次世代育成研究室

研究室トピックス

変わりゆく子育て環境と家族の実態
 ~第5回 少子化社会と子育てより 研究員の目~

2016年02月18日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長 高岡純子

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  2010年に「イクメン」は流行語大賞に選ばれ、社会的認知が広がった。また、2020年までに、父親の育児休業取得率を13%とする政府目標が掲げられている(*1)。共働きが増加し家族のライフスタイルが大きく変わる中、子どもにとってよりよい成育環境を整えるために、父親はどのような生き方を目指し、どのように家族にかかわればよいのだろうか。

  「教育フォーカス 特集9 少子化社会と子育て 第5回」では、「変わりゆく子育て環境と家族の実態」をテーマに取り上げた。小﨑恭弘先生(大阪教育大学)は、父親の子育て参加が注目されてきた経緯、どのようにして父親が子育てに主体的に関わることができるのか、その支援のあり方と課題について説明された。大日向雅美先生(恵泉女学園大学)は、「育児疲れ」をキーワードに二極化している家族のそれぞれの姿(母親・父親・祖父母)と家族を支える仕組みとしての地域の子育て支援の重要性について示された。

  「第3回乳幼児の父親についての調査」(2014)によると、少子化時代に生まれ育ったために子どもに触れる経験が少ないままに父親になった人は、「親になる自信がない」、「安心して子育てできる社会ではない」という不安を様々に感じている様子がみられる。先生方が指摘されたように、子育ての初心者である父親の支援や第三者による家族への支援が必要とされていることがうかがえる。

  一方でそのような不安を抱える中でも、家庭の生活スタイルに合わせ柔軟に子育てに取り組む父親の様子も見られる。共働き家庭の父親の約3割は子どもの通園の送迎を行い、帰宅時間も父親全体の平均より早く、日常の子育て頻度もより高い傾向が見られた。中学校では家庭科の男女必修化が1993年より始まり、現在30代半ばより若い男性は学生時代に家庭科を学んだ経験を持つ。今回の調査でも年齢が若いほど、家事や子育てへの取り組み頻度は高い。父親の子育て頻度の高さは父子の愛着関係に影響し、それが父親の子育て肯定感につながることが先行研究(*2)によって明らかにされている。父親の子育て肯定感の高さは、子どもにとっての良質な子育て環境につながるため、父親にも子どもにも、そして母親の負担を軽減する意味でも父親の子育てへのかかわりは家族によい影響をもたらすといえるだろう。

  しかし父親のワークライフバランスはなかなか進んでいない。国際的にみると、家事(家事・育児・介護・雑用などの無償労働時間の合計)の男女別分担調査(*3)では、日本男性の1日の平均時間は62分。これはOECD加盟国29か国のうちで27位である。女性は1日299分であり、男女差はまだまだ大きいようだ。また、日本男性の育児休暇取得率は2014年時点で2.3%でありほとんど変化がない。家事や子育てにかかわる意欲が増加しているにもかかわらずなぜ伸びないのだろうか。「第3回乳幼児の父親についての調査」では、首都圏に住む父親の育児休業を取らない理由の上位は「忙しくてとれそうもないから」「職場に迷惑をかけるから」である(図1)。企業に育休制度があるにもかかわらず、仕事の忙しさや職場に気兼ねをするためにとることができない父親の様子がうかがえる。職場の風土によって父親の帰宅時間に差が見られることも調査により確認された。子どもが病気の際に休んだり早退しやすい職場や、子育てに理解のある上司がいる職場の場合、帰宅が20時以前のグループのほうが21時以降のグループに比べて高い。小さい子どもは突然熱を出すことも多いため、柔軟に働ける職場であることや男性の子育てに理解のある上司(イクボス)の存在が、帰宅時間を早め、子育てにかかわる頻度の高さにつながっているようだ。

  家族のライフスタイルは、日本社会の変化と密にかかわっている。よりよい子どもの成育環境を考えるには、家族内だけの問題ではなく、家族をとりまく人々や地域のあり方も含め広い視野に基づいたグランドデザインが必要である。また、家族は成長していくものでもある。子どもの誕生とともに親も初心者としてスタートをきり、周りに支えられながら成長していく。スムーズに親へ移行していくためには、親自身が早い時期から子育てにかかわり子どもとの愛着関係を築くことが大切であり、そのために適切に子どもにかかわれるような周囲の支援やネットワーク、環境の整備、情報の提供などが求められるのではないだろうか。特に日本では前例の少ない父親の子育てには今後きめ細やかな支援が必要になるだろう。
 
 
図1.育児休業を利用しなかった理由

*複数回答。0歳~6歳就学前の子を持つ父親のうち、子どもの出産前後から1歳2ヶ月までの間、育児休業制度を利用しなかった人が対象。
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第3回乳幼児の父親についての調査」(2014年)

 

(参考)

(*1)第3次少子化社会対策大綱 平成27年3月20日閣議決定(http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/law/pdf/shoushika_taikou2.pdf

(*2)ベネッセ教育総合研究所「第1回 妊娠出産子育て基本調査・フォローアップ調査」(2006~2009年)

(*3)OECD,Balancing paid work,unpaid work and leisure、2014


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>>   教育フォーカス 特集9.少子化社会と子育て [第5回]変わりゆく乳幼児の家族の実態とは?

 



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