グローバル教育研究室

ベネッセのオピニオン

第13回 中学校英語の課題は何か?
~教科化の動きがある小学校英語と「授業は英語で」の高校英語の間で~

2013年07月19日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 グローバル教育研究室
主任研究員 加藤 由美子

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2013年4月から高校英語の授業は英語で行うことを基本とすることになりました。また5月末の政府の提言の中で、小学校英語を教科化する方針が出されたことも記憶に新しいところです。小・高の英語教育がメディアに注目される一方で、その間にある中学校英語のことはあまり取り上げてられていません。では、中学校英語の役割は何で、そこにはどのような課題があるのでしょうか。

中学校英語の役割 ―英語コミュニケーション能力の基礎を養う―

小中高の学習指導要領によると、関心・意欲・態度などの育成を主な目標とする小学校外国語活動に対して、中学校は、聞く、話す、読む、書くという英語でのコミュニケーション能力の基礎を養うことを目標にしています。そして高校では、英語で情報や考えなどを適確に理解したり、適切に伝えたりするコミュニケーション能力を養うところまで目指しています。小学校で固めた基盤の上に、中学では能力の基礎を作り、高校ではそれをさらに実践的に高めていくというつながりの中で、中学校英語がとても重要な役割を担っていることがわかります。2012年度からは中学での英語の授業時数が週3から週4回へ、また語彙数も900語から1200語程度へと増えました。中学での英語コミュニケーション能力の育成を重視しての変更です。

中学校英語の課題(1) 入り口 ―早期からの英語嫌い

ベネッセ教育総研が2011年10月に中1生を対象に行った「小中学校の英語教育に関する調査」 では、小6の段階ですでに36.2%、中1秋の段階で42.0%が「英語は好きではない」という回答をしています(図1)。2006年11月に中2生を対象に行った「第4回学習基本調査・学力実態調査」 では、教科の学力が「上位」の生徒ほど、その教科を「好き」とする比率は高く、英語では特に「上位」と「下位」で「好き」の比率の差が大きいという結果も出ています。「好きこそものの上手なれ」という言葉もありますが、中学1年生段階で英語嫌いが5割弱存在するということは問題であると言わざるを得ません。

図1. 学校英語の好き嫌い
問.学校で学ぶ英語は好き

中学校英語の課題(2) 出口 ―コミュニケーションの中での活用力や発信力の不足

国立教育政策研究所が2010年11月に中3生を対象に行った『特定の課題に関する調査(英語:「書くこと」)』 の結果のポイントの中で「疑問文や否定文の形式について理解している生徒の割合に比べ、コミュニケーションの中でそれらの文形式を正しく使うことができる生徒の割合が低いこと」「まとまった内容の文章は書けても、文と文のつながりを工夫して展開することが十分身についているとはいえないこと」などが課題として報告されました。文法の知識を習得していながらコミュニケーションの中で使うこと、また自分の考えをわかりやすく発信する力には課題があると指摘されたのです。

中学校英語の課題の背景にあるもの ―英語の勉強はテストや入試のため

学習早期からの英語嫌いや、コミュニケーションの中で英語を活用したり、発信する力の不足がなぜ起きているのでしょうか。

「小中学校の英語教育に関する調査」では、小6の時に英語が好きでなかった理由は「もともと興味がなかったから」が最も多く、56.0%に達しています。また、中1生が英語を勉強する理由は「英語のテストでいい点をとりたいから」が飛び抜けて多く82.4%、次に「英語をできるようになるのがうれしいから」が入るものの、「国際社会で必要」「良い高校や大学に入りたい」「就職するときに役立つ」が続きます(図2)。もともと英語にあまり興味がない上、ペーパーテスト中心の定期テストや入試のために勉強していれば、英語を好きにはなりにくいでしょうし、コミュニケーションのために使うという認識も弱いまま学習を続けていれば、英語を活用したり発信する力も付きにくいでしょう。

図2. 英語の学習動機

英語を学ぶこども達に伝えたいこと ―英語は人とつながる「ことば」であること

もともと英語に興味がない子どもたちが英語を好きになり、コミュニケーションの中で英語を使えるようにするためにはどうすればよいでしょうか。

日本語もそうなのですが、英語は1つの教科というだけでなく、「ことば」であるということを子どもたちにもっと強く伝えていく必要があると思います。「ことば」であるということは、それを使って生活の中で人とやりとりし、喜びや悲しみを共にし、社会の問題を一緒に解決していくということです。ことばを使って人とつながることは楽しく、充実感に満ちたことであることを子どもたちが実感できるような働きかけを、学校でも家庭でも行っていくことが重要です。残念なことに「小中学校の英語教育に関する調査」結果の中で、中1生が英語を勉強する理由として、英語で人と関わることや、英語を使ってできることは下位のほうに挙げられています。

メディアではあまり取り上げられていませんが、5月末の政府の提言の中には、中学の英語の授業を英語で行うことも盛り込まれています。英語で授業を行うことを通して、高校同様、英語を使ったコミュニケーション活動をたくさん行うことを目指しています。中学の授業でこれまで以上に、英語を使った活動が増えていくことが期待されます。保護者の方もお子様に「テストは何点だったの?」「今日の英語の授業で何を覚えたの?」だけではなく、「英語の授業では、先生や友達のどんなことを新しく知ったの?何がおもしろかったの?何を考えたの?」などとお声かけしてみられてはいかがでしょうか。グローバル人材育成や日本の国際競争力を高める議論をするとともに、「ことば」を通して人とつながる経験の積み重ねが、一人一人の子どもたちの人生を豊かにし、可能性を拡げることを忘れないでいたいと思います。

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著者プロフィール

加藤 由美子
ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、大阪支社にて進研ゼミの赤ペン指導カリキュラム開発および赤ペン先生研修に携わる。その後、グループ会社であるベルリッツコーポレーションのシンガポール校学校責任者として赴任。日本に帰国後は「ベネッセこども英語教室」のカリキュラムおよび講師養成プログラム開発等、ベネッセコーポレーションの英語教育事業開発に携わる。研究部門に異動後は、ARCLE(ベネッセ教育総合研究所が運営する英語教育研究会)にて、ECF(幼児から成人まで一貫した英語教育のための理論的枠組み)開発および英語教育に関する研究を担当。これまでの研究成果発表や論文は以下のとおり。

関心事:何のための英語教育か、英語教育を通して育てたい力は何か

その他活動:■東京学芸大学附属小金井小学校、島根県東出雲町の小学校外国語活動カリキュラム開発・教員研修(2005~06年)■横浜市教育委員会主催・2006教職キャリアアップセミナーin 横浜大会講師(2006年)

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