次世代育成研究室

ベネッセのオピニオン

第1回 幼保一体化に向け、幼稚園・保育所はどう変わってきたか ①
―「第2回幼児教育・保育についての基本調査」より―

2013年04月19日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室
主任研究員 後藤 憲子

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4月17日(木)にベネッセ教育総研次世代育成研究室は「第2回 幼児教育・保育についての基本調査」の記者発表を行いました。リリースペーパーのタイトルは「私営保育所の約6割は定員超過、幼稚園の約8割は定員割れ」というものです。ちょうど1カ月前、子どもが認可保育所に入れなかった保護者が東京や埼玉で異議申し立てをする様子が報道されたことは記憶に新しいことです。保育所は定員オーバーで入れない人もたくさんいるのに、幼稚園は空きがある…。待機児童問題が解決しない中、皮肉な結果となりました。

昨年8月に民主・自民・公明の3党合意のもと、「子ども・子育て関連3法」が制定されています。今月末には、国の「子ども・子育て会議」が発足し、2015年度からスタートする「関連3法」について、基本方針を議論する予定になっています。昨年の議論でも、待機児童を解消する一つの方法として、「認定こども園」を拡充する方針が出ていますが、0・1歳児の乳児から預かる園が増えないと、待機児童問題は解消されません。そのため、幼稚園――とくに私立幼稚園がどれくらい、乳児保育も行う「認定こども園」に移行するかが注目されています。

では、どれくらいの園が認定こども園への移行を検討しているのでしょうか?  今回の調査では、私立幼稚園の36%が「条件によっては移行してもよい」と回答しています。この数値を低いと見るか、高いと見るか、難しいところですが、補助金の在り方がこれから議論されるため、まだ、様子を見ている園も多いと思われます。移行にあたり特に重視する条件について、私立幼稚園の62.2%は、「施設整備費の保障」を挙げています。幼稚園が保育所の機能を持つためには、乳児を保育する部屋や調理施設などが必要になり、そのための費用がかかるためです。

また、今回の調査結果からは私立幼稚園が大きく変化していることも明らかになりました。ここでは、二つのポイントに絞って論じたいと思います。

一つは、保育の早期化・長時間化がみられることです。5年前の第1回調査の時と比較して、幼稚園、とくに私立幼稚園では満3歳児、または2歳児から受け入れたり(注※)(図1・2)、夕方まで子どもを預かる「預かり保育」の実施が増えていることが分かりました(図3・4)。

注※ 通常は満3歳になった後の4月に3年保育として入園するが、満3歳から入園するケースが増えている(たとえば、今年の8月に満3歳になる場合、来年の4月に入園することが多いが、翌月の9月からの入園も可能)。満3歳児からの入園は学校教育法で認められているが、2歳児の入園は認められていないので、子育て支援の一環として行われている。

図1. 満3歳児の入園
図1.満3歳児の入園
※ 満3歳の誕生日以降、年度途中での入園
図2. 2歳児の受け入れ
図2.2歳児の受け入れ
※ 第1回調査では、「2歳児の入園」という文言だった。第2回は、「子育て支援としての2歳児の受け入れ」「未就園児クラスを含む。親子登園を含まない」と明記
図3. 預かり保育の実施
図3.預かり保育の実施
図4. 預かり保育の1日あたりの平均利用者数
図4.預かり保育の1日あたりの平均利用者数
※ 実施している園のみ

社会全体の保育所へのニーズが高まったことが影響して、幼稚園も保育所的な預かり機能を強化しているものと思われます。とくに園児獲得が課題となっている私立幼稚園を中心に、低年齢から、あるいは長時間子どもを受け入れる園が増えています。0・1歳児を預かることはしていませんが、見かけ上は少しずつ保育所に近づいてきていると言えるでしょう。

先ほど書いたように、認定こども園に移行することによって、2歳児の受け入れや預かり保育にも公的補助が得られることになれば、911園(2012年4月時点)に留まっている認定こども園が増えていくことが予想されます。

もう一つは、「知育」に力を入れる私立幼稚園が増えていることです。通常保育の時間にクラス全員で一斉に行う「英語」「ひらがなの読みの練習」「ひらがなの書きの練習」などを実施する園が5年前と比較して増えています(「英語」47.6%⇒58.0%、「ひらがなの読み」41.2%⇒48.9%)。これらの一斉指導による「知育」は幼児一人ひとりの特性に応じるとする幼稚園教育要領の内容を超えるものです。幼稚園の中には「遊びを通した活動」にこだわって園のカリキュラムを組んでいるところもありますが、少子化の中で園児獲得競争が激しくなる中、保護者のニーズに応え、知育に力を入れる園が増えている可能性があります。この傾向があまりにも強くなりすぎると日本の幼児教育が大切にしてきたこと(全人的な子どもの育ちを重視する点)が薄れていく可能性もあります。小学校に入ってから「後伸び」する子どもを育てるために幼児教育の「不易」と保護者ニーズとのバランスを取っていく必要があると思われます。今後も注意深く見守っていきたい点です。

以上、私立幼稚園の変化に絞って調査結果をご紹介しましたが、次回は「保育者の確保と質の充実」について、調査結果から明らかになったことをお伝えしたいと思います。

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著者プロフィール

後藤 憲子
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、教材・書籍の編集を経て、育児雑誌「ひよこクラブ」創刊にかかわる。その後、研究部門に異動し、教育・子育て分野に関する調査研究を担当。これまで関わったおもな調査、発刊物は以下のとおり。

関心事:変化していく社会の中で家族や親子の関わりがどう変わっていくのか、あるいは 変わっていかないのか

調査研究その他活動:J-Win Next Stage メンバー、経団連少子化委員会企画部会委員

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