12 「おおさか☆みらいシティ」から考える、「10年後になくなる職業」の意味
-小学生がつくる未来の街を歩いて-

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 自分と周囲を幸せにする仕事を考えよう

「おおさか☆みらいシティ」のモデルとなっているのが、「ミニ・ミュンヘン」だ。「ミニ・ミュンヘン」は、ドイツのミュンヘン市が行っている文化・教育のプロジェクトで、夏休み期間中に、7歳から15歳の子どもたちが「小さな都市」をつくるイベントのことをいう。この街の市民になれるのは子どもたちだけ。子どもたち自身が、希望の仕事に就き、街をつくるイベントだ。今、ミニ・ミュンヘンは「ミニ・シティ」として世界中に広がりを見せている。

この日の「おおさか☆みらいシティ」を主催したのは大阪市教育委員会(大阪市まちづくり・職業観育成体験学習事業)で、事業を受託、企画・運営したのは特定非営利活動法人の「cobon」だった。cobonは、街づくりの体験型ワークショップや、海外での越境学習体験を通じて、子どもと大人のキャリア支援を行うNPO団体だ。イベントの最中、cobonの代表、松浦真さんに「おおさか☆みらいシティ」などのキャリア教育ワークショップを行う背景を聞いた。


インタビューに応える松浦さん

インタビューに応える松浦さん

「大学の時に、就職活動を支援する学生団体の代表を務めていました。当時、学生たちはとりあえず会社に入らなければいけないという考えで、入社することが目的になっている人がほとんどでした。そういう人は、3年ぐらいで会社を辞めてしまう例が多かったですね。

考えてみたら当然です。彼らは入社することが目的ですから。そのとき、働くことと自分の人生にとって大切なものが、つながっているかどうかを考える機会が必要だと思ったのです」と松浦さん。

子どもたちが、もっと自由に自分の仕事を選んだり、つくったりしてもいいのではないか。松浦さんは、あまりにも他人や他人の意見に合わせている学生たちを見て、自分らしさをもっと大切にしてほしいと願うようになったという。その頃、松浦さんは「ミニ・ミュンヘン」の映像を見て、衝撃を受ける。 「子どもたちが、自分で仕事を選び、誇りをもって働いていることが画面を通じて伝わってきました。この『誇り』をもっている様子をみて、このイベントをやる意味を感じたのです」(松浦さん)

松浦さんは経験上、街づくりの体験型ワークショップは、年次の早い段階で導入する方がいいという。特に、小学生ぐらいで体験すると、固定観念もなく、大人のマインドセットが入りにくく、子どもたちにいい影響を及ぼしやすいそうだ。

「他人の意見に合わせて就いた職業で失敗した場合、誰かのせいにしたり、社会のせいにしたり、自分の外側に責任を押し付ける傾向が感じられます。でも、自分で選んだり、つくったりした職業に就けば、他人のせいにはできません。それどころか、自分が楽しく、喜びをもって就いた仕事は、生きがいになるでしょう。子どもたちにはそういう大人になってほしいと思っています」と松浦さんは語った。


会場でファシリテイターを務める小竹さん

会場でファシリテイターを務める小竹さん

この日、松浦さんとともにイベントを切り盛りしていたのが、合同会社「こどもみらい探求社」の共同代表である小竹めぐみさん。彼女は保育園や幼稚園に勤めた経験をもとに、普段、子どもがよりよく育つための環境づくりに力を注いでいるという。このイベントではどのような役割を担っているのだろうか。

「もともとcobonの方々が、ミニ・ミュンヘンをもとにした『子どものまち』というイベントを全国各地で催していました。彼らから、さらにクリエイティビティのある個性的なイベントにしたいという要望を聞き、私たちも参加することになったのです」(小竹さん)

 「こども会議」でしっかり事前学習

今回のイベントでは、事前に「子ども会議」という準備段階に3日間を費やしている。この会議は、そもそも自分が好きなものは何なのかを確認し、それを仕事とつなげて考えることから始めている。子どもたちが、仕事は自分の好きという思いから派生してもいいのだという気持ちになることが大切だという。子ども会議には、イベント当日に参加する約500人のうち50人が参加。当日のイベントの成否は、この50人の準備いかんにかかっていると言っても過言ではない。

この50人の子どもたちが、子ども会議で決める最も大事なことが、ひとり一人の仕事を決めること。その際、運営側がこだわったのは、子どもたちに「仕事に願いを込めてもらう」ことだ。その仕事に就くことで、自分や周りの人間が幸せになってほしいという願いだ。イベントでは、50人ひとり一人が決めた職業をベースに、当日初めて参加する450人は仕事を選んだり、起業したりすることになる。

一方で、今回のイベントは好きな仕事を体験するワークショップではない。自分たちで街をつくり、市民活動を体験して、社会の仕組みを学ぶことが目的だ。
「街づくりを体験するということは、好きなことばかりやれるわけではありません。街に必要なものを考えると、役所や銀行、ハローワークをつくろうという意見が挙がってきました」(小竹さん)

事前の子ども会議では、「けんかアカデミー」と呼ばれる、当日起こりそうなトラブルやハプニングの対処方法についても話し合いが行われていた。例えば、自分のチームの人が仕事をしてくれないときにどうするかなどだ。しかし、運営側には「けんかアカデミー」において、対処マニュアルをつくる意図はなかった。
「『けんかアカデミー』という話し合いの時間を設けたのは、対処方法として何が正しいということよりも、人それぞれに異なる意見があることに気づいてほしかったからです」と小竹さんは言う。

このように、子ども会議での様々な準備を経て、最後は50人全員で店の看板を制作した。そして、初めて参加する450人の仲間たちに思いを馳せて、今日という本番に臨んでいたのだ。

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