次世代育成研究室

ベネッセのオピニオン

第5回 幼保一体化に向け、幼稚園・保育所はどう変わってきたか ②
―「第2回幼児教育・保育についての基本調査」より―

2013年05月24日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室
主任研究員 後藤 憲子

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4月19日に同じテーマで第1回オピニオンを掲載しましたが、まさにその日に安倍首相が「成長戦略」を発表しました。「女性の活躍」のために経済3団体に「育休3年」への協力を求め、待機児ゼロを目指す「待機児童解消加速化プラン」を打ち出しました。2015年度からの「子ども・子育て関連3法」の本格施行を待たず、2013・2014年度の2年間で20万人、2017年までに計40万人の子どもを受け入れられるよう保育所を拡充するというものです。待機児童の解消は待ったなしの課題です。前倒しで解決を目指す今回の思いきった政策に期待したいと思います。

一方で、これだけの急拡大に保育士の確保が追いつくか、という「保育士不足」の問題とそれと合わせて「保育の質」をどう担保するのかが課題になってきます。厚労省は加速化プランの実現に向け、4年間で約7万4千人の保育士が不足すると試算し、保育士確保のための施策も合わせて出しています。今回はこの話題を中心に、ベネッセ教育総研次世代育成研究室で実施した「第2回幼児教育・保育についての基本調査」(注1)から関連するデータをご紹介します。

(注1)「第2回幼児教育・保育についての基本調査」リリースペーパー

すでに約5割の保育所で保育士の確保が課題になっている

まず、「保育士の確保」についてですが、現状でも厳しい状況であることがわかります。調査の中で、園運営上「保育者(注2)の確保が課題である」と答えた園長は、公営保育所で48.4%(「とてもあてはまる」の数値。2008年の第1回調査のときより6ポイント増加)、私営保育所でも46.5%(同様に11.1ポイント増加)という結果でした。同調査の中で、約6割の私営保育所が定員超過して子どもを受け入れている現状を踏まえると、とくに都市部では保育士の確保が非常に厳しい状況になっています。

また、調査の中の園長による自由回答には、

「保育士不足により有資格者であれば充分な吟味をできないまま採用し、現場を預けなければならない厳しさがある」(私営保育所)

「保育士不足の中、学生の採用面接に数人しか参加しないため、こちらがよい人材を選ぶことができない。採用してからの職員養成が大変である(私営保育所)」に代表される声が挙がっています。

(注2)調査票の中では、「保育者」と表記。保育所・幼稚園・認定こども園で同時に調査を行ったため、「保育者」という表記に統一して質問紙を作った。

量の拡充と同時に保育士の資質向上策も必要

何とか保育士を確保できたとしても、自由回答に挙げられているような質の問題が出てきます。「保育者の資質の向上が課題である」と回答した園長は、公営保育所53.1%(「とてもあてはまる」の数値。以下同)で、2008年の調査時点より8.9ポイント増加していました。私営保育所も同様に57.2%と2008年より5.5ポイント増となっています。では、「保育者の資質の向上のために必要なこと」は何でしょうか。 表1は公営保育所と私営保育所の園長の回答の上位5項目をまとめたものです。

表1 保育者の資質の向上のために必要なこと(複数回答、数値は%)

私営保育所の第1位には、「保育士の給与面での待遇改善」(83.4%)があげられています。とくに私営の場合、平均賃金が月額約21万円(2012年賃金構造基本統計調査)と全業種平均賃金よりも約9万円(*)低く、経験年数に応じた上昇幅も小さいため、離職率が高くなっています。これについては国も対策を打ち、今年度から私営保育所の保育士を対象に給与を上乗せするよう予算を確保しています。しかし、その効果が出てくるのはこれからです。今後も給与水準の改善を行い、「保育士が若い人にとって魅力ある、ずっと続けていくことができる仕事」となるよう改善し、この業界を目指す人が増えるよう努力する必要があります。

公営保育所の場合、第2位の理由に「非正規雇用保育者の正規化」(67.7%)が上がっています。今回調査の結果では職員のうち、公営保育所では54.2%、私営保育所では40.2%が非正規職員でした(1施設の中の非正規職員の割合を平均した数値)。とくに公営保育所を運営している地方自治体では財政難や、少子化による長期的な園児減少を見込んで正規職員を雇用しない傾向が見られます。自由回答から次のような記述も見られました。

「正規、嘱託、パートといろいろな立場の職員構成のため保育の理念やねらいが共有できず、個々の経験の中での子ども対応に成りやすく向上が難しい(公営保育所)」

「正規職員の数が年々減り、保育研究、研修などで追いついていけない。職員の数の確保に(精一杯)で向上までいかない(公営保育所)」

パートで働くことを選択している人もいるので、一概に非正規が悪いと言えませんが、非正規から正規に転換できるルートを作る、勤務扱いの研修を受ける機会があり、保育スキルを磨くことができるようにするなどの対策が必要です。

(*)2013/8/26 数値を修正

保育士に求められるものが多様化してきている

一方で「保育士の資質の向上が課題である」というと、保育士の質そのものが低下していると思われるかもしれません。しかし、そこは慎重に考える必要があると思います。

保護者の保育所に対する期待が高くなっていることや、家庭環境が多様化してきていること、特別支援児への対応など、保育士が対応しなければならないことが多様化してきています。現場で働いている保育士もそれに応えようと努力していますが、さまざまな壁に直面していることが自由記述から読み取れました。

「保護者の要求が年々多くなり、保護者自身にも支援が必要である。また小学校との連携もとっていかなければならない。これらに対応できる保育士の資質の向上がとても大切になっている(公営保育所)」

「様々な問題をかかえた子どもが多くなった為、保育士が対応する力や、園内の組織力の向上が必要となり、園内研修や学ぶための時間、職員配置のゆとりが必要ともなった。が、その為の処遇が確保されておらす、巡りめぐった問題となっている(私営保育所)」

これに関連しますが、表1の私営保育所の第2位、公営保育所の第3位には「養成課程の教育内容の充実」が挙げられています。保育士に求められる要件がより高度になってきていることや、現場に園内研修やOJTなどの余力がなくなったこともあり、大学・短大・専門学校などの保育士養成機関での教育内容をより現実に即したものに変え、即戦力となる人を輩出してほしい、という要望が調査結果にも表れています。保育の質の向上を中期的にみた場合、養成校の教育内容の改革も必要になってくるでしょう。

待機児童解消のために保育所を拡大していくことは今取り組まなければいけない課題です。同時に子どもたちを預かる保育士の現状を知り、保育士が誇りを持って仕事を続けられるよう、待遇改善やキャリア形成を支援していく必要もあります。保育士は子どもの育ちを支える重要な存在です。待遇や研修機会の充実は子どもたちの育つ環境の質を良くすることに直結し、より良い未来の社会を作っていくことにつながっていくからです。

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著者プロフィール

後藤 憲子
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、教材・書籍の編集を経て、育児雑誌「ひよこクラブ」創刊にかかわる。その後、研究部門に異動し、教育・子育て分野に関する調査研究を担当。これまで関わったおもな調査、発刊物は以下のとおり。

関心事:変化していく社会の中で家族や親子の関わりがどう変わっていくのか、あるいは 変わっていかないのか

調査研究その他活動:J-Win Next Stage メンバー、経団連少子化委員会企画部会委員

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