「ICT」は目的ではない、
生徒と教員が共に学び、
共に未来を描く学校

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 授業だけでなく、生活すべての場面で活用する

生徒たちが日々、校内でiPadを使う様子について、岡崎氏はこのように語る。

「iPadによって反転授業なども実現できたが、勉強だけではなく、生活するうえでも使いなさいと伝えています。このところ、体育祭、文化祭などの学校行事はもちろん、放課後のクラブ活動、自習室、食堂、登下校などあらゆる時に自由自在に使っている様子を見て、生徒と学校全体に膨らみが出てきたなあと実感しています。教員にとっては、iPadは教育助手であり、生徒にとっては友であり、体の一部であり、将来の活躍を強力にバックアップしてくれるものだと思います。iPadは教育の未来を切り開くものでしょう」

同校の高校1年生、森田陽子さんの話はこれと合致する。彼女によると、iPadに入ったCyber Campusというアプリには、PDFという形式で電子化された教科書や宿題、プリント、バスの時刻表、定期テストの範囲表、時間割など、学校生活に関わるあらゆる情報を収めているという。

アップル心斎橋の教育イベントで登壇する森田陽子さん

「体育祭や文化祭といった行事の写真や補習の板書の写真も入っています。また、教科によっては、問題演習を解説した動画もあります。

これは実際に先生が解説しているところを私が撮影した動画です。先生には『あまり、顔を撮らないでね』と言われましたが(笑)。家に帰っても見ることができるので、定期テスト対策に助かっています」

Cyber Campusは、教育ICTソリューションの製品で、他校にも導入されているかもしれない。だが、彼女の次の言葉が、この学校ならではの英断を感じさせた。

「この学校のICT教育ですが、厳しい制限がありません。これは、私たち生徒一人ひとりが、私たちに合った使い方を見つけて欲しいという、先生たちの思いから来ています。しかし、自由だからこそ、私たちが間違った使い方をしてはいけません。けじめをつけることが大切です」

学校によっては、授業で使うiPadにゲームアプリなどを入れることを禁じているところもあるが、同校ではそうした制限は設けていない。

 ルールはたったの1つだけ

理科の教員で、高校1年の担任やICT教育推進室の委員も兼務する千川慶史氏によれば、同校が生徒のiPadに対して定めているルールは「17歳以上向けのアプリは使わないこと」というただ1つだけで、それ以外は自由に使ってよい。ちなみに、学校側は、iPad集中管理システム(Mobile Device Management=MDMソフトなどと呼ばれる)で、ジェイルブレイクという不正利用がないかなどの簡単な監視は行い、保護者には有料アプリを買ってもらう時にはクレジットカードを使わず、プリペイドカードを使うように指導している。

それで問題は起きないのか?最初のうちは保護者や教員の間でも、勉強道具であるはずのiPadにゲームなどを入れて遊んでしまわないかと心配する声があった。実際、2013年度に一度だけ、iPadを導入する以前からSNSに依存していた子どもの保護者から心配する声があがる。しかし、この問題は生徒間のやりとりによって間もなく収束した。

アップルストア心斎橋で登壇する千川氏

学校では、iPadの活用について教員の側から指導するのではなく、生徒自身が務めるICT委員という役職を設けて自治させるように促したところ、これがうまく機能した。

ICT委員はiPadなどのITツールの活用を研究し、iPad活用マニュアルを作成し、ネットモラルやマナーを普及させ、オープンスクールなどで発表しているという。先のSNS依存の問題では、ICT委員がゲームやSNSの利用について話し合い、依存していた生徒を正しく導いたという。

森田哲教頭によれば、これまで同校ではケータイの持ち込みですら、禁止していたという。その一番の理由は、SNSによるトラブルを心配してのことだった。「持ち込みを禁止していたところで、学校外ではトラブルが起きる可能性はあります。『学校としては禁止している』というスタンスでしたが、ある意味、無責任な対応だったと思います」

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