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 遠隔授業でも可能な、ぬくもりのある授業設計

40分の授業の中で3回のデザイン選挙を通して、その日の「プロダクト」の詳細が決まっていく。遠隔授業で選択式問題を提示して、その場で生徒に答えさせることは珍しくない。ただし、通常、こうしたやりとりの多くは、コンピュータで入力された単語や文章の選択肢、あるいはコンピュータグラフィックス(デジタル画像)を使うことがほとんどだ。

これに対して「はじまりのプロダクト」では、手間ひまかけてつくった紙細工を用意しそれをカメラに映すというなんともアナログなアプローチ。でも、これが画面越しとはいえ人間のぬくもりを感じさせ、いい味わいを出している。なるほど小さな子どもも参加していることを考えると、そうしたアプローチにも納得がいく。昨今、コンピュータグラフィックスの表現が主流なIT機器の画面で見ると、かなり新鮮な印象を覚える。

生徒たちがiPadの画面越しで見るだけの教材としては本当に手間ひまかかっているが、於保氏自身は楽しみながら毎日少しずつ準備をしているので、多くの時間を費やしている自覚がない、という。

ところで、遠隔授業はモニタを通して授業を傍観している形に陥りやすい。だからこそ、生徒たちに授業に参加しつづけてもらうために、「はじまりのプロダクト」では小道具を使った演出だけでなく、生徒たちとのちょっとしたやりとり、授業のテンポ感にいたるまで、随所に工夫をしている。

そもそも「デザイン選挙」を4択と決めたのも、3択だとバリエーションとしては少なすぎるし、5択だと授業としてのテンポ感が悪くなるからだそうだ。4つの選択肢で選挙を行なった直後には「お、1番が人気やね」という具合に生徒たちの反応に対して先生から言葉を返す。こうすることで生徒にも、今、この瞬間、画面の向こう側に本物の先生がいて、ちゃんとこちらのことも見ているのだな、という認識が生まれ、授業への参加意識が高まる。

また、基本的には生徒たちのプライバシーを守るということもあり、授業で話し続けるのは於保氏ただひとり。そこで、「ヒラメ菌」という彼女の相方のキャラクターを誕生させたのもユニークなアイデアだ。「ヒラメ菌」は、彼女のトークに対してふきだしのセリフでリアクションをとる。ふたりのやりとりは、掛け合いとして進行を円滑にして、授業そのものに奥行きもあたえている。

「授業内容については、まだまだ発展途上で開発途中」ということだが、今後は、ロケに出て入院中は触れる機会の少ない外の景色を届けることや、警察官や消防士、漫画家といった多様な職業のゲストを招きたいという目標もある。

 

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