次世代育成研究室

ベネッセのオピニオン

第82回 子育てのスタート期の母親を支えるために
母親の「休息」サポートの在り方についての考察
ー産前産後の生活とサポートについての調査よりー

2015年11月04日 掲載
研究員 持田 聖子

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 出産後の数か月は、母親となった女性にとって、パートナーとともに親役割を獲得していく時期である。特に産褥期(出産後6~8週間)は、十分な休息をとり、妊娠・出産をした身体を復古(妊娠前の状態に戻すこと)させることが重要である。ベネッセ教育総合研究所では、2015年に、国内全域の生後4ヶ月~11ヶ月の赤ちゃんを持つ母親1,500人を対象に、出産後のサポートについての振り返りアンケート調査(「産前産後の生活とサポートについての調査(1))を行った。出産後のサポートと母親の育児肯定感との関係を分析したところ、出産後のサポートに満足した母親は、その後の育児肯定感がより高い、という結果が得られた。出産後に良質なサポートを受けることが、その後の母親の育児肯定感を高め、赤ちゃんにとって良好な養育環境を育むうえで重要だということが裏づけられる結果である。

 母親に向けたサポート・ケアは、先行研究では、「休息(家事援助や、母親が休息できる時間と場所のサポート、受容的カウンセリング等)」「親になるための教育(育児指導、相談等)」「予防・医療(乳房マッサージ等)」「家庭と地域をつなぐ(親どうしの交流機会等)」という4つのカテゴリーに分類されている(2)

 ベネッセ教育総合研究所の「産前産後の生活とサポートについての調査」を分析したところ、「休息」のサポートにあたる「家事」は、おもに実の親と配偶者が担っていた。母親の出産後の悩みは睡眠不足や疲労が多く、今後、充実してほしいサポートの第1位は、「リフレッシュしたり、休息できる機会」であった。調査結果から、家族によるサポートだけでは、十分な休息が取れずに身体が回復できない母親がいることがうかがわれる。今後、晩産化、核家族化が進行する中で、従来のような家族を中心としたサポートだけでは足りなくなることが予測される中、出産直後の母親の「休息」サポートの充実に向けて、家族や地域など母親を取り巻く人々・機関がどう取り組んでいったらよいのか、本調査の結果や関連先行研究のレビューを元に考察する。

出産後の「休息」サポートの担い手は家族

 本調査では、母親の休息を支援するサポートとして、「家事(食事づくり)」と「母親の身体的な回復」の2項目を設定し、出産後の4ヶ月間、誰がサポートを担ったかをたずねた。結果、「家事(食事づくり)」の担い手は、「自分の親」が66.9%、「配偶者」が27.3%、「配偶者の親」が15.3%、「配偶者や親以外の親族」が3.4%であった。サポートを誰からも受けなかった人は16.4%いた(図1)。「身体的な回復(休息など)」の担い手は、「自分の親」が56.1%、「配偶者」が39.7%、「配偶者の親」が7.3%、「配偶者や親以外の親族」が3.1%で、サポートを誰からも受けなかった人は25.6%いた(図2)。「友人・知人」、「外部のサポートサービス(3)」など地縁によるサポートは、いずれも1%未満で、極めて低かった。調査結果から、出産後の母親への「休息」につながる支援は、家族によってほぼ担われていると言えるだろう。

 

図1.家事(食事づくり)のサポートの担い手

図1.家事(食事づくり)の担い手

注)複数回答。「サポートを受けなかった」は排他的な選択肢。

注)「家事」について、本調査では、「洗濯」「住まいの掃除・片付け」「買い物」も設定しているが、本稿では、「食事づくり」のみを取り上げている。

 

図2.身体的な回復(休息など)のサポートの担い手

図2.身体的な回復(休息など)のサポートの担い手

注)複数回答。「サポートを受けなかった」は排他的な選択肢。

出産後の「休息」サポートの満足度

 各サポートを受けた人に、満足度を5段階でたずねたところ、「家事(食事づくり)」は88.3%が満足した(とても+まあ満足した)と回答した。「身体的な回復(休息など)」は、75.6%が満足したと回答したが、「家事(食事づくり)」に比べて低く、満足しなかった(どちらともいえない+あまり+まったく満足しなかった)人は、24.5%いた。

 

図3.受けたサポートの満足度

図3.受けたサポートの満足度

注)サポートを受けた人を対象とする。

 出産後のサポート全体について、満足・不満足だった理由を自由回答(729件)から分析すると、満足した理由としては、母親は安心・信頼できる人のサポートを受け、睡眠や休息が取れたこと、赤ちゃんの育児に専念できたこと、相談したり話を聞いてもらえたことが挙げられた。一方、不満足の背景としては、サポーターの母親への共感・理解不足(による見当違いのサポート)や、サポートの量的な不足により、母親が十分な休息を取れなかったことがみられた。

出産後の悩みの上位は、身体面の疲れや痛み。ニーズも、「休息できる機会」

 前述のとおり、「身体的な回復(休息)」サポートについて、母親の4人に1人は満足しなかったと回答した。母親の出産後の不安・困りごとについてたずねると、上位3位は、「睡眠が十分に取れなかった」「身体の疲れが取れなかった」「肩こり、腰痛、腱鞘炎など身体の痛みがあった」と、身体面の休息が十分にできなかったことがうかがえる結果であった(図4)。

 出産後4ヶ月間でもっと充実させてほしいサポートについてきいたところ、第1位は「リフレッシュしたり、休息できる機会がほしい」で58.4%だった(図5)。以上のことから、母親の半数以上は、出産後の生活の中で、身体面の休息が十分できていないと感じており、よって休息できる機会を求めているといえるだろう。

 

図4.出産後の不安・困りごと(複数回答)

図4.出産後の不安・困りごと(複数回答)

※上記画像をクリックすると拡大します。

注)不安・困りごとがあったと回答した人(1,438人)を対象。

注)25項目のうち上位10項目。

 

図5.もっと充実させてほしい出産後のサポート(複数回答)

図5.もっと充実させてほしい出産後のサポート(複数回答)

※上記画像をクリックすると拡大します。

「休息」サポートについて行政の実施状況と利用へのハードル

 現在、行政の出産後のサポート・ケアは、市区町村レベルの基礎自治体が実施している。平成24年度に厚生労働省の政策科学推進研究として実施された「全国の市町村を対象とした産後ケア事業アンケート調査」によると、「産後ヘルパー派遣事業」については、回答した786市町村のうち、13%の100市町村が実施していた(4)。実施している市町村の8割は、子育てNPO、ヘルパー事業者、シルバー人材、社会福祉協議会、民間企業等に外部委託していた。

 こうした家庭訪問型の家事・育児援助のサポートについて、利用に対する条件(対象期間、利用可能日数、料金等)は、市区町村によって異なっており、利用のしやすさにも差がある。たとえば、核家族が多い東京都の中で、S区では、子どもが1歳の誕生日を迎えるまでに、子ども1人につき3回まで無料で利用できる。一方、C市では、子どもが生後6ヶ月になる月末まで、1時間あたり1,000円の利用者負担があるが、1家庭につき、1日4時間、月7日まで利用できる。利用率は、インターネット上に公表されている数値から筆者が試算したところ、首都圏のI市では約2.5%(平成25年度利用世帯数/出生数)であった。利用率は、本調査の「外部サポートサービス」の利用率と比較すると高いものの、5%未満と低い。

 半数以上の母親が、「休息」サポートを必要としていながら、なぜ、実際の利用は少ないのだろうか。

 理由のひとつは、母親に必要な情報が必要なときに届いていないことであろうと筆者は考えている。本調査では、出産後のサポートについての相談先・情報収集先についてたずねているが、地域の情報源については、「保健師」「自治体が制作した子育て情報誌」は2割弱、自治体のウェブサイト、担当者、広報誌や、民間やNPOのウェブサイト等の利用は1割に満たないことがわかった(図6)。C市では、母子手帳交付時や、母親学級時に「産後ヘルパー派遣事業」の情報提供をしているそうだが、妊婦(特に第1子を妊娠中)にとっては、まだ出産後の生活についてのイメージがわきにくく、出産後のサポートについての情報は、印象に残らないのかもしれない。学級の中で、出産後の生活について具体的にイメージさせ、家族以外のサポートについても触れるなど、情報の伝え方に工夫が必要であろう。

 

図6.出産後の生活についての情報収集・相談先

図6.出産後の生活についての情報収集・相談先

※上記画像をクリックすると拡大します。

注)複数回答。

 もう一つの理由は、母親側に、家族以外のサポートの利用に対する不安・抵抗感など心理的な壁があるのではないかと考えられる。図7は、出産後のサポートについて、「外部のサポートサービス」を利用しなかった人に対して、利用しなかった理由を複数回答形式でたずねた結果である。「利用の必要がなかったから」という理由が上位2位だが、3位以降は、「サポートサービスの内容がよくわからなかったから(18.7%)」「手配するのが大変そうだと思ったから(18.0%)」「外部のサポートサービスを受けることに抵抗や不安があったから(17.5%)」という、未経験・知らないゆえの不安感や抵抗感を感じていた。

 

図7.外部のサポートサービスを利用しなかった理由(複数回答)

図7.外部のサポートサービスを利用しなかった理由(複数回答)

※上記画像をクリックすると拡大します。

※外部のサポートサービスを利用しなかった人(1,404人)を対象

母親の「知らない」を解消し、「休息」を支援するには

 出産後のサポートについての情報が母親に届いていないこと、外部のサポートの利用にあたり、母親に不安感や抵抗感があることなどの課題は、いずれも情報をわかりやすく伝えることで解決できるのではないだろうか。

 政策では、「妊娠・出産・育児の切れ目ない支援」を目的にした妊娠・出産包括支援モデル事業の一環として、「母子保健コーディネーター」の市区町村での設置を進めていく。「母子保健コーディネーター」は、母子手帳交付時から、妊婦に対して、出産後の生活まで含めたケア・プランを作成し、必要なサポート・ケアを提供する機関につなぐ役割を担う。今後、この新しい制度によって、妊婦が出産後のサポートサービスを知らない状況が解決されるだろう。

 行政や外部のサポートサービスの情報提供において、母親の「外部のサポートサービス利用に対する抵抗感や不安を払しょくするには、情報提供の方法について工夫が必要であろう。サポート・ケアについて、どんな人が利用できるのか、どんな内容のサポート・ケアを提供しているのかを、必要性とともに伝えることである。たとえば、施設型の休息サポート事業として、「産褥入院」という用語を使っている事業者があるが、妊産婦にとって、この用語だけでは、自分は対象になるのか、どんな時に使えるのか、想像できないだろう。

 また、最近は商品やサービスの購入の際に「口コミ」を重視して意思決定する人が増えている。家庭訪問型の家事・育児援助のサポートについても、利用した人の評判(口コミ)を掲載することで、母親の抵抗感や不安の低減につながると考える。

 最後に、「母子保健コーディネーター」が、出産後の生活についてのケア・プランを作成する場には、配偶者の同席を望みたい。配偶者も出産後の生活がどのようなものになるかをともに理解することで、よりよいサポートができるようになるだろう。外部のサポートサービスの利用が必要な場合は、出費が生じる場合もあるが、経済的な負担に対する配偶者の理解を得られやすくなるだろう。

 出産後は、赤ちゃんの健やかな成長に周囲の目が注がれ、母親の回復に向けた意識が薄れがちであるが、本調査の結果から、母親の休息を支援するサポートについても、社会的な支援が充実していくことを願っている。

 

(1) ベネッセ教育総合研究所(2015年)産前産後の生活とサポートについての調査
※調査結果については、調査レポートと基礎集計表をご覧ください。

(2) 福永一郎(2014年)
「地域での産後ケアの展開に関する論考~ソーシャルキャピタルの醸成と活用
『厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合事業)協力研究報告書』」P.13-15.

(3) 調査では、「自治体・民間・NPOなどが提供するベビーシッターやヘルパーサービス。
産後対象のサービスも、対象時期を限定しないサービスも含む。」と定義。

(4) 福島富士子他(2012年)
「全国の市町村を対象ととした産後ケア事業アンケート調査
『厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合事業)協力研究報告書』」P.10-20.

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著者プロフィール

持田 聖子
もちだ せいこ

2006年より現職。
妊娠・出産期から乳幼児をもつ家族を対象とした意識や実態の調査・研究を担当。 これまで担当した主な調査は、「妊娠出産子育て基本調査」(2006年~2011年)、「首都圏“待機児童”レポート」(2009年~2011年)「未妊レポート─子どもを持つことについて」(2007~2013年)など。生活者としての視点で、人が家族を持ち、役割が増えていくなかでの意識・生活の変容と環境による影響について調査・研究を行っている。

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