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教育委員会向け

【特集連動】『VIEW next』教育委員会版2021 Vol.2
「総合的な学習の時間」を中心に感染症予防教育を実施
生徒自身の課題認識から、コロナ禍での意識と行動のあり方を考える
〜愛知県 尾張旭市立旭中学校

2021.08.10

愛知県尾張旭市立旭中学校では、3年生の国語科と英語科で、パフォーマンス課題やルーブリックによる学習評価を行っています(詳細は本誌P.12~15参照)。2021年2〜3月には「総合的な学習の時間」を中心に実施した感染症予防教育を通じて、生徒は、自身の日常生活を振り返り、それぞれの課題認識から感染症予防策を考え、実行し、その過程ではルーブリックも活用しながら、自己評価をしました。また、同時期に、8教科以上で感染症を題材にした授業を行い、生徒は感染症予防について多角的に考えを深めました。本記事では、その取り組みを具体的にお伝えします。

本誌記事はこちらをご覧ください。

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生徒に、内発的動機に基づく感染症予防行動をさせたい

 愛知県尾張旭市立旭中学校の2年生は、2021年2月から約1か月間かけて、感染症予防教育に取り組みました。それは、学年主任の彦田(ひこだ)泰輔先生が抱いた課題意識がきっかけでした。

 「生徒は、感染症予防について理解し、対策も行っていますが、普段の授業ではその場の雰囲気や盛り上がりを優先してしまい、対策をおろそかにしてしまう場面も見られました。教員が、『手洗いをしよう』『3つの密をさけよう』と注意するだけではなく、生徒の自主性に働きかける必要があると考えました」

 日本では、罰則規定による強制力ではなく、国民の自発的・自律的な行動によって新型コロナウイルスの感染拡大を抑えてきた状況です。今後、ワクチンや治療薬が普及したとしても、感染症予防の知識や意識は重要になると、彦田先生は考えました。そこで、学年団の先生方に相談しながら、生涯持続する感染症予防に対する意識を育むことを目的とした授業計画を作成。「総合的な学習の時間」の3時間と、特別活動の1時間をかけて感染症予防教育を実施することにしたのです。

OODA(ウーダ)ループで考えたことを「はがき新聞」で可視化

 同校の感染症予防教育の名称は、「感染症から身を守る私たちの衛生プロジェクト」。学習目標は、「小学生が感染症予防を学べるようなトランプを作成して、学区の小学校にプレゼントする」こととしました。目標達成に向けて、生徒は、自身の日常生活から課題を見いだし、自分や周りの人を感染症から守る方法を考えました。そして、その過程で感染症予防の知識や衛生習慣について学び、最後に自身の活動を「はがき新聞」(図1)にまとめました。

図1 生徒が作成した「はがき新聞」 ※画像をクリックすると拡大します。

生徒が作成した「はがき新聞」
「はがき新聞」とは、はがきサイズほどの新聞形式の原稿用紙を使って、自分の考えや体験をまとめて、相手に伝えるツール。公益財団法人理想教育財団が提唱している。
※旭中学校の提供資料をそのまま掲載。

 授業は、図2の手順で進められました。

図2 「感染症から身を守る私たちの衛生プロジェクト」計画表
   (特別活動1時間、「総合的な学習の時間」3時間)
※画像をクリックすると拡大します。

「感染症から身を守る私たちの衛生プロジェクト」計画表
(注1)問題の原因を分解し、課題を具体化するための思考ツール。 
(注2)アイデアを効率よく選ぶためのフレームワークで、「効果」「実行しやすさ」の2軸で4象限に区切ったマトリクスを使う。ペイオフマトリクス。
※旭中学校の提供資料を基に編集部で作成。

 今回の授業で取り入れたのが、OODA(ウーダ)ループです。Observe(観察)、Orient(方向づけ、仮説構築)、Decide(意思決定)、Act(行動)の頭文字を取ったビジネスメソッドで、先が読めない状況で意思決定を行うための手段としてアメリカで生まれました。授業は、OODAループを活用し、感染症予防に対して、生徒が自身の行動を振り返って課題を見いだし、情報を収集。そして、情報を整理・分析しながら問題解決のための仮説を立てて、解決策を立案・実行し、その過程を表現するという展開にしました。

 具体的にはまず、生徒が自身の日常生活を振り返るために、学校で独自に作成した「感染予防生活習慣チェックアンケート」を実施しました。感染症の情報収集、衛生習慣など、全18項目について4件法で回答し、その結果を数値化して、学年平均やクラス平均を算出しました。

 「生徒はニュースなどから感染症予防についての情報は得ていますが、これまできちんとした学習の機会があったわけではありませんでした。そのため、アンケート項目が、感染症予防の具体的な行動指標にもなったと思います」(彦田先生)

 生徒は、レーダーチャートで表された学年平均・クラス平均と、自身の点数とを比較しながら感染症予防に関する生活習慣の状況を分析。その結果をグループで確認し合い、自身の日常生活に結びつけて課題を見いだしました。そして、課題の原因を探り、それを克服するために何をすればよいのか仮説を立て、その中から1つを選んで行動に移しました。2週間後、再び「感染予防生活習慣チェックアンケート」を実施し、自身の変化をチェック。その結果も含め、学習したことを「はがき新聞」にまとめました。

 「本校では、普段の教科学習や特別活動の中で、活動内容を『はがき新聞』にまとめています。今回は、OODAループの4段階を『はがき新聞』にまとめることで、生徒一人ひとりが学習の成果を可視化できました」(彦田先生)

最初に目標を提示して学習の見通しを持たせ、最後に達成度を自己評価

 本プロジェクトで生徒が学んだことを可視化できるようにしたのが、自己評価表です。振り返りの授業において、同校が「総合的な学習の時間」で育成を目指す資質・能力として掲げている「課題設定力」「課題解決力」「情報活用力」「対話力」「思考力」の到達度を、それぞれ3段階で自己評価しました(図3)。

図3 「感染症から身を守る私たちの衛生プロジェクト」自己評価表
※画像をクリックすると拡大します。

図3 「感染症から身を守る私たちの衛生プロジェクト」自己評価表
※旭中学校の提供資料をそのまま掲載。

 「自己評価表で目標を意識することにより、見通しを持って学習に取り組むことを期待しました。感染症の全体像などを説明した最初の授業の時に、本プロジェクトの手順を示したワークシートとともに、本評価表を生徒に渡しました」(彦田先生)

 さらに、自己評価表には、授業を行う各クラスの担任が、教育目標として掲げた資質・能力を生徒に育成するための指導の工夫も考えられるようにする意図もありました。

 自己評価表の生徒のコメントからは、感染症予防だけでなく、「課題設定力」「課題解決力」「情報活用力」などの向上を目指して行動しようとする一面も見られました。

「レベル3に到達することを意識して行動できた。これからも継続したい」
「いろいろな人の声を聞く活動を通じて、自分は情報活用能力が不足していると気づいた。その課題を克服したい」
「他者とかかわり合いながら、自分で課題を見つけて、その達成に向けて努力する過程がよく分かった」

多角的に考えを深められるよう、教科学習でも同じテーマを取り上げる

 同時期に、8つ以上の教科で感染症予防に関する題材を取り上げたことも、今回の感染症予防教育の大きな特徴です(図4)。理科や保健体育科では、3年生の学習事項を2年生に前倒しして取り上げました。

図4 各教科で実施した感染症予防に関する授業
※画像をクリックすると拡大します。

図4 各教科で実施した感染症予防に関する授業
※旭中学校の提供資料を基に編集部で作成。

 「『総合的な学習の時間』、特別活動、教科学習と、教科横断で感染症予防について学べるようにすることで、生徒が様々な角度から感染症予防を捉え、考えを深めていくことを期待しました。学年共通の目標の下で、教員それぞれが専門性を発揮して授業づくりに取り組めたと思います」(彦田先生)

 例えば、国語科の授業では、「はがき新聞」を基に感染症の「パワーワード」を考案。「意識して手洗い消毒念入りに」「友だちとの間をドッジボール2個分空けよう!」など、挙げられた言葉を書いたオリジナルトランプ(写真)を作成して、校区の4つの小学校に6セットずつ贈りました。

写真 オリジナルトランプ

オリジナルトランプ

感染症予防教育を通じて、これからの生き方を考える

 生徒は、1か月間で様々な学びを得たようです。

 生徒が作成した「はがき新聞」には、「寒いからという理由で換気ができていない」「友だちから言われると手をつなぐことを断れない」などと書かれており、自分の行動を客観的に観察している様子がうかがえました。そして、「自分から『手をつながないように気をつけよう』と言う」「換気を2時間おきにする」といった具体的な行動が挙げられていました。

 また、「感染予防生活習慣チェックアンケート」では、「感染症に関する情報収集」「友だちとの3密の回避」「家庭での感染症予防に関する話し合い」の3項目で、2回目の結果数値が1回目よりも上がっており、生徒の意識の変化が分かります。

 彦田先生は、取り組みの成果と今後について、次のように語りました。

 「感染症予防というテーマを通じて、『分かっているのにできないのはなぜか』『公共と個人はどういった関係なのか』『責任を果たすとはどういうことか』といったことを考えることは、生き方教育にもつながります。OODAループの手法も、今後、様々な問題解決に活用できるでしょう。感染症予防教育を通じて学んだことを生徒が自覚し、自身の生活に生かせるような声かけを、卒業まで続けていきたいと思います」






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