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第123回 中学校のテストの変化に見る今後問われる学力
-記述式の出題が増える背景から保護者が考えたいこと-

2017年08月01日 掲載
研究員 佐藤 徳紀

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入試改革 次期学習指導要領 中学校 定期テスト

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 人生において“入試”は大きなイベントの1つである。多くの方が大学進学する際に入試を経験し,大変な勉強をされたことだろう。その大学入試が2020年に向けて大きく変わろうとしている。

 文部科学省は,育成すべき学力を3つ示している。「知識・技能」,「思考力・判断力・表現力」,「学びに向かう力・人間性」だ ※1。2020年の新しい大学入試では,今まで「知識・技能」中心だった入試を変え,「思考力・判断力・表現力」,「学びに向かう力・人間性」を問おうとしている。その出題形式として着目されているのが,“記述式”の出題である。

 しかし,「思考力・判断力・表現力」の育成が重視されたのは,今に始まったことではない ※2。そして,この学力の育成は,以前から重視され,さらに現在進行している幼児から大学までの教育改革の一つであるため,中学生にも無関係ではない。

 本稿では,“記述式”の出題に着目し,現在の中学校のテスト(以下,定期テスト)の変化と今後の大学入試の変化について述べ,その背景から今後望ましいと筆者が考える,保護者と子どもの関わり方について考察したい。

「記述重視」になる中学校の定期テスト

 定期テストの変化を知るために,「第6回学習指導基本調査(第6回学習指導基本調査 DATA BOOK(小学校・中学校版)[2016年])の,中学校教員の回答(公立中学校教員 3,689名)の結果を示す。この調査は,ベネッセ教育総合研究所が1997年から数年おきに全国の小学校・中学校・高校の教員を対象として実施しているものだ。

①入試問題への対応

 図1に示したグラフは,定期テストで「入試問題に対応した問題を出す」ことを考慮すると回答した中学校教員の比率である。過去4回の調査も含めて比較すると,近年,増加傾向にあることがわかる。

 

図1 定期テストで「入試問題に対応した問題を出す」ことを考慮している中学校教員
  (経年変化

図1 定期テストで「入試問題に対応した問題を出す」ことを考慮している中学校教員(経年変化)

*選択肢の「とてもあてはまる」「まああてはまる」「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」の4択より、2択分を図示した。以下,同様。

 

 また,10年と16年の調査を学年別に比較したところ,「入試問題に対応した問題」を定期テストに出すと回答した比率が増加しているのは,受験学年である中学3年生だけではなく,どの学年も同様であった。中学校教員全般に,入試が強く意識されるようになっている。

②増加する「記述式」の問題

 次に,定期テストで「論述式(記述式)の問題を出す」ことを考慮すると回答した中学校教員の比率を示す(図2)。こちらも,過去4回の調査と比較して,16年は増加していることがわかる。また,10年と16年の調査を比べると,どの学年でも増加しており,この傾向も学年によらない。

 

図2 定期テストで「論述式(記述式)の問題を出す」ことを考慮している 中学校教員
  (経年変化

図2 定期テストで「論述式(記述式)の問題を出す」ことを考慮している中学校教員(経年変化)

*調査時点での質問は「論述式」と記載したが,教員は「記述式」を意図して回答したと解釈している。

 

 つまり,今の定期テストの変化について,以下の3つのことが言える。

  • (1)「入試に対応した問題」を意識した出題が増加した。
  • (2)「論述式(記述式)の問題」を意識した出題が増加した。
  • (3)中学3年生だけではなく,1~3年すべての学年で同様な傾向がみられた。

 この結果は,中学生の段階から,記述式のテストに対応する力を身につける必要があることを示唆する。直ちに,すべての中学校,すべての教員が定期テストの出題形式を変えているわけではないだろう。しかし,少なくとも,現行の学習指導要領で重視されている「思考力・判断力・表現力」を問う内容を意識した変化の一つだと考えられる ※2。実際に,公立高校でも同様の変化が起きている。例えば,神奈川県では2013年に高校入試が大きく改訂され,記述式を重視する内容に変わっている ※3

大学入試も「思考力・判断力・表現力」重視で記述式問題が増加

 このような動きと並行して,大学入試も「思考力・判断力・表現力」を重視したものに変わる。今の中学3年生以下の子どもたちは,大学入試センター試験に代わり「大学入学共通テスト」を受ける。このテストには,「思考・判断の能力や,その過程を表現する能力をよりよく評価する」ために記述式が導入される  ※4

 図3に示したのは,「国語総合」で示されたモデル問題の一例(一部抜粋)だ ※5。問題文から条件を読み取り,目的に合わせて登場人物に行うべきアドバイスの内容を,120文字以内で記述する。「従来のセンター試験」の問題と比較して考えると,出題形式が記述式であり,正答が一つではなく,その変化は大きい。

図3 「大学入学共通テスト」における記述式のモデル問題例(一部抜粋)

図3 「大学入学共通テスト」記述式のモデル問題例(一部抜粋)

*平成29年5月公表の,モデル問題例より一部抜粋して掲載している。

 これまで示してきたテストや入試で重視されようとしている力は,自ら情報を集め(インプット),文脈や条件に合わせて自分なりに思考・判断し,言葉にして表現すること(アウトプット)を繰り返すことで身に付くものだ。従って,思考・判断を伴うインプットとアウトプットを,自分から繰り返し続ける意欲(学びに向かう力)を持つことが,これからの入試で必要な力を得るためには不可欠だ。

 前述の通り,2020年から実施される次の学習指導要領では,「思考力・判断力・表現力」の育成がさらに重視される。記述式の問題に象徴されるように,受験生にその力を問う出題はいっそう増えると考えられる。高校入試も,こうした教育改革全体の動きと連動して変化していくことが予測される。その背景には,主体的に考え,行動し,他者と協働しながら自分なりの答えを導き,それをしっかりと表現できる人材を育てなければならないという,社会からの要請がある。

保護者が考えたいこと

 思考力や判断力を高める上で必要な「自分から繰り返し学び続ける意欲」を高めるために,保護者はどのようなことに配慮したらいいだろうか。そのことを考えるために,2つのエピソードを紹介したい。まず,ある保護者が中学3年生の子どもとの関わりについて語ったエピソードだ。

 「夏休みに入り,勉強に対して意識は変わってきましたが,どう勉強して良いのかわからない様子でした。そこで,どの問題集を使って勉強するのかを子どもと一緒に話し合い,最終的に子ども自身に決めさせました。勉強内容はよく分からないので教えられませんでしたが,毎日,学習した内容と,面白いと感じたことや疑問に感じたことを子どもに聞きました。すると,意外にも,学習を通していろいろなことを感じていることに気付き,素直に『そんなことが分かったのか』『面白いね』などと感想を伝えて,子どもをほめました。その結果,子どもは学習に積極的になり,日々の会話も楽しくなりました。」

 この保護者は,「自ら考えて勉強してほしい」ということ伝えるために,勉強の仕方について子どもに考えさせ,子ども自身に判断させた。また,学習自体だけでなく,学習を通して思考したことをほめた。言い換えれば,子どもの努力の過程に焦点をあてて,その重要性を“ほめる”という形で伝えている。

 一方,保護者からの声掛けについてある中学1年生に話を聞いたところ,もとは嫌いだった勉強を,少しずつ前向きに捉え始めた理由を,以下のように語っていた。

 「できたところはほめてくれて,だめなところはちゃんと教えてくれる。お父さんは分からないところにヒントをくれて,お母さんはテストを見直してアドバイスをくれる。例えば,文章を読み解く力が足りなかったら,教科書や小説を読んでみたらなど具体的に教えてくれる。それで,実力テストの成績をお母さんにほめられて,前よりも勉強をするようになったし,勉強が好きになった。」

 子どもは,結果に対する反応だけではなく,具体的にアドバイスされたこと自体をポジティブに捉えている。具体的なアドバイスもプロセス中心で,子ども自身が勉強の仕方について考えることにつながり,学びに向かうことができたようだ。その結果として,子どもは勉強を前向きに捉えるようになった。

 社会で直面する課題は,正解が一つとは限らない。そんな世の中で生きていくためには,自ら何をすべきかを思考し,判断して,表現し“続ける”ことが必要だ。定期テストは,中学生がその力を身に付ける機会の1つと言える。その機会をうまく活用できるように,保護者は子どもに働きかけたい。

 記述式の問題は,「結果」だけではなく,思考の「プロセス」も問うものである。そのプロセスで,いかに自分なりの道筋を見つけるかが重要だ。そのため保護者ができることは,結果よりも過程を重視して,何度もそのプロセスを経験できるように,日常的に,“子どもを応援すること”,“その機会を増やすこと”ではないだろうか。特に,子ども自らが,積極的に物事に向き合い,思考や表現する機会を提供するには,本気で子どもに向き合う必要がある。“一生学び続ける”力を養うためにも,子どもの試行錯誤を大切にして,それを奨励するように接すべきだろう。


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著者プロフィール

佐藤 徳紀
さとう とくのり

ベネッセ教育総合研究所 研究員

2012年(株)ベネッセコーポレーションに入社後、中学生向けの理科教科の教材開発を担当。2016年6月から初等中等領域の調査を担当後、情報企画室の研究員に着任。専門は電気工学、エネルギー・環境教育、理科教育、博士(工学)。担当した主な調査は、「第6回学習指導基本調査」(2016年)、「子どもの生活と学び」研究プロジェクトの質的調査(2016年)など。これまでの主な論文は、「中学生の理科の好みに及ぼす電気の学習の影響」(2011年)、「中学校と大学の連携によるエネルギーを題材とした理科学習プログラムの開発」(2011年)など。

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