今回、山本さんを語るうえで書かせない人物がいる。県立千葉中学の大山副校長だ。先に紹介したカリキュラムにしてもそうだが、彼はこの中学で何を教えるべきかについての強い哲学を持っている印象を受けた。大山副校長への取材から、その哲学を反映した例え話を紹介しよう。
「人には飛行機のエンジンを積んでいる人と、そうでない人がいる。どういうことかと言うと、誰かに引っ張ってもらって滑空するグライダーと違い、エンジンを積んだ飛行機ならば、自分でどこからでも飛び立つことができる、ということ。そうしたエンジンをつくる上で一番大事なのは興味と関心。これが何よりもエネルギーになる。生徒たちの中には、エンジンを積んでいるだけでなく、すでに飛行計画まで立てられる者もいる。中学高校の間に、生徒たちがここまでできれば私は満足だ。そうすれば、卒業してどこの大学に行ってもらっても構わないし、好きな方向へ飛び立ってもらえればいい。もちろん、すべての生徒が自力で飛べるエンジンを持っているわけではないが、今後、エンジンを持ち、燃料も自分で調達でき、飛行計画を立てられる人が少しずつ増えてくれば、日本の将来にも期待できる」
筆者を含め、日本の将来を「心配」していた人々の最大の心配事は、これまでの戦後の高度成長期に最適化された「板書を写して暗記する」教育が、こうしたエンジンを持った生徒達を生み出すのに適していないどころか、せっかく持っていたエンジンをダメにしてしまう危険性すらはらんでいること、そして、それにも関わらず未だに全国の多くの学校で続いている教育の主流であることだと思う。
県立千葉中学はエリート校には変わりはないが、学習指導要領に沿ったカリキュラムの中で「総合的な学習の時間」など、工夫の余地や先生達の心持ちの違いで生徒達を強く動機付けし、「自らエンジンを持ち、飛行計画を立てられる生徒達」を育んでいる。「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という言葉がある。テクノロジーの進歩で環境が急速に変化する今の時代、本当に大事なのは環境がどんなに変化をしても「自分で魚の釣り方を探求できる人に育む」ことだと筆者は思っている。そのためにどんな工夫が出来るか、親も学校も、子供どもらと関わりを持つそれ以外の人々も一度立ち止まって考え、それぞれのできる範囲で工夫をしていった総和がいい「教育」を生み出すのだと信じたい。山本さんと千葉中学の取材を終えて、そんな風に思った。
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