グローバル教育研究室

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第6回 小学校で英語が正式教科となるのか?

2013年06月03日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 グローバル教育研究室
主任研究員 加藤 由美子

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政府は5月28日に公表した教育再生実行会議第3次提言の中に、小学校英語を教科化する方針を盛り込みました。この方針は実現するのか、また、教科化が実現した場合、子どもたちにはどのような影響があるのかを整理してお伝えしたいと思います。

教科化は決定したことなのでしょうか?

一部メディアの報道からは、あたかも決定したかのような印象を受けますが、正式に決定したものではありません。教育再生実行会議の提言を踏まえて、中央教育審議会で具体的な方策が検討され、答申が作成されます。文部科学省はその答申を受けて検討・決定していきます。

教科化となれば、いつから行われるのでしょうか?

すでに2011年度から小学校では5・6年生に、教科ではない「外国語活動」の授業が週1回行われています。提言では、それを教科に変更するとともに、授業数の増加や実施学年の早期化などの検討を求めています。

教科化には準備時間と予算確保が必要です。中学校や高校を含めた英語教育の目標、指導内容、評価方法などのカリキュラムを準備することや、約40万人の現役教員の研修や小学校教員養成課程での小学校英語の科目必履修などの準備も必要です。また、グローバル化に対応した能力目標のあり方の検討、授業時間数の確保、ICTの利用の仕方など、学校教育全体の枠組みの中で越えなければならないハードルはたくさんあります。

提言の中に「学習指導要領の改訂も視野にいれ」という文言があります。英語の教科化単独ではなく、次期学習指導要領改訂の全体の動きの中で検討と準備が進むことになるでしょう。学習指導要領改訂はだいたい10年に一度行われてきていますので、過去と同じ流れであれば、教科化は2018年頃に告示され、2021年頃に施行されることになります。しかし、政府の危機感からそのスピードが早まるかもしれません。

一方で押さえておきたいのは地方自治体の動きです。教科化が仮に2021年に実施になるとしても、東京都品川区や金沢市などがすでに小1からの英語教育を実施しているように、「教育課程特例校」の指定を受けて特別に英語教育を実施することが可能です。また、文部科学省の調査によると、2013年度実施の小学校教員の採用選考で英語の実技試験は21都道府県で行われる予定で、毎年増えてきています。2021年に先駆けて、地方自治体が英語教育施策を積極的に打ち出してくる可能性はあります。保護者の方は、お住まいの自治体独自の動きにも関心を持っていただくとよいと思います。

教科化されると子どもたちには何が起きるのでしょうか?

現在小学校で実施されている「外国語活動」の目的は、コミュニケーションへの態度の育成などですが、教科になると、英語の知識やコミュニケーション能力自体を育成することが目的になります。そのために検定教科書が使用され、数値による評定、いわゆる成績がつきます。中学校受験の科目になることも考えられるでしょう。

ベネッセ教育総合研究所が2011年10月、インターネットで中1生に行った調査では、小6の時、学校の英語が好きだった割合は、「とても」と「まあ」を加えて62.9%でした。好きでなかった理由は「もともと興味がなかったから」が56.0%、「授業がつまらなかったから」が31.4%、「授業が難しかったから」が21.4%と続きます。

能力目標という評価基準が明確に設定され、数値で評価を受けることになれば、小学校の英語が好きだという数値がさらに落ち、いわゆる「英語嫌い」を早くから増やすことも懸念されます。教科化を進める場合、他教科との連携も踏まえ、発達段階に応じた内容やテーマの設定や、「聞く」「話す」活動を十分に行った上で「読む」「書く」指導に段階的につなげるカリキュラム作りなど、子どもにとって興味深く、難しいだけで終わらない授業をデザインすることが期待されます。

現在の世界は、すさまじいスピードでグローバル化が進んでいます。保護者の方には、学校教育の中での英語教育の変化に敏感でいていただくとともに、英語教育の問題を学校教育の問題にとどめず、これからの社会を生きる子どもたちの可能性を広げるものとしてとらえていただくとよいのではないでしょうか。家庭においては、英語でのコミュニケーション能力を高める素地作りとして、子どもと一緒に、英語や外国の文化に触れる機会を設けるなどの具体的な取り組みを始めてみられてはいかがでしょうか。

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著者プロフィール

加藤 由美子
ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、大阪支社にて進研ゼミの赤ペン指導カリキュラム開発および赤ペン先生研修に携わる。その後、グループ会社であるベルリッツコーポレーションのシンガポール校学校責任者として赴任。日本に帰国後は「ベネッセこども英語教室」のカリキュラムおよび講師養成プログラム開発等、ベネッセコーポレーションの英語教育事業開発に携わる。研究部門に異動後は、ARCLE(ベネッセ教育総合研究所が運営する英語教育研究会)にて、ECF(幼児から成人まで一貫した英語教育のための理論的枠組み)開発および英語教育に関する研究を担当。これまでの研究成果発表や論文は以下のとおり。

関心事:何のための英語教育か、英語教育を通して育てたい力は何か

その他活動:■東京学芸大学附属小金井小学校、島根県東出雲町の小学校外国語活動カリキュラム開発・教員研修(2005~06年)■横浜市教育委員会主催・2006教職キャリアアップセミナーin 横浜大会講師(2006年)

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