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はじめに
ベネッセ教育総合研究所学習科学研究課研究員の鈴木佑亮・小野塚若菜と明星中学校・高等学校の藤井泉浩先生が,2022年10月15日から16日に行われた全国大学国語教育学会2022年度 第143回 千葉大会において共同発表を行いました。
研究の要旨・目的
著者らはこれまで,小野塚・泰山(2021)が開発した中学校言語能力Can-do statements(後述)を目標規準とした国語科「書くこと」の授業を行ってきました。本発表では,2022年4~7月に中学2年生を対象に行った授業について,具体的な内容とそれを通して見えてきた生徒の変容について報告しました。
概要
〈中学校言語能力Can-do statements (Cds)の概要〉
〈3年間の指導設計の見直し〉
2022年度の授業計画を立てるにあたり,まず各学年の目標を以下のように再設定しました。
表1:再設定した各学年の目標 (当日発表資料より抜粋)
〈第2学年の年間指導計画と各単元の構想〉
中2の目標を達成するために,年間指導計画は次のように設計しました。すなわち,テーマ(=単元)を4つに分けたうえで,テーマ1は主に「課題設定」のCds,テーマ2は主に「整理・分析」のCds,テーマ3は主に「情報収集」のCdsをそれぞれ身につけるための単元として位置づけ,テーマ4でそれらのCdsを複合的に発揮するという計画です。また,目標を達成するための手立ての一つとして,思考ツールも導入しました。
図1:各テーマの位置づけ(当日発表資料より抜粋,図中のTはテーマを指す)
〈テーマ1・2の概要〉

〈授業を受けた生徒の思考力の発揮についての分析と考察〉
●変容が見られた生徒と見られなかった生徒とを比べると,ふり返りにおいて自らの思考過程をメタ認知できているかどうかの違いが影響していたことが示唆された。このことから,生徒が自身の思考過程を分析・言語化するように促す指導ができれば,より大きな成果を得られる可能性があると考えられる。
〈今後の計画〉
2022年度には中学2年生の後半(テーマ3・4)までの実践を通した生徒の思考力のさらなる変容を観察するとともに,2023年度には中学3年生になった生徒にも引き続き本実践を行うことで,3年間の授業を通して生徒の思考力の発揮がどのように変容していくかを明らかにしていきます。また,このような中期的な観察によって,思考力育成のより効果的な手法を追究していきます。
詳細については,以下の資料(全国大学国語教育学会第143回千葉大会 大会研究発表要旨集,pp.119-122)をご覧ください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtsjs/143/0/143_119/_article/-char/ja
関連研究
1. 本研究において対象となった生徒の,中学1年次の『書くこと』の実践内容を報告した研究発表です。Cdsを“めあて”とした授業設計による,教員と生徒の意識変容に関して考察しています。
藤井泉浩・小野塚若菜・鈴木佑亮(2021).教科横断的な目標としての思考力の育成を目指した中学校『書くこと』の実践 2021年第141回全国大学国語教育学会世田谷大会 大会研究発表要旨集,pp.283-286
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtsjs/141/0/141_283/_article/-char/ja
小野塚若菜・泰山裕(2021).中学校学習指導要領に基づく言語能力Can-do statementsの開発 日本教育工学会2021年秋季全国大会