が行ってもなかなか効果はないが、若い世代から発信すれば効き目があるだろう。行政としても全面的に協力したい」と述べた。また、「海外のゴミについては一市町村で解決することは難しいが、ビデオができれば国や県に訴えかける材料になる。ぜひ成功させてほしい」とエールを送る参加者もいた。

参加者からの質問で2つの課題が明らかになる。1つは海外への呼びかけをしなくていいのかということ。これに対してメンバーらは、インターネットを通じて配信、例えば動画投稿サイト「YouTube」を利用すると回答。また、大人の方からは中国や韓国でDVDを配れるような働きかけをしていきたい、というような前向きな意見も出た。 もう1つの課題は、隠岐島前のマイナスイメージとなるビデオを観光客などが見る場所で放映していいのかということ。これについては、逆に観光客にも環境保護活動に参加してもらうきっかけとなるような内容を制作することで対応できるだろう、ということでまとまった。

最後にメンバーは、集まった大人たちに3つのお願いをした。1つめはさまざまな場所でビデオを放映したいので、場所を提供してほしいということ。2つめはビデオ制作についての知識が浅いので、ノウハウを教えてくれる人を紹介してほしいということ。3つめはボランティアを募集したいので、地域のボランティア情報を提供してほしいということである。

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