医療をも革新的に変える
可視化技術と学びの本質

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 リアルな3Dモデルを触ると、命を慈しめる

この頃から、杉本氏は「可視化から可触化」を唱え始める。

3Dモデルを手に取ると、視覚とそれ以外の感覚も使って、実感が沸きやすいのに加えて、心理的にも大きな効果があるのだという。実際、杉本氏から自分の身体の人体標本モデルをもらった学生の山本恭輔さんは「自分の体を手にしたことで、より自分の体を意識するようになり、慈しむようになり、医療そのものへの関心も高まった」という。

実際にスキャンしたデータからつくった
胎児の3Dモデル、右側が双子のモデル

杉本氏は医療の付加価値をあげるサービスとして、妊娠している母親のお腹の中にいる胎児の3Dモデル化も行っている。

「先日、妊婦のお腹をスキャンするとお子さんが双子でした。これを見てください。お母さんのお腹の中に双子が抱き合うようにして収まっているでしょう。こういうのをみると、命は大切にしなければならない、という思いも強くなると思います」と杉本氏。

「これからはこういったモデルを小学校や中学校の理科などでも使うようになれば、命の尊さに対する実感も沸くし、イジメや命を粗末にするような行いも減るかもしれません」

 様々な手術シミュレーションが可能に

最近では、杉本氏の生体質感造形は、さらに一歩進んで、ウェット素材の臓器模型の中に血管の模型を通すことにも成功している。このモデルを使った模擬手術では、電気メスで切開すると出血を再現でき、実際の手術での生体の変化も再現できる。

これまでできなかったリアルな手術のシミュレーションが、まったく倫理的に問題のない形でできる。生体質感造形は、これまでの学習教材が平面的だったこともあり、どうしても縛られがちだった従来の発想に、立体的な感覚を持ち込むことに貢献した。

こんな話がある。杉本真樹氏の友人の1人が鍼治療に行ったところ、体の中に針が残ったまま取れなくなってしまったという。整形外科に行っても針の周りに動脈や多数の血管があるので、「抜かない方がいい」と勧められたという。これを聞いた杉本氏は、3Dプリンタで友人の体の造形を行う。できた模型を見て、針をどの向きに抜けば安全に抜けるか瞬時に判断でき、無事に抜くことができた。この話などは、最先端医療と同時に「医は仁術」を地で行くエピソードだ。

ちなみに、最近注目されている医療用ロボットによる遠隔手術は、患者の体にロボットアームを挿入して、執刀医が遠隔操作するものだ。この技術は、無医村や人工衛星内での手術などへの応用が期待されている。ここでも、人体の3Dモデル化は、ロボットによる手術の発展にも大きく貢献しているという。あらかじめ生体質感造形モデルを使ってロボットによる模擬手術を行えば、患部までアームが届くか、回りこめるか、複雑な縫合ができるのかなど、事前に試すことができるからだ。

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