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 問題発見能力を養う環境を提供する

このように医進・サイエンスコースで重視しているのは「問題発見能力」や「結論ではなく、そこに至るまでの考え方の過程」だ。

それを実践するべく、例えばGoogle社とは「日常の困ったことを50個挙げる」というワークショップを開催したりもした。最初はそんなにたくさん挙げるのは無理だと言っていた生徒たちも、いざ考え始めるとエンジンがかかり、次々と日常の問題を挙げ始める。
 ある生徒が、「教科書を開いた状態で置いておくと、開いていたページがだんだんと元に戻ってパタンと閉じてしまう」という問題を挙げた。この問題に対してGoogleのエンジニアたちは、教科書の重心を導いたり、ICTを使った解決策をアドバイスしたり、その他の生徒も頑張ってアイデアを出し、生徒たちにとってもGoogleの社員らにとっても有意義なワークショップになったという。

同校では、廊下の壁に研究成果がポスターで貼り出されている

さまざまな問題設定能力を開発するトレーニングを経て、医進・サイエンスコースの生徒たちは、まだ誰も行なっていない研究テーマを設定する。

例えばある生徒は「寿命はどのように決まるのか」という疑問からスタート。まずはインターネットで情報を検索する。検索結果には、科学的に考えてどうにも怪しい情報もたくさん表示される。医進・サイエンスコースでは、「情報」の授業と絡めてWebに出ている情報が必ずしも正しい情報とは限らないという情報リテラシーに関して、情報の信ぴょう性はさまざまであることを教える。

例えば、友達と会話をする時と研究成果を発表する時では、求められる信ぴょう性も異なるということを学ぶ。また、世界で一番新しく、正しい情報はどこにあるのか考えた結果、査読の通った学術論文にたどり着き、それらを精査することで現時点では人類が「寿命」というものについて、どこまで知っていて、何がまだ解明されていないのかを把握し、その中で自分が研究すべきテーマは何かを見出していく。例に挙げた生徒は、寿命に関わるTERT(テロメラーゼ)という遺伝子が再生能力の高いプラナリアで未だクローニングされていないことを見出し、寿命と再生の関係にアプローチすることになったという。

当然、研究テーマは「誰も知らない未知のテーマ」なので先生たちも答えを教えることが出来ない。「このようなスタンスは医進・サイエンスコースだけではなく、本科でも意識されている学び方です」と木村氏は言う。つまり、答えのわからない問いを自ら設定する能力は、科学者の世界だけでなく、これからの予期できない時代を生きるすべての子どもたちに必要な力だということだろう。

 

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