「ICT」は目的ではない、
生徒と教員が共に学び、
共に未来を描く学校

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2010年、スティーブ・ジョブズがiPadを発表すると世界中が色めき立った。とりわけ興奮していたのは出版業界や教育界で、これまでのやり方では限界を感じていた人々だ。特に、多くの教育者がこの「iPad登場」を旗印に教育改革に身を乗り出し、導入する学校が相次いだ。その中には素晴らしい事例をつくっている学校がいくつかあるが、すべての学校がいい成果を出しているわけではない。

だが、世の中全体がICT化で大きく変貌する今、この時代を生きる世代はその性急さよりも「未来の世代のための教育」を生徒たちと一緒になって試行錯誤し、デザインしていくことこそが大事なのではないか。今回、そんなことを改めて実感させてくれたのが近畿大学附属高等学校・中学校でのiPad導入事例だ。同校の取り組みは、iPad導入の成功事例という以前に、21世紀初頭の学校のあり方にも大きなヒントを与えてくれそうだ。

【取材・執筆】 ジャーナリスト・林 信行
【企画・編集協力】   青笹剛士(百人組)

 子どもは、未来からの預かりもの

ここ数年、教育機関でのタブレット導入が大きな話題となっている。メディアでは素晴らしい事例をつくった学校が話題になるが、すべてがうまくいっているわけではない。

増え続ける事例で散見されるのは、タブレットの導入台数にしか興味がない販売会社、どのタイプのタブレットでどんなアプリを使っているかが最大の関心事のテクノロジスト、そしてライバル校への対抗心やタブレットを入れれば教育の21世紀化が達成できると安易な夢を見る学校経営者のいびつなキャッチボールで進むことも少なくない。

近畿大学附属高等学校・中学校(以下、近大附属)は大阪府東大阪市にある、生徒数高校約3000名、中学校約850名の中高一貫のコースをもつ学校だ。先日日本の学校として初めてApple Distinguished Programに認定された。

このプログラムは、イノベーション、リーダーシップ、最善の教育に関する条件を満たし、模範的な学習環境のビジョンを体現する学校を米国アップル社が選定するものだ。2月28日(土)、アップルストア銀座にて、「iPadと進化する学校教育」と題して、本学のICT教育を紹介するイベントを行うなど、今、教育界の耳目を集めている。

近大附属では、2013年度の高校1年生への導入を皮切りに、2014年度は中学校1年生から高校1年生までの4学年にも配布、高校3年生を除く約3000名にiPadが渡った。同校のiPad導入にはどのような背景があるのだろうか。

岡崎忠秀校長は次のように話す。

アップルストア銀座の教育イベントで
登壇する岡崎氏

「教員は、子どもたちは、保護者からはもちろんのこと、『未来からの預かりもの』であるという意識を持たなければいけません。子どもたちが社会に出た時、世の中はどのようになっているのか、それを見通せるように教員は勉強する必要があります。これは学校の責務です。

先日、世界最大の会計事務所『デロイト』と未来に関する調査研究を行う『オックスフォード大学マーティンスクール』は、イギリスの全労働人口の3人に1人はロボットやコンピュータによるオートメーションに仕事を取って代わられる可能性があるという報告書を発表しました。こうした流れがあるにも関わらず、学校はいまだに保守的です。どうしても、失敗とリスクばかりを考えます。これでは子どもを預かっている責務が果たせません。本校では、成功ともたらす効果に軸足をおいて今の改革を進めていきたいと考えています」

近大附属が数あるタブレットの中から、あえてiPadを選んだ理由については「iPadは、自ら学ぼうという意識を持たせてくれる道具だから」だという。iPadの生みの親、スティーブ・ジョブズは、デジタルツールは単に便利さをもたらすだけではなく、「自転車」のように、ペダルを漕ごうとする「意思」を持つ人たちの能力を拡張する道具にしたいと願っていた。 その思いは岡崎氏にも伝わったようだ。

 

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