シリーズ 未来の学校

石巻市雄勝町のムーブメント、 地域住民と支援者がつくるホンモノの自然学校

【後編】 雄勝の自然学校の先生は、地元の人々 [6/6]

 「過疎の前倒し」を強みにして、モデルケースに

雄勝ローズファクトリーガーデンの徳水さんは言う。外から来た人に、雄勝でゆったりとした時間を過ごしてほしいと。

「例えば、東京の大企業の社員の方々に、『新しいスローな生き方もありますよ』という提案がしたいです。地域の復興と再生の主人公になって、自分たちで新しい町をつくる、その喜びや楽しさがこの町にはあるわけでしょう。そんなふうに人生を見直す機会を与えられるかもしれない。震災ですべてがなくなったからこそできることがあるのです」

雄勝は震災によって過疎化が加速した。日本のほかの地域よりも、過疎が前倒ししたとも言える。徳水さんは雄勝の復興への道を次のように語る。

「雄勝で行うプロジェクトは、全国のさまざまな持続可能な地域復興・再生のモデルになると考えています。また、学校再生プロジェクト以外のプロジェクトも同時に進めることで、それぞれに相乗効果をもたらして地域が復興すると考えています」

最後に、雄勝学校再生プロジェクトのサマースクールに参加したひとりの小学生の詩の一部を引用したい。

三年前はぐちゃぐちゃだった
たいへんだった
家がなくなった人たち
かなしかった
自分のぜんぶがなくなった
いまは仮設住宅にいる

りょうしをやってお金をためたり
みんなじぶんでやっている
まだなおっていない
でもおがつの人はしんかをした

くる人をたのしませる
ほたて、ホヤ、さかな
とってたのしめる

おがつの人はみんなのヒーローだ
あきらめずゆうきをだして、がんばって
ぜんぶの力でなおしている
がんばる人たち
だいじな町をなおす人たち

■ 編集後記 ■

この「学校」の提供価値の1つは、やはり海にあった。

雄勝の桑浜港は朝5時過ぎには活気付いている。そして、6時の時報を合い図に漁船が一斉に港を飛び出していく。目指すポイントは前日に沈めたウニ捕獲用の仕掛けだ。それぞれの仕掛けに向かっているのだが、船は競い合うようにして波を切る。全身で受ける潮風、水しぶきと振動。朝もやと逆光のなか、漁船のシルエットが放射線状に広がっていく。その勇壮な姿に 「狩りにいく」という非日常的な高揚感が湧きおこる。

しかし、ウニ漁参加者はやがて気付くだろう。ここで体験できる海や森での様々な活動は、雄勝の人々の日々の生活そのものであり、地域の風土と文化を背景に連綿と継承されてきたものだということに。都会では人と自然との共生と言われてもピンとは来ない。しかし、生きるために自分で仕掛けて自分で獲って食べるという一連の体験によって、自分と自然との共生関係が理屈でなく腑に落ちてくる。

雄勝学校再生プロジェクトは2014年10月7日、記者発表を行った。蘇った校舎を活用して、自然・食体験ができ、宿泊も可能な複合体験施設「MORIUMIUS」を来年の夏に開業するという内容だ。このプロジェクトは、誰もが参加できる「新しい学校を自らの手で作る」という活動からスタートし成長を続けている。

人間も自然の中で生きる1つの大切な存在であるということを学べる海と森は、震災復興さえバネにしながら人と人が支え合う意味も学べる学校へと着実に進化を始めている。

石坂貴明
ベネッセ教育総合研究所 ウェブサイト・BERD編集長  石坂 貴明

デベロッパーにおいて主に北米でリッツカールトンやフォーシーズンズとのホテル開発に従事。ベネッセコーポレーション移籍後は新規事業に多く関わる。ベネッセ初のIRT(項目応答理論)を使った語学検定試験である中国語コミュニケーション能力検定(TECC)開発責任者、社会人向け通信教育事業責任者等を経て、2008年から(財)地域活性化センターへ出向し移住・交流推進機構(JOIN)事務局および総務省「地域おこし協力隊」制度の立ち上げに参画。2013年より現職。グローバル人材のローカルな活躍、学びのデザインに関心。

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