シリーズ 未来の学校

過疎からの脱却、地域を復興に導いた教育改革

【後編】 教育改革の柱、島留学と公営塾 [2/4]

 高校と連携する公営塾

隠岐島前地域では従前、「島にいると、学力が伸びず大学進学に不利」と考えられてきた。そのため、大学進学を希望する生徒の多くは、中学卒業と同時に島を離れ、本土の高校に入学していた。離島であっても、子どもたちの教育環境づくりが求められていたのだ。そこで生まれたのが、地域と高校の連携型公営塾「隠岐國学習センター」である。

現在、センター長を務める豊田庄吾氏は、福岡県大牟田市出身。大手情報サービス会社で人事や営業、Webプランニングの仕事に就き、その後、人材育成会社に転職。大手企業や官庁の新入社員・若手社員向けの研修講師、経済産業省の起業家教育促進事業で全国300校以上の公立学校にて起業家精神育成の授業を行ったこともある人物だ。2009年秋に隠岐島前高校の出前授業の講師として島に訪れたのが縁で、その半年後に海士町へ移住してきた。

 学ぶ意味も発見できる「夢ゼミ」

「隠岐國学習センターの特徴は3つある」と豊田氏は言う。1つめは生徒一人ひとりに合った学習を行い、生徒の自立と個性の確立に力を注いでいること。「中間テストや期末テストの前に、それぞれの生徒の個性を見極めながら学習計画を自分で立て、試験後には振り返りの勉強を行うようにするなど、生徒一人ひとりに手厚く対応している」(豊田氏)。

2つめは隠岐島前高校との連携。多いときには週に2~3日はミーティングを開くなど、高校教員と密に連携を取り、高校と学習センターで相乗効果が出る学習方法をつくり出している。

3つめは「夢ゼミ」。「夢ゼミとは大学でいうゼミ形式の授業を週に1回開催。生徒が自分の夢や将来について発表したり、ディスカッションをしたりして、その夢に近づくためにはどうしたらいいのか、もっと言えばなぜ勉強するのかを考えさせている」(豊田氏)。

この夢ゼミでは、地域の大人や島外の著名人を講師に招き、生徒たちにその生きざまを語ってもらうことがある。親や教員以外の大人の話を聞くことで、進路の選択肢が多くあることに気付き、学習意欲を増す生徒は少なくないという。

「“グローカル人材”を育てたいと考えている。グローカルとは“グローバル”と“ローカル”を掛け合わせた造語で、地域の課題を解決できる人間は、世界の課題も解決できるようになるという発想に基づく。隠岐國学習センターの卒業生のなかから、隠岐島前地域や日本、さらに世界が抱える諸問題を解決できる人材を輩出したい。この学習センターを“現代の松下村塾”にするのが目標だ」。豊田氏はこう話し、目を輝かせた。

 「夢ゼミ」に潜入

豊田氏へのインタビューを終えた取材班は、夢ゼミの授業を見学させてもらうことになった。夢ゼミは、隠岐島前高校で行われている授業である「夢探究」と連携している内容で、生徒自身が将来について内省・深化していくカリキュラムになっている。火曜日の午後7時半、夢ゼミが行われる隠岐國学習センター近くの公民館には、隠岐島前高校の1年生、約40人が集まっていた。豊田氏から今日の授業のテーマが告げられる。

「君たちの学年として、2014年の目標を3つ決めてください。ただし30分以内で」――。

あらかじめ6つの班に分かれた学生たちは、それぞれの班の仲間と話し合いを進める。すると1人の女子生徒が立ち上がり、「制限時間の15分前までに各班で1つ目標を考えよう」と皆に提案した。すぐに「いいです!」「OK!」という声が返ってくる。

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