テクノロジーとオーダーメイド教育が、
障がいを持つ子どもの学びの意欲を生む

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 新しい教育支援が障がい者の学びを変える

実際、山口氏は授業をどのように行っているのだろうか。普通の学校と大きく違うことは、障がいを抱える生徒の学習課題はひとくくりにできない点だ。山口氏はいう。

「この学校には脳性麻痺の障がいを持った生徒がたくさんいます。生徒によっては、車椅子を自分で漕いで移動でき、文字を書ける子もいますが、ペンを持つことさえできない生徒もいます。また、知的障がいを抱えている生徒も、そうでない子どももいる。教科の学習はできるけれど、身体的に教科書をめくることができない生徒の場合、どうやって教科書を使ってもらえばいいのかなど、日々課題を抱えています」

彼が受け持った生徒のひとりは両手を動かしづらいため、代わりに口を使うことがある。

「学生時代にお世話になった同様の障がいを持った人から、口でIT機器を操作するためのマウススティックという道具の話を聞きました。これが使えるのではないかと思ったのです。そこで、作業療法士の先生や理学療法士の先生、保護者の方に相談しました。小学生に使う場合、歯の成長への影響もあるので、歯科医の先生にも相談して1日2時間ぐらいであれば大丈夫だというお墨付きも貰いました。それが、これです」

そう言って出してくれたのが、軽くて丈夫で、長時間使っても歯に悪い影響を与えない材質を選ぶなど、自ら工夫を重ねて手作りしたマウススティックだ。タブレットのタッチスクリーンに触れて反応させるため、先端には導電スポンジが取り付けてある。実際にその生徒が勉強している様子を、記録動画で見せてもらった。机の上に立てたiPad、その正面には車椅子にシートベルトのようなもので体を固定された生徒が座っている。両手が折れ曲がったままで自由が利かないその生徒は、口にスティックをくわえている。先生が教科書の一箇所を指し、「この言葉を調べてみましょう」と言うと、器用にスティックを動かしてiPadのホーム画面から辞書のアプリを起動して、文字の入力を始めた。

「例えば肢体不自由の子どもは思うように手を動かすことができません。普通の学校だと、生徒は自分で教科書をめくったり、板書をノートに取ったりしますよね。この学校の子どもたちにとって、そういう基本的な動作は難しいことです。ところが、タブレットを使えば、指1本でページがめくれ、タイピング操作でメモが取れるのです」

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