シリーズ 未来の学校

過疎からの脱却、地域を復興に導いた教育改革

未来を生きる子どもたちは何をどう学ぶべきなのか
そこで大きな役割を果たす学校はどうあるべきなのか
「未来」といっても決して空想や夢物語ではない、実は
もう始まっている先端的な意味での未来の学校を探訪します。

【後編】 教育改革の柱、島留学と公営塾 [1/4]

様々な改革に取り組んでいる「隠岐島前高校魅力化プロジェクト」のなかでも、とりわけユニークなものが2つある。県外から学生を呼ぶ「島留学」と、公営塾「隠岐國学習センター」の運営だ。後編では、島留学の狙いと隠岐國学習センターで実施されている授業「夢ゼミ」の役割と様子について紹介。また、島根県の行政から見た同プロジェクトの評価もレポートする。

制作協力:株式会社百人組 

 「島留学」で地元の生徒に刺激を与える

12:41

隠岐島前高校のある海士町には、のんびりとした空気が流れる。町の人々はお互いによく知った者同士であり、子どもたちは地域の人たちに見守られて成長していく。人間関係が希薄な都会から来た人であれば、そこに新鮮さを感じることだろう。

だが、地域の人たちは危機感を持っていた。島内の中学生とその保護者にアンケートを取り、ヒアリングをした結果、隠岐島前高校には「刺激や競争がない」「多様な価値観との出会いがない」「新しい人間関係をつくる機会がない」といった不満の声が多く上がったのだ。

「隠岐島前地域の生徒だけでは、生まれ育った環境が似ているため均質化した集団になってしまう。関係性の固定化や序列化が起こり、価値観も同質化しやすい。クラス替えもないような高校では、社会に出てから多様な人たちと関係を築く力やコミュニケーション能力が育ちにくい」(魅力化の会事務局長の吉元操氏)。

そこで隠岐島前高校が始めたのが「島留学」。全国から意欲や能力の高い入学生を受け入れたのだ。

島留学の一番の狙いは、異文化や多様性を取り込み、地元生徒への刺激と高校の活性化を図ることである。そのため、島の生徒や学校、地域に刺激をもたらしてくれる意欲と力のある生徒を留学生の対象としている。 全国から来た生徒と島の生徒が高校生活を共にすることで、新たな人間関係を構築し、多様な価値観やものの見方を発見しあえる環境が構築された。お互いに刺激を与え合い切磋琢磨することで、学力や生きる力を相互に伸ばしあうなどといった成果も現れている。

 統廃合の危機から「V字回復」

隠岐島前高校1年生の沼田啓佑君は、海士町で生まれ育った。町がIターン人材を積極的に受け入れ始めたとき、「島の伝統文化が継承されなくなると思い嫌な気持ちになった」。だが、新住民が積極的に町の行事に参加し、町を盛り上げていこうとしている姿を見て気持ちが変わったという。

「それは島留学の仲間も同じ。はじめは少し違和感があったけれど、今はいい友達。島留学の仲間と接することでいろいろな価値観があることを知り、自分の成長につなげていける」と話す。

同じく1年生の松本彩華さんは広島県出身で、隠岐島前地域の豊かな自然に魅力を感じて島留学を決めた。「自然もさることながら、島の友だちとの出会いは私にとって大切なこと。地元にいたときは引っ込み思案な性格だったけれど、島に来てからは、友だちと一緒のときに“素の自分”が出せるようになった」と笑顔を見せる。取材班が隠岐島前高校を訪れたとき、姿かたちはもちろん、会話の内容からも、地元の生徒と島留学の生徒の区別はまったく付かなかった。それほど両者の調和は取れている。

こうして島留学が成功した隠岐島前高校は、2008年度に全学年1クラスで総勢28人まで減った入学者数を、2012年度には59人に増やし、さらに2014年度には全学年2クラスに到達させる“V字回復”を成し遂げた。

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