震災をバネにする石巻、
街そのものが大きな学校へ

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 ハッカソンで変わった高校生の将来

石巻ハッカソンでは、若い世代にプログラミングを教えようという狙いのイベントを2012年7月末の第1回目から併催している。中高生を対象にした「IT Bootcamp」というイベントや「ISFC(ISHINOMAKI SHOGAKUSEI FREE CHALLENGE)」という小学生のアイディアを大人がスマートフォンアプリ化して、開発に興味を持ってもらおうという内容だ。

ハッカソンの会場は、古山氏の母校で、2012年の第84回全国選抜高等学校野球大会で21世紀枠として春の甲子園大会に出場したことでも知られる石巻工業高校。イベント期間中、校舎の1フロアが全国から集まったエンジニアたちで埋め尽くされる。そんな中、コンピュータがずらっと並んだ教室1つだけは、学生服を身にまとった中高生に占拠されている。ここが「IT Bootcamp」の会場だ(ISFCは、もう少し早めのスタートで長い期間をかけて行われている)。

プログラミング経験がない人でも、比較的簡単にゲームがつくれるプログラミング言語に「コロナ」がある。IT Bootcampは、中高生がハッカソンの会期中にコロナのプログラミングを覚えてゲームをつくり、大人のプログラマーと一緒に発表しようという主旨のイベントだ。

IT Bootcampの開始年に参加した中高生はたったの10人だったが、講師は、日本トップクラスのITエンジニアである及川卓也氏、東北の会津若松発のITベンチャーGClue社の佐々木陽代表、石巻工業高校が採用しているコロナの教科書の著者が属する日本コロナの会の山本直也氏と小野哲生氏、複数の企業に勤めながらイトナブの理事にも従事している高橋憲一氏の5名が参加した。つまり、中高生10名に対して社会の第一線で活躍する5名のエンジニアが付くという、なんとも贅沢な体制でスタートを切ったのだ。

【今年も集まった第一線で活躍するエンジニアたち】

この時の中高生10人の中に、「デルシオ」の愛称で呼ばれるアプリ開発者の中塩成海さんがいた。彼は当時、ITといえばネットゲームをすることくらいしか興味がなかった。学校では簡単なプログラムを勉強していたので、石巻工業高校の卒業後はそのスキルを生かして地元企業へ就職しようと考えていたという。

しかし、IT Bootcampへの参加で彼の人生は一変する。スマートフォンアプリを開発する術を学ぶうちに、プログラミングの面白さに目覚めたのだ。しかも、IT Bootcampを通して第一線で活躍するソフトウェアエンジニアたちと交流し、彼らのカッコイイ背中を見ているうちに考え方が変わり、すぐに就職するのではなく、大学に進学してさらにプログラミングを勉強することに決めたのだという。現在ではイトナブの活動にも参加し、小・中学生のアイディアをアプリに変えるISFCでもプログラミングを行っている。

実は、これこそイトナブ代表の古山氏が狙っていることだった。古山氏は「持続的な活動のためには、街の中で自活できる循環システムをつくらなければなりません。だからこそ『教わったら、次の世代に教える』ということが大切です。特に、若者が若者に教えるという活動方法をとっています」という。多くの子どもたちが外で元気に遊んでいる時代を知る現在40歳以上の人々には、何でも教えてくれる地元の兄貴分から、人生や遊びについてのイロハを学んだ経験を持つ人が多いのではないだろうか。

その点ではイトナブのおかげで、石巻にはプログラミングというこれからの時代をつくるIT産業で必須のスキルを教えてくれる兄貴や姉御がいっぱい誕生している。古山氏はこうも言う。「小さくとも歯車が回り始め、止めることなく回し続けることができれば、いつしか大きな歯車が動くと信じて邁進しています。 1人のスーパースターの周りには100人以上の人が集まります。そういったプレイヤーを少しでも多く育て、石巻に新しい産業をつくりたいです」

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