シリーズ 未来の学校

秋田県発、 リベラルアーツ教育がグローバル人材を輩出する

【後編】 ワールドクラスのリベラルアーツカレッジを目指して [3/7]

 あなたがいる場所が世界の中心

AIUは秋田県の中心部から車で約30分離れた森の中にある。都会で生活していれば簡単に手に入れることのできる利便性はない。しかし、鈴木氏は秋田県の森の中だからこそできることがあるという。

「グローバル化の時代は、個人がクリックひとつで世界に向かって発信できるという意味で、1人対70億人の構図が成り立ちます。これをGIISの原則といいます。Gはグローバル、Iはインスタント、次のIがインタラクティブ、Sがサティスファクションを意味します。つまり、グローバルに瞬時に双方向にコミュニケーションを取り、お互いに満足を得られるという世界です。GIISの原則は、ICTを利用してどこでも実現できるから、あなたがいる場所が世界の中心ですよ、というものです」

今でも東京に立地する大規模大学の多くは、基本的に多くの人が集まる場所で認知されることで学生を集めている。AIUはその逆だ。他の地方と同じように人口が減り、高齢化と過疎化が進む秋田の山の中にある。

「米国のリベラルアーツ教育を実践している伝統的な大学は、ほとんど田舎にあります。不自由な田舎に立地する一方で、少人数教育で非常に丁寧なエリート教育による自由人の育成を実践しています。本学も秋田の田舎で少人数教育を行うことで、ある意味、エリートを育成しており、21世紀の社会に合致しています」

AIUは46カ国・167地域の大学と提携を結び、交換留学生制度を設けている。規模こそ小さいが、東京の大学に通っていては味わえない多様性を体験できる。さらに、秋田という地方だからこそできることがあるという。

「なにも東京にいる必要はないのです。AIUは東京至上主義に対するアンチテーゼを示しています。例えば、地方再生の教育版といえば、本学がピッタリで、そのモデルを提示しています。東京の大規模大学にはできないことです」と鈴木氏は言う。

 秋田県の異文化交流プログラムにも貢献

AIUは秋田県が設立した公立大学だ。大学の取り組みの柱の1つには「地域貢献」がある。この取り組みは、秋田県の教育機関などと連携して、地域社会の活性化や発展を目指す活動だ。今回の取材中に、AIU訪問交流プログラムに参加するため、秋田県大仙市立大曲南中学校の生徒約30名が本学を訪れた。プログラムをサポートするのは、AIU在籍の留学生6名だ。

大曲南中学校の生徒一行は、AIUについてのオリエンテーションを受けた後、6つのグループに分かれた。各グループには1名の留学生がつく。生徒たちは、グループごとに準備してきた地元の特産の話や日本の伝統芸能などの話を、身振り手振りを交えた英語と小道具で留学生に説明している。留学生がその説明について質問すると、生徒が四苦八苦しながらも英語で答える。次は留学生の番。母国の名所や食べ物を生徒たちにわかりやすい英語で説明し、生徒たちも英語で懸命に応じていた

地元の中学校としては、AIUの留学生との交流プログラムに参加することで大学の雰囲気に触れ、自らの将来像を考える一助とすることや、コミュニケーションのあり方と各国の文化を理解する狙いがあるという。

総合的な学習の時間として、今回生徒を引率していた渡部先生は、「地方では海外の方々と接する機会があまりないので生徒にとって貴重な経験になりました。昨年も参加していたのですが、来年以降も続けていきたいですね」と笑顔で話していた。

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