高等教育研究室

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【調査データをよむ】
大学生が満足感を高める授業についての「3条件」

2014年10月20日 掲載
 高等教育研究室長  樋口 健

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政府の誘導もあり、多くの大学ではアクティブ・ラーニングなどの授業改革が進められている。実際、2012年11月にベネッセ教育総合研究所が実施した「第2回大学生の学習・生活実態調査(以降大学生調査)」でも2008年から2012年にかけて、ディスカッションやグループワークなどの経験率が増加している事実が確認された。しかしこれは、思考力や課題解決力を育成しようとの教育提供側の視点に立つもので、必ずしも学生視点に立ちその内的な要求に応えることを意図したものではない。

そこで本稿では、大学生調査の結果から判別分析という手法を用いて、大学生の教育・授業に対して満足するか否かを識別し得る授業経験を学年別に特定した。もって、特に大学生が満足感を得る授業とは何かその条件を探った。


「教員との交流」「学生の意見が反映される」「学びの内容と将来との関わりを考える」授業が、学生の満足度を高める三大条件

図の数値を見てまず気づくのは、1年から3年を通して「①教員と授業時間内に交流ができる授業」「②学生の意見や授業評価の結果を反映させた授業」「③学んでいる内容と将来について考えられる授業」の経験が、学生の抱く教育への満足感を規定する主な要因となっていることだ。

特に1年生では7項目が満足度を高めるプラス要因として挙げられているのに対して2年生になると、これが上記した3つの要因に一気に絞られ、その傾向が3年まで続く。様々な授業を履修した学生は、良い授業と思える本質的な要素が何なのか、経験と実感の中で集約されるということだろう。また4年生では通常の授業が少なくなる故か、授業内での教員との交流から、小人数のゼミやプレゼンテーションを取り入れた授業に項目が移るのが特徴だ。


図 大学の授業への満足度を高める授業経験(学年別)
-判別分析を用いた整理-

(注1)授業経験を把握する項目は調査票上は20項目あるが、判別分析ではステップワイズ法を用いて統計的有意となる項目に絞り込んだ。その上で教育・授業への満足度にプラス作用する項目を表示した。
(注2)表中の数値は各授業が学生の満足度を高めるか否かを示す係数。数値が大きくなるほど、各項目の授業経験の状況が学生の教育満足度を高めていることを意味する。


青年期の大学生が求める「授業への思い」

ところで、「教員と学生の交流」「学生の意見の反映」「学んでいる内容と将来について考える」という授業の要素は、私見であるが、授業の形式論や流行論ではないいずれの時代にも共通する、学生が求める普遍的な大学教育の姿が見て取れるのではないか。

授業の中で善き教師と出会い大いに刺激と薫陶を受ける。学生自らが主体的に参画し学びの共同体としての授業を作り上げていく。そのダイナミックなプロセスの中で学生が社会と自らの将来の生き方を模索していくという姿である。

理想論や観念論に聞こえるかもしれない。現実には、学習しない大学生、課題について考えようとしない大学生など、その問題点が指摘され、だからこそ能動的な学習を求めてアクティブ・ラーニングの導入を促している。それは正論だ。しかしその一方で、この全国約5000人(4911人)の大学生学生のデータからは、成人への移行期において知的な成長と社会的な自立を求める学生たちの、「青年らしい大学教育への素直な思い」を感じ取ることもできるのではないか、と思えるのである。

教育編成の原理として「学生中心設計」という理念もある。その内実を作り上げる一助となれば幸いである。




樋口 健(ひぐち たけし ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室長)

1990年民間シンクタンクに入社後、我が国の研究者長期需給予測、大学設置・改変構想、リカレント教育推進、大学を核とする地域振興、大学発ベンチャー促進支援等、高等教育関連の公共政策、実践課題の解決に資するリサーチ・コンサルティングに多数携わる。2007年ベネッセ教育総合研究所移籍後も、高等教育の諸問題をテーマとする調査研究を続けている。

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