次世代育成研究室

ベネッセのオピニオン

第33回
高校生・大学生のうちに家族を持つことを考える機会を
~「未妊レポート2013」より~

2013年12月06日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室
室長 後藤 憲子

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妊娠 子育て

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12月1日に大学生の就活が解禁になりました。3年生の12月解禁は今年が最後になり、来年からは会社説明会などの広報活動は大学3年生の3月から、筆記試験や面接などの選考活動は4年生の8月からとなります。多くの大学生にとって、まず就職することが最大の課題であり、就職後は男女ともに厳しい社会環境の中で仕事中心の生活を送ることになると思われます。(※「就職活動の解禁」は、経団連の指針で法的な拘束力はない)

晩婚化・晩産化が進んでいる

そのなかでどうしても後回しにされがちなのがライフキャリア、つまり仕事と生活の両面から自分の人生を見渡し将来の姿を描いていくことです。社会が先行き不透明なためか、どんな家庭を築きたいのか考える余裕がなかったり、実際に正規雇用の仕事に就けず経済基盤が不安定なことがあり、晩婚化・晩産化が進んでいます。

当研究所で実施した「妊娠出産子育て基本調査」でも、2006年と2011年の調査結果を比較すると、35歳以上になって第1子を持つ人が5年間で男女ともに10ポイント以上増加していました(図1)。

では、妊娠出産に至る前の未婚・既婚男女は「子どもを持つこと」をどのように考えているのでしょうか。意識や行動の実態を把握するため、9月に約4,000名を対象に「未妊レポート2013」と題する調査を実施しました。

図1 「妊娠出産子育て基本調査」(2006年、2011年)第1子妊娠時の年齢

未婚男性の7割は「交際相手がいない」

今回の調査結果で驚いたのは、「交際相手がいない」と回答した人が未婚男性で73.9%、未婚女性で63.5%に上ったことです(図2)。未婚女性の場合、2007年調査と比較して13.1ポイント増えていました。未婚男性の5割、未婚女性の6割以上は「ぜひ」「できれば結婚したい」と回答していますが、結婚に向けての準備が整っていないことが分かりました。

図2 「未妊レポート2013」交際について

既婚者の「今すぐ子どもを持ちたい」が増加

既婚女性の中で、子どもを持ちたいと希望している人たちに、子どもをもつタイミングを尋ねたところ、「今すぐにでも持ちたい」と回答した人は13.2ポイント増加していました(図3)。背景には晩婚化があり、結婚後すぐに子どもを望む人が増えているためと思われます。今すぐこどもを持ちたいと回答した人は、妊娠に向け様々なことに取り組んでいることも分かりました。

一方、既婚男性全体の36.0%、既婚女性全体の51.1%が「自分または配偶者が不妊の可能性があるのではないか」という懸念を抱いていることがわかりました(図4)。20代や30代前半の妊娠に適した年齢の人たちも不妊への懸念を持っていることも分かりました。「妊娠出産子育て基本調査」によると、35歳以上で妊娠した人の場合、約3割はカップルのどちらかが不妊治療を経て子どもを授かっています。もはや不妊治療はごく一部の人が経験することではなくなりつつあるので、「もしや」、という不安を抱くのかもしれません。

図3.「未妊レポート2013」
子どもを希望している人の子どもを持ちたいタイミング(既婚男女別・既婚女性は経年比較)

図4.「未妊レポート2013」
自分または配偶者が「不妊の可能性があるのではないか」と思ったことがある
(既婚男女別)

高校生・大学生のうちから妊娠出産に関する正確な知識を

生殖医療に関する技術は日進月歩で進んでいます。最近話題になっている「卵子凍結」は、本来、病気などにより将来子どもを持つことが難しくなる人のための医療行為ですが、健康な人も利用する商業的な側面も表面化しています。出産に至る確率の低さや費用がかなりかかることも報道されていますが、こうした技術を使えば何歳になっても子どもを授かることができると、受け取る側が解釈してしまう懸念があります。

その一方で不妊治療は年齢が上がるにつれ出産に至る確率が低くなるため、2016年度からは国の助成にも、女性が42歳まで、と制限が加えられることになりました。不妊治療に関わる専門家は、年齢が若いうちの受診を呼び掛け、妊娠出産に関する正しい知識の普及に乗り出しています。

年齢的なリミットが近づいてからあわてて妊娠に向けて取り組むのではなく、中高生や大学生のうちから、妊娠・出産には適切な時期があることを男女双方に伝え、将来、子どもを持つ若者が、結婚することや親になることを人生設計に含めて考えられるようにすることが必要になってきています。正しい知識を伝えるという点で、学校教育の役割は大きいでしょう。

子どもをためらう要因に「お金がかかるから」

また、子どもがいる暮らしのイメージを聞いたところ、男女ともに1位は「お金がかかる」が最も多く、次いで「責任」第3位は男性が「楽しい」女性が「忙しい」でした(図5)。

図5.「未妊レポート2013」子どものいる暮らしのイメージ(既婚男女別)
注1)「その他」は除いて図示。
注2)複数回答。

「お金がかかる」というイメージが強いのは、子ども一人を育てるのに1000~2000万円かかるという情報が強力に刷り込まれているためでしょうか。定量調査と同時に聞き取り調査も実施しましたが、「今の経済状態では子どもを持つのは難しい」と子どもを持つことをためらっている人も少なからずいました。妊娠・出産にかかる費用や子どもの医療費に関しては、公的助成がかなり出るようになっています。公立高校は無償化されており(2014年度から世帯年収910万円未満の所得制限が設けられることになりましたが)、来年度からは幼稚園も第2子半額、第3子が無償化されます。こうした子育てに関するプラス情報をこれから子どもを持つ人たちにも浸透させ、不安を軽減させていく工夫も必要でしょう。同時にもっともお金がかかる大学の授業料など、先々に必要な教育費に対しては返還義務のない奨学金を充実させるなど、保護者と子どもたちの負担を軽減させる策を強化させ、安心して子どもを産める社会にしていくべきと考えます。

新たな視点から、子育てや家族の研究を

妊娠出産に関することや、子育ての経済的負担の問題など、情報を発信していくメディアの役割と責任も大きいと思います。不安をあおるのではなく、正確な知識を伝え、サポート機関へのアクセス方法などを知らせることにもっと力を入れていくべきでしょう。

今後は共働き世帯が一般化し、子育てや家族のあり方も急速に変化していくことが予想されます。保育所などのいっそうの充実も求められています。現在50歳以上の祖父母世代の物心両面のサポートも求められてくるでしょう。こうした中で、人的ネットワークの価値や「時間」の大切さなど、子どもや家族のQOL(Quality of life=生活の質)や幸福感を支えるものは何なのかという視点から検討していく必要があると考えています。このような変化が保護者や子どもにどのような影響をもたらすか、今後、さらに調査研究を続けていきたいと思います。

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著者プロフィール

後藤 憲子
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、教材・書籍の編集を経て、育児雑誌「ひよこクラブ」創刊にかかわる。その後、研究部門に異動し、教育・子育て分野に関する調査研究を担当。これまで関わったおもな調査、発刊物は以下のとおり。

関心事:変化していく社会の中で家族や親子の関わりがどう変わっていくのか、あるいは 変わっていかないのか

調査研究その他活動:J-Win Next Stage メンバー、経団連少子化委員会企画部会委員

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