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 「本物」に触れることで高まる探求意欲

医進・サイエンスコースでもう1つ大事にしているのが「本物」指向だ。
 「医師として求められる資質について、調べあげた範囲で私が教えることも出来るが、私が語るのと、実際に医療現場に立つ医師が語るのとでは言葉の重みがまるで違う。生徒たちにはできるだけ本物に触れて欲しいと思っている。そうした本物の一言が生徒たちの一生を変えることもある」。だから、必要であればバチスタ手術で有名な須磨久善先生を招いてディスカッションを行い、ある時は京都大学の山中伸弥教授が所属するiPS細胞研究所に生徒を連れていくなど、生徒が本物の知性に直接触れられるように常々心がけていると、木村氏は語る。

広尾学園教務開発部長の金子氏によると、医進・サイエンスコースは広尾学園の中でも特別な存在だが、このコースの先進性が、本科での教え方にも影響を及ぼしているという。「生徒たちを本物の知識に触れさせる」という点で言えば、同校で年に一度開催される「スーパーアカデミア」というイベントがそのいい機会だ。

「最先端と最前線の超一級講座」と銘打ったこの講座では、本科、医進・サイエンスコース、インターナショナルコースの高校生たちに加え、中学生らも一緒になって参加でき、ロボット工学者からスーパーコンピュータの開発者、ジャーナリスト、海洋学者、宇宙物理学者、被災地支援の活動をしている人、脳科学者、核融合の研究者など約20種類の分野の最前線で活躍する人を同校に招いて、直接講義をしてもらう。実は筆者も講師として2回招かれたが、生徒たちの学びへのモチベーションと熱意には大変驚かされた。

生徒たちを本物に触れさせることで、熱意を持って取り組める対象を見つける機会を与え、それがきっかけで強い探求意欲を養ったら、今度はそれを軸に統合的な学習や問題に取り組む姿勢を教えていく。

広尾学園の教育は大学入学という目先の目標のためだけでなく、生徒たち一人ひとりの人生においても大事な糧となるだろう。従来の枠を変えて、こうした学びのダイナミズムとモチベーションを与えることが正しいか否かは、一人ひとりの意欲に満ちた生徒たちの顔を見れば分かる。


日本の教育における課題は、中高の教育から、大学が優秀な高校生を適正に評価し受け入れられるかどうかにSHIFTしてきている。


 

 

 

 

 

 

 

【筆者プロフィール】
林 信行(はやし のぶゆき)
ジャーナリスト
最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。
国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えて、米英仏韓などのメディアを通して日本のテクノロジートレンドを紹介。
また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。
ちなみに、スティーブ・ジョブズが生前、アップルの新製品を世に出す前に世界中で5人だけ呼んでいたジャーナリストの1人。
ifs未来研究所所員。JDPデザインアンバサダー。

主な著書は「ジョブズは何も発明せずにすべてを生み出した」、「グーグルの進化」(青春出版)、「iPadショック」(日経BP)、「iPhoneとツイッターは、なぜ成功したのか?」(アスペクト刊)など多数。
ブログ: http://nobi.com
LinkedIn: http://www.linkedin.com/in/nobihaya

 

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