次世代育成研究室

ベネッセのオピニオン

第43回 3、4歳で伸びる“学びに向かう力”とは?
~幼児期から小学1年生の家庭教育調査・縦断調査より~

2014年02月21日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室
主任研究員 高岡 純子

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子育て 保育

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近年、幼児期から小学校への移行期の教育について、世界的な関心が高まっています。特に、幼児期のどのような学習環境や生活習慣が、読み書き・数(認知スキル)や、人と共同的にかかわる力、がんばる力など(非認知スキル)に影響を与え、その後の発達や人生にどのような影響を及ぼすのかという点が注目されて います。イギリスやアメリカでは、子どもの発達を追跡する様々な調査が行われており、質の高い幼児教育・保育が子どもの発達に及ぼす影響についての研究成 果が出されています。一方、日本では幼児期から小学校への移行期を対象とした大規模な縦断調査はまだ少ない状況にあります。

同一の子どもについて4年間にわたって変化をとらえる追跡調査を実施

そのような状況を受けて、ベネッセ教育総研では、2012年に幼児期(年少児)から小学校への子どもの成長の変化を捉えることを目的とした調査をスタートさせました。毎年、同じ子どもたち(約1,400名)を追いかけて調査を行うという方法です。

図1. 小学校以降の学びや生活に適応するために必要な力

この調査のねらいは、小学校以降の学びや生活に適応するために必要な力について、「生活習慣」「学びに向かう力」「文字・数・思考」という3つの軸を設定し、幼児期の家庭教育で注力すべきことを明らかにすることです。「学びに向かう力」とは、自己主張、自己抑制、協調性、がんばる力、持続力、好奇心という5つの要素で構成されており、「友だちと協力する」「物事をあきらめずに挑戦する」といった21世紀に求められる学びにもつながるものです(図1)。2013年1月に3歳から4歳にかけての調査を実施しました。

3歳児期に「生活習慣」を身につけると、その後の「学びに向かう力」「考える力」の伸長につながる

小学校への接続というと、5歳児が注目されがちですが、今回の調査結果によると、3歳児から4歳児にかけての時期に「学びに向かう力」(自己抑制、好奇心、協調性)が大きく伸びることが明らかになりました(図2)。

図2. 自己抑制「自分がやりたいと思っても、人の嫌がることは我慢できる」

図3-1. 歳児期の自己抑制
「自分がやりたいと思っても、人の嫌がることは我慢できる」

図3-2. 歳児期のがんばる力
「物事をあきらめずに、挑戦することができる」

また、その力を支えているものが3歳児の「生活習慣」であることもわかってきました。3歳児期に「生活習慣」を身につけた子どもは、4歳児期で「生活習慣」「学びに向かう力」「文字・数・思考」がより高くなる傾向にあります。つまり、3歳での「生活習慣」の定着が4歳での3つの力の伸びを支えているといえるでしょう(図3)。「生活習慣」の定着の意義は、“自立して毎日の生活を営めるようになる”ということに加えて、「考える力」や「学びに向かう力」を伸ばしていくことにもつながっているのです。

 

保護者がこの時期の子どもの意欲を尊重し、自分の力で考えられるように促すことが大切である

また、保護者の働きかけの面では、子どもの意欲を尊重したり、子ども自身が考えられるように促すことが、子どもの「学びに向かう力」を伸ばすことが明らかになりました。さらに、「学びに向かう力」が伸びることによって、「文字・数・思考」も伸びていく傾向が見られました。

図4.

図5-1.歳時期のがんばる力
「物事をあきらめずに挑戦することができる」

図5-2.歳時期の基本的学力
「指やおはじきなどを使って、数を足したり引いたりすることができる」






このような保護者の働きかけによって、挑戦する、人の話を聞ける、協力するといった広い意味での学ぶ力、21世紀に求められる力が身につき、それが文字・数を学ぶ力を伸ばしていくという流れがみられました(図4、5)。幼児期後期(4~5歳)になると、保護者は、文字・数の習得への関心が徐々に高まっていきますが、文字・数の習得の前にそれを支える生活習慣の自立や学びに向かう力が十分かどうかを振り返ってみる必要もあるのではないでしょうか。

 

「共働き」を前提とした、子どもへの働きかけとは

今回の分析では、子どもの発達と家庭での保護者からの働きかけによる影響に着目して行いましたが、保護者として望ましい態度は、恐らく保育士をはじめとする幼児を取り巻く大人たちにも共通して求められるものではないかと思われます。また、4歳児は、ほとんどの子どもが幼稚園か保育園に通って集団生活を経験しています。この時期の幼児教育は、家庭と幼稚園・保育園の双方で行われています。今後、日本では共働きが増え、保育園児が増加していく状況にある中で、園での幼児教育・保育の環境が子どもの発達にどのように影響するのかを検討することも必要であり、継続的な調査研究が求められていくと思われます。

今回ご紹介した縦断調査も今年で3年目に入りました。調査にご協力いただいている方々はすでに年長生です。次回は、幼児期の3年間の成長の様子をお伝えできればと思います。

 

●調査概要

調査テーマ

幼児期から小学校1 年生までの子どもの学びの様子と、親のかかわりや意識

調査方法

郵送法(自記式アンケートを郵送により配布・回収)

調査時期

2013 年1 月

調査対象

年少期から小学1年生までの継続調査に同意した母親1,460名

調査地域

全国

調査項目

子どもの生活時間/子どもの学習準備/母親の養育態度/母親のかかわり/園で大切にしてほしいこと/習い事/読み聞かせなど

調査・分析

無藤隆(白梅学園大学教授)・秋田喜代美(東京大学大学院教授)・荒牧美佐子(目白大学専任講師)・都村聞人(東京福祉大学専任講師)・後藤憲子(ベネッセ教育総合研究所 主任研究員)・高岡純子(同研究所主任研究員)・田村徳子(同研究所研究員)

監修者の解説・調査結果はこちら

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著者プロフィール

高岡 純子
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 主任研究員

2006年より、乳幼児領域を中心に子ども、保護者、教師を対象とした意識や実態の調査研究、乳幼児とメディアの研究などを担当。
これまで担当した主な調査

調査研究その他活動:J-Win Next Stage メンバー、千代田区次世代育成支援推進会議委員

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