グローバル教育研究室

ベネッセのオピニオン

第74回 How you say & What you say
~大学入試4技能測定や中3英語・全国学力調査は、生徒の英語力をどう高めるのか~

2015年07月07日 掲載
主任研究員 加藤 由美子

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 “How you say & What you say” これは大学1年の春に初めて参加した英語スピーチ大会で聴いたスピーチのタイトルです。ラジオの英語学習番組ぐらいでしか英語を聞いたことがなかった当時、筆者のリスニングの力は全くなく、次々と発表されるスピーチはほとんど理解できませんでした。しかし、このスピーチのメッセージだけは見事に頭に入ってきました。単語や文法、発音など、英語を「どのように話すか」とともに、自分の意見とその理由を明らかにして論理的に展開した内容=「何を話すか」が大切であるというものです。そしてこのスピ―カーが優勝したのです。この経験から、英語で発信する時、How=どのように伝えるか、とともにWhat=何を伝えるか、がいかに大切であるか、そして、HowとWhatの両方を兼ね備えた発信は、どんな受け手にもうまく伝わる、ということを学んだのでした。

日本の高3生の平均的な英語力は中学校卒業程度、特に「書く」「話す」に課題

 文部科学省「平成26年度 英語教育改善のための英語力調査」(以下:「英語力調査」)の事業報告書が5月末に発刊されました。これは、全国の国公立の高校3年生約7万人を対象に、4技能型テストを使って英語力を調査したものです。テストスコアをCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)の4技能のレベル別に対応させた結果、4技能すべてにおいて、7~8割の生徒はA1レベル(中学校卒業段階レベル)であることが明らかになりました。「第2期教育振興基本計画」は高校卒業段階の目標としてその上のレベルであるA2~B1に達する生徒を50%以上としていますが、それをはるかに下回る結果でした。

 特に注目すべきは、「書く」「話す」において、「無回答および0点」だった生徒の割合が、「書く」の場合29.2%、「話す」の場合13.3 %だったということです。採点基準によると、「無回答および0点」になる回答は、内容の発信がない・発信はあるが内容がとても断片的またはテーマに沿っていない・表現において使用される文法や表現が限定的である、というもので、What=何を伝えるか、How=どのように伝えるか、の両方において全くできていないというものです。文部科学省もこの結果について「課題が大きい」とコメントしています。

高校生は、英語で「書く」「話す」は難しいと感じているし、その経験も少ない

図1:英語学習のつまずき

 実際のところ、高校生も英語で「書く」「話す」を難しいと感じています。ベネッセ教育総合研究所が中1~高3生を対象に行った「中高生の英語学習に関する実態調査2014 で、高校生のつまずきトップ3は、「文法」「英語の文を書く」「英語を話す」でした。(図1)

 また、同じ調査で、授業でしていることについて聞いたところ、自分の気持ちや考えを英語で「書く」「話す」ことは中2をピークに減少していくことも明らかになりました。(図2)

 英語の技能は実際に使ってみることで身に付きます。しかし、高校生は授業中の多くの時間を「日本語に訳す」「単語や文を覚える」「先生の説明を聞く」「文法の問題を解く」ことに費やし、自分の気持ちや考えを英語で「書く」「話す」ことをあまりしていません。経験したことが少なければ、「難しい」と感じるのは自然なことですし、前述のようなテストでよい結果も出ないでしょう。

図2:授業でしていること

「書く」「話す」力の課題をどのように解決するのか

 文部科学省は6月初旬、「生徒の英語力向上推進プラン」を発表しました。以下がその4つの柱です。

① 都道府県ごとの目標設定・公表を要請

② 「英語教育実施状況調査」に基づく都道府県別生徒の英語力の公表

③ 中学校については、英語4技能を測定する「全国的な学力調査」を国が実施

④ 中・高・大学の英語力評価および入試における英語の4技能を測定する民間試験の活用

 このプランは、各都道府県が英語力の目標と結果を公表すること、目標達成を検証するための評価は4技能で行うことを求めています。また入試でも英語力を4技能で測ることを継続して促進するとしています。これらは、英語力調査等の結果を受けて、英語の4技能全体のレベルアップを図るとともに、特に課題の大きかった「書く」「話す」の指導を充実させることを目指していると考えられます。そして、それは、現行の学習指導要領が目標としている「4技能を総合的に育成すること」を改めて求めているのだと思います。

「4技能を総合的に育成すること」は、生徒の英語力をどう高めるのか?

 4技能を総合的に育成するためには、まず活動自体が少ない「書く」「話す」により時間をかけて、指導における技能の偏りを無くすことが大切です。しかし、それは指導時間を4等分して、「書く」「話す」の時間を増やすという単純なことを求めているのではありません。高等学校学習指導要領解説の外国語編・英語編には、「『聞くこと』や『読むこと』を通じて得た知識等について、自らの体験や考えなどと結びつけながら活用し、『話すこと』や『書くこと』を通じて発信することが可能となるよう、中学校・高等学校を通じて、4技能を総合的に育成する指導を充実する」と記載されています。これは、英語で聞いたり、読んだりしたものについて、情報を的確にとらえ、発信している人が一番何を伝えたいのか、その主張と根拠は何かを批判的に捉え、受け手としてどう解釈し、どんな立場に立った意見を持つのか、すなわちWhat=何を使えるか、を持って、それを書いたり、話したりする指導が重要だと解釈できます。この「読む」「聞く」ことと「書く」「話す」ことの統合的な活動は、今後益々必要とされ、研究も進められている「21世紀型能力」の中の「思考力」を高めることにもなります。

 4技能を総合的に育成することは、Whatの力だけでなく、How=どのように伝えるか、の力も高めることできます。6月下旬に行われた「英語授業研究学会 関西支部 第26回春季研究大会」 で、大阪府立高津高校の松下信之先生が高3生の授業映像を公開され、研究協議が行われました。「教科書本文の導入から定着、意見の発信につなげる授業」の実践背景として、「生徒が自らの意見を英語で話せるようになるためには、既習の言語材料を適切に使用できるようになることと、題材について思考し、考えを深めることで自らの意見を持てるようになることが必要です。」と松下先生はコメントされています。「自らの意見を持てるようになること」=Whatとともに「既習の言語材料を適切に使用できるようになること」=Howが必要であり、その両方を育てたいと言うことです。配布資料に書かれた授業目標の1つに「生徒が、声に出してテキストを読むこととその内容を再話することで、語彙や文法の使い方を内在化(習得)する」(資料英文を筆者訳)とあります。授業では再話までの流れが次のようになっています。教科書内容理解の際に既習の語彙や文法を先生が意識して聞かせる(聞く)→生徒がキーワードやフレーズを教科書英文からピックアップする(読む)→メモやアウトラインを作る(書く)→メモやアウトラインをもとに内容を再話する(話す)。最後のステップでは、生徒が習得した語彙や文法を使って自分の意見を書き、それを発表する活動をするとなっています。「聞く」「読む」「書く」「話す」の4技能が連携した活動をする中で、生徒は語彙や文法などの言語材料を何度も使い、理解と習得を高め、それらを活用できるようになります。松下先生の指導実践から、4技能を連携させた指導の積み重ねは、語彙や文法の定着を早めるだけでなく、その習熟レベルを高める効率的なものだとわかります。

 

 今後、大学入試や全国学力調査などにおいて英語力は4技能で測定されます。その時に良い結果を出すことは生徒にとって、また教員や保護者にとっても大切なことです。しかし、それは通過点でしかありません。子ども達は、21世紀のこの先、予期せぬ問題に出くわすでしょう。その時、様々な価値観を持つ仲間と協力し、苦しみや喜びを分かち合いながら、ベストな解決策を出せるようにWhat とHowの力を駆使することが求められます。その力はもちろん英語教育だけで育成できるものではありませんが、4技能を総合的に育成する取り組みを通して、それに貢献できる英語教育を目指し、英語教育に関わるものみなで、それを行うための努力をしていきたいと思います。

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著者プロフィール

加藤 由美子
かとう ゆみこ

ベネッセコーポレーション大阪支社を経て、ベルリッツ・シンガポール校学校責任者として駐在。帰国後はベネッセ内の英語教育事業カリキュラムや講師養成プログラムを開発。研究部門に異動後はECF(幼児から成人まで一貫した英語教育の理論的枠組み)開発や東京学芸大学附属小金井小学校・外国語活動カリキュラム開発(2005~2006年)、幼児から高校生への英語指導実践研究などに携わる。英語教育が、どのように、こどもの成長や言葉の力の育成に資することができるのか、に興味を持っている。

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