次世代育成研究室

ベネッセのオピニオン

第72回 日本の父親がもっと育児参加しやすい環境を
~「第3回乳幼児の父親についての調査」をもとに~

2015年06月23日 掲載
主任研究員 高岡純子

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 最近、子どもを連れて街中を歩いている父親を見かけることが多くなった。2010年には「イクメン」(*1)が流行語大賞となり、自治体の首長が相次いで育児休暇を取るなど、「イクメン」という言葉の広がりとともに、父親の子育てに注目が集まっている。“男は仕事”と言われていたかつての時代とは異なり、現在は共働き世帯の数が専業主婦世帯を上回り、子育てにも一緒に関わる夫婦が増えている。少子化が急速に進行する日本社会で、父親と家族・社会との関わりはどのように変わってきたのだろうか。

 ベネッセ教育総合研究所では、2005年以降「乳幼児の父親についての調査」を行い、日本の父親の子育て意識や行動について把握してきた(2005年2009年2014年)。この調査では、父親の家事・育児への関わり、教育観や父親像、ワークライフバランスに関する意識や実態など、父親と家族・社会とのつながりについて多角的に捉えている。今回は、この調査を通して見られる父親の姿の変化と家族・社会との関係について見ていきたい。

「イクメン」はどこにいるのか?

 「家事や育児に今以上に関わりたい」という父親が6割近くになり、9年間で増加している(図1)。一方で、関わりの実態を見ると、「ごみを出す」「食事の後片付けをする」以外のことは大きく増加していない(図2)。実際に関わっている時間で見ると、平成23年の社会生活基本調査(*2)では、父親の育児時間は25分、母親は196分となっている(平日の平均、末子が6歳未満の場合)。ここからも平日の育児にあまり関われていない父親の様子がうかがえる。

図1

※ 経年比較のため、45歳以下の父親のみ。

図2

※「ほとんど毎日する」+「週に3~5回する」の%。*は「いつもする」+「ときどきする」の%。

※ 経年比較のため、45歳以下の父親のみ。

 また「子どもとの接し方に自信が持てない」と回答する父親が増えている。この背景には、先に述べた「イクメン」のイメージが社会に広がり、周囲から期待される一方で参考にすべきモデルがいないことや、仕事からの帰宅時間が依然として早まっていないことなどがあげられるだろう(図3)。乳幼児と接するには、就寝前の時間に帰宅していることが必要であるが、乳幼児の就寝時刻のピークは21時台であり(*3)、それまでに帰宅できない父親が全体の約4割を占めている。今以上に関わりたいという思いを持ちながら、関われていない父親の姿がうかがえる。この傾向は5年間変わっていない。

図3

※ 現在の職業で「無職」「その他」と回答した人は除外。

※ 経年比較のため、45歳以下の父親のみ。

 国際的に見ても、日本の父親の帰宅時間は遅い。図4は、北京・上海・ソウル・東京の乳幼児の父親の帰宅時間である(*4)。4都市で平日の帰宅時間がもっとも遅いのは東京の父親である。北京・上海の父親は約7割が17~18時台に帰宅する。一方東京の父親は、平日は子どもと関わりたいと思っても厳しい状況にあるが、仕事に追われて帰宅が遅くなる平日の分を取り戻そうと、休日に埋め合わせをするかのように、休日は「10時間~ほぼ1日」子どもと一緒にすごしている父親が約半数を超えている(図表省略)。

図4

帰宅時間が早い父親は、家事・育児を多く行い、生活満足度が高い

 実際に、早く帰っている父親の様子はどのようになっているのだろうか。20時台までに帰宅する父親は、21時台以降に帰宅する父親に比べて、「子どもと一緒に室内で遊ぶ」、「子どもを叱ったりほめたりする」など、日常的にさまざまな子育てや家事に関わり、妻とは毎日子どもや子ども以外のことについて話す割合が高く、子育ての満足度や生活の満足度が高い傾向がみられた(図5)。一方、21時台以降に帰宅する父親は、子どもと接する時間がない、自信が持てないといった思いを抱いている(図6)。

図5

※ 大卒以上のみ

図6

※ 大卒以上のみ

父親の子育てを応援する職場の風土は、帰宅時間の早さに関連している

父親の帰宅時間には、職場環境が関連している。例えば、両立支援制度は多くの企業で取り入れられているが、制度の使いやすさをきくと、20時台までに帰宅する父親のほうが、在宅勤務制度、短時間勤務などの両立支援制度を、より「利用しやすい」と回答している。また、職場で父親の子育てに理解があり、子育てを理由とした早退や休みのとりやすい風土がある職場の父親のほうが帰宅時間は早い(図7)。小さな子どもは突然熱を出すことも多く、柔軟な対応が求められるが、20時台以前に帰宅している父親では、「子どもが病気の際には、休みをとったり早退したりしやすい」が7割を超え、「上司は男性の子育てに理解がある」では6割を超えている。「イクボス」(*5)の存在も大きいと言えるだろう。

図7

※ 大卒以上のみ

少子化社会の中での父親のありようとは

これからの日本の父親がもっと自信を持って育児に取り組めるようにするためには、どのようなことが必要だろうか。まずは、父親が親としての力を発揮できるようにするための環境の整備が必要である。その中でも今まで見てきたように職場の風土が及ぼす影響は大きいと思われる。ベネッセ教育総合研究所の乳幼児研究でも、父親が早期から子育てに関わることによって親子の愛着関係が築かれやすいこと、それが父親自身の子育て肯定感やそれ以後の家事・育児への関わりに影響すること、子どもにとってよりよい成育環境につながることが明らかにされている(*6)。職場でも子育てのスタート時期である子どもの誕生直後から父親が子育てに関わることの大切さが共有され、父親の早い時間の帰宅を促す風土がつくられることが大切だろう。

あわせて、子育てに必要な知識を身につけたり、家庭や地域にネットワークを主体的に作るなど、父親自らがワークライフバランスを意識して生活できる人になるための支援も求められるだろう。今回の調査でも、自治体の活動やPTA活動など地域活動の参加比率は非常に少なかった。父親たちが主体的に仕事・家庭に加え、地域でのつながりを持つことが、これからの父親自身や家族の生活、地域社会のあり方を豊かに変えていくことへとつながるのではないだろうか。

*1「イクメン」の定義:「イクメンとは、子育てを楽しみ、自分自身も成長する男性のこと。または、将来そんな人生を送ろうと考えている男性のこと」(厚労省イクメンプロジェクト HPより、2015/6/15)。

*2 社会生活基本調査(平成23年):総務省統計局、昭和51年以来5年ごとに行われており,平成23年調査は8回目にあたる。

*3 「第4回 幼児の生活アンケート」ベネッセ教育総合研究所、2010年

*4 「乳幼児の父親調査 東アジア4都市比較調査」ベネッセ教育総合研究所、2010年

*5 「イクボス」の定義:職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のこと(対象は男性管理職に限らず、増えるであろう女性管理職も)。NPOファザーリングジャパン HPより(2015/6/15)

*6 「妊娠出産子育て基本調査 フォローアップ調査」ベネッセ教育総合研究所、2005~2010年

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著者プロフィール

高岡 純子
たかおか じゅんこ

2006年より現職。乳幼児領域を中心に子ども、保護者、教師を対象とした意識や実態の調査研究、乳幼児とメディアの研究などを担当。これまで担当した主な調査は、「幼児の生活アンケート」、「乳幼児の父親についての調査」、「妊娠出産子育て基本調査」、「幼児期の家庭教育調査」、「乳幼児のメディア視聴に関する調査研究」など。千代田区こども子育て会議委員、経団連女性の活躍推進委員会子ども支援部会委員、草加市子ども教育連携推進専門部会委員。

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