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【調査研究】大学の成績評価が果たすべき役割を考える

2014年09月04日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 研究員  松本 留奈

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主体的な学び

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日本の就職活動において大学の成績はさほど重視されておらず、多くの大学生が成績に対して高校までの教育段階ほどのこだわりを持たないのが実情だ。20歳前後の大切な4年間の学びへの評価が、学生にとって、卒業後の進路につながる、こだわりのあるものになり得ていないのは、なぜだろうか。ここでは「大学の成績」と「大学での学習」「汎用的能力」「就職活動」との関連性を明らかにし、大学の成績評価が果たすべき役割について考えてみたい。

 

“主体的・能動的な学習”と“成績”の関連は、“汎用的能力”との関連に比べ弱い

『第2回 大学生の学習・生活実態調査(2012年)』の結果を用いて、大学4年生の11月時点における学習への主体的・能動的な取り組みと、大学の成績、汎用的能力、さらに進路決定状況の関連をみたのが図である。主体的・能動的な学習とは「授業の受講のマナー」「ディスカッションへの貢献」「計画的、継続的自主学習」「興味に基づいた自主学習」「授業の予習・復習」といった因子をもつ26項目にどれくらい取り組んでいるかを、汎用的能力とは「問題解決力」「コミュニケーション能力」「計画的行動力」「安定した精神力」といった因子をもつ6項目がどれくらい身についているかを示したものである。

まず注目したいのが、「主体的・能動的な学習」と「汎用的能力」との間にある強い相関である。授業をはじめとする大学の学習に対する、学生の主体的・能動的に取り組みが、大学教育に求められる汎用的能力の涵養につながることが、このデータから読み取れる。

一方、「主体的・能動的な学習」と「汎用的能力」との相関に比べ、「主体的・能動的な学習」と「大学の成績」の相関は弱い。このことは、学生の主体的・能動的な学習への取り組みを、大学の成績評価システムが十分に捉えきれていないことを意味しており、主体的・能動的学習への転換を求める大学教育改革の観点からみると、課題といえるだろう。


 

大学の“成績”は“進路決定”に関係しない

さらに、「進路決定状況」との関連をみてみよう。「汎用的能力」に比べ、「大学の成績」と「進路決定状況」の間の相関は弱く、大学の成績が、企業など学生を受け入れる側に参考とされていないことがわかる。おそらく、レポートや出席率を主な評価基準としたり、成績評価が尺度やスコアのみである場合も多いため、学生の具体的な姿勢や取組みが見えづらく、社会が求める力を測る指標とはいえないのだろう。 




学生の多様な能力をどのように評価するかは、大学にとって急務の課題

昨今のグローバル化の加速に伴い、就職活動のライバルが海外の大学生となる日も近いだろう。例えばアメリカの大学生は、将来のキャリアに直結した学びを修めた証明となる成績を持って、就職活動に臨むことは周知の事実である。このような状況を鑑みると、学生が大学の学習からつかみとった多様な能力をどのように評価するかは、大学にとって急務の課題だといえる。大学が学生の多様な能力を評価することが、進路決定によりよい影響を与えると同時に、学習に対するモチベーションを向上させ、日本の学術・産業発展につながる好循環を期待したいと思う。

 

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