テクノロジーとオーダーメイド教育が、
障がいを持つ子どもの学びの意欲を生む

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 自分から支援を求める「主体性」が見えてきた

最先端の事例をつくり続けている山口氏だが、課題と感じていることもある。 「担任になれるのは基本的に1年間です。重要なのは継続的な支援ができることです。そうなると、次の年にうまく引き継げるかどうかがポイントになります。1年間だけいろいろなことをやるのではなく、学校として卒業まで生徒の将来を見据えた取り組みを続けることが必要でしょう。そういう点ではまだまだだと思います」

大型モニタに映したゲーム機を使った
インタラクティブ教材

特に難しいのは中学部以降だそうだ。

「赴任当時、最初の2年間は小学部、その後去年までの2年間は中学部にいました。中学部は教科担任制なので、小学部のようにずっとクラスにいられるわけではありません。小学部では常にITツールを使えたのですが、中学部は教科が変われば学習スタイルが変わります。そうするとフォローが大切になってきます」

また、山口氏は、テクノロジーを導入することで子どもたちにどのように変わってほしいのか、期待をこめて次のように語る。

「目指すべき方向性は、生徒自身が環境に対して支援を求めることができることです。生徒が自分から求めるようになれば、学校そのものも雰囲気が変わるのではないでしょうか」

 先進的な取り組みをしている先生たちと情報共有を

もうひとつの課題は、日々増え続ける障がい者に役立ちそうな最新の技術情報や、そういう技術の役立て方やノウハウなどの情報をいかに共有するかだという。子どもたちへの支援の方法については、外部の専門家の話を聞いたり、保護者の意見を聞いたり、1クラスに2~3人の教員がいるので、彼らと協議を進めている。しかし、学校から一歩出て、他の学校との情報共有はというと、「沖縄という狭い島でも、地域が少し違う、公立と私立の違いがあるというだけで、ほとんど交流がありません」とのこと。しかし、その交流を変えたのがfacebookなどに代表されるソーシャルメディアで、そこでの新しい出会いからイノベーションが生まれるのではないかと山口氏は見ている。

「最近考えているのは、沖縄だからこそ生まれる『ガラパゴス的進化』です。特徴的な文化・人柄を持つ風土だからこそできる教育のイノベーションがあるのではないかと。そのための人的リソースが沖縄にはあると感じています」

山口氏はソーシャルメディアでの積極的な活動のほかにも、2013年から、東京大学とソフトバンクとエデュアスという会社と共同で、障がいを持つ子どものためのモバイル端末活用事例研究を行う「魔法のプロジェクト」という研究を進めているという。

さらにアップル社の各国語公式ホームページで本学の取り組みが紹介されたのを機に、同じビデオに登場していたチェコやニューヨークの特別支援学校の教員たちとも交流が生まれた。

山口氏は情報交換の中身についても言及する。

「県外や国外の先進的な取り組みをしている先生方とも情報交換をしています。新しいツールの活用は、最初は自らいろいろ試してみるところから始め、事例を積み上げていきます。その過程ではもちろん、失敗もあります。例えば『子守』をiPadにさせてしまうようなやり方は誤った方法だと思います。こういう失敗例は日本だけの問題ではないので、世界中でシェアできるといいのではないでしょうか。良い事例だけでなく、悪い事例のシェアも大切だと思います」

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