シリーズ 未来の学校

鳥取県智頭町の教育イノベーション、
地域と共生する保護者がつくる「森のようちえん」

 「あぶない」「きたない」「ダメ」「はやく」は禁句!

寺谷さんと面会した日の翌朝9時、所定の集合場所に三々五々子どもたちが集まってきた。保護者と一緒に家から来る子がいれば、園バスで来る子もいる。まるたんぼうには園舎がない。だから、雨の日も雪の日も基本的には森に出掛ける。

全員が揃ったところで園バスに乗り、山道を登ること20分。今日のスタート地点に到着すると、子どもたちは思い思いに芝生の上を走り回ったり、ゴロゴロと転がったり遊び始める。

子どもたちがひと通り遊び終えるタイミングで、保育主任の山中寿広さん(以下、山ちゃん)がアコースティックギターで弾き語りを始めた。

「はじまるよー♪、はじまるよー
まるたんぼうの朝のかいー、はじまるよー♪
はじまるよー、楽しい朝のかいー


山ちゃんが朝の会で弾き語る

山ちゃんが朝の会で弾き語る

子どもたちが、山ちゃんの周りに集まってきた。

「到着して、すぐ集まれっていっても集まるわけがないですから」と山ちゃんはいう。

今では大人からも子どもからも信頼度抜群の山ちゃんだが、最初は子どもたちに教えすぎてしまったという。まるたんぼうに入った当時、先輩からこう指摘された。「自分が一番楽しんでいるのでは?」と。

朝の会はみんなで輪になって座る。

「ネジネジの花(ネジバナ)は、僕がこの時季一番好きな花、とても可愛くてな」と、子どもたちに山ちゃんは優しく方言で語り掛ける、智頭町で生まれ育った山ちゃん。雨が降ってくるこの時季、智頭町にはさまざまな植物があちこちに顔を出す。まるたんぼうでは、大人も子どもも自然の恵みをみんなで慈しんでいる。

 小さな世界の住人にはなってほしくない

朝の会を終えると、子どもたちは今日の目的地の「西村山」と呼ばれる山を目指す。とはいってみても、そこは自由な子どもたち、全員がすんなり移動するわけがない。再び芝生に寝転がったり、近くの花を摘んだり、岩に上って歌ったり、その岩から飛び降りたり好き勝手。自由に動き回る子どもたちに、途中で怪我の心配はないのだろうか。

「子どもたちにとって、今は自分の世界を大きくする段階です。その段階で少々の怪我をするのは当たり前です。常に自分の実力の範疇だけのことをやっていても成長しません。小さな世界の住人になってほしくないのです。森は子どもたちの世界を毎日広げてくれます」と山ちゃんはいう。

 

スタッフの人たちは余程のことがない限り、子どもたちに「あぶない」とか「○○しないで」とは言わない。この日も「もっと早く」とか「あっちに○○があるよ」などのスタッフからの声掛けは一切聞かれなかった。しかし、子どもたちが怪我をしないようなルートを選んだり、グループで移動させたり、常に全員に目を配らせて、徹底して見守りながら誘導しているのはわかる。

筆者の前を歩く子どもが帽子を落としたので、とっさに拾って渡したとき、「今、なぜ拾いました?」と山ちゃんに聞かれた。

小川のイモリを捕まえる子ども

小川のイモリを捕まえる子ども

「僕たちは、今拾った方がいいのかなとか、別に拾わなくても自分でできるかなとか、一旦整理して考えるようにしています」と山ちゃん。

山ちゃんに限らず、まるたんぼうのスタッフは、子どもたちを見守っているときも「どう行動することが、子どもたちにとってベストだろうか」と絶えず考えている。そして、子どもたちのそれぞれの考えと行動を尊重する。

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