初等中等教育研究室

ベネッセのオピニオン

第10回 子どもたちの学校外教育活動の課題
-活動費用に重い負担感、依然として残る大きな格差

2013年06月28日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 初等中等教育研究室
室長 木村 治生

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子どもたちは、学校外でどのような活動を行っているのか。それは、経年でみて、どのように変化をしているのか。

ベネッセ教育総合研究所では、4年ぶりにスポーツ活動、芸術活動、家庭学習活動、教室学習活動の4種の活動についての実態調査を行った。ここからは、不況の影響で世帯年収が減るなかで、多くの保護者が費用に重い負担感を感じている実態が明らかになった。また、学校の教育課程が変わって「脱ゆとり」の影響を受けたためか、スポーツや芸術よりも勉強を重視してほしいといった保護者の意識も高まっている。スポーツや芸術を親子で楽しむ機会も減っている様子で、子どものバランスよい成長を考えると心配な傾向だ。

今回は、調査結果から、こうした学校外教育活動の課題について考えてみたい。

学校外教育活動の変化

「学校外教育活動に関する調査」は、2009年に引き続き、2013年に実施した。調査時期はいずれも3月末で、3歳から18歳(高校3年生)の子どもを持つ母親16,480名に対して、1年間をふりかえってもらう形で活動実態をたずねている。

2009年調査は3歳から17歳(高校2年生)の子どもを持つ母親を対象に実施しており、2013年調査も条件を揃えて18歳(高校3年生)を除く15,450名を分析対象とした。

主な結果は、以下の4点である。

第一に、それぞれ活動率(何か1つでも継続的に活動を行った比率)は4年前から大きく変わっていないものの、わずかに減少している。スポーツ活動は57.8%→55.6%(2.2ポイント減)、芸術活動は32.7%→29.6%(3.1ポイント減)、家庭学習活動は64.5%→60.1%(4.4ポイント減)、教室学習活動は42.2%→41.9%(0.3ポイント減)といった具合だ。

第二に、それぞれの活動にかける費用も減少した。ひと月にかける費用の平均額は、スポーツ活動で3,700円→3,300円(400円減)、芸術活動で2,200円→1,900円(300円減)、家庭学習活動で3,400円→2,900円(500円減)、教室学習活動で7,400円→6,900円(500円減)と変化した。

第三に、費用に対する重い負担感が際立つ。「教育にお金がかかり過ぎると思う」は3分の2の母親が肯定する。また、「不況で教育費を減らした」という回答も4人に1人を超えており、家計の厳しい状況をあらわしている。スポーツ活動では、活動にかかる費用は減少しているにもかかわらず、「活動にかかる費用の負担が重い」が63.0%→65.0%と微増した。この傾向は、芸術活動も同様である。

第四に、スポーツや芸術よりも勉強を重視する意識が強まっている。「運動やスポーツをするよりももっと勉強をしてほしい」を肯定する比率は、26.8%→34.8%と8.0ポイント増加した。また、「音楽や芸術の活動をするよりももっと勉強をしてほしい」も31.7%→39.5%と7.8ポイント増加している。こうした意識を反映してか、母親や父親が子どもといっしょにスポーツや芸術の活動をする機会が少なくなっているようだ。たとえば、保護者がいっしょに「子どもとスポーツをする」かどうかをたずねた質問では、「ほとんどない」が37.6%→46.2%と8.6ポイント増加。「子どもといっしょに歌ったり楽器を演奏したりする」「子どもと絵を描いたり、ものを作ったりする」もそれぞれ「ほとんどない」が9.4ポイントと4.9ポイント増加した。子どもたちの体力や運動能力の低下、創造力や表現力の不足が指摘されるなかで、気がかりな傾向である。

減少する中学生・高校生の活動費

全体に学校外教育活動が停滞している印象を受けるが、それはなぜだろうか。活動率や活動費を細かく分析すると、次のようなことが分かる。

まず、活動率の低下に示されるように、活動しない子どもが増えた。また、活動している場合も、その数を減らしている。たとえば、小学生のスポーツ活動でみると、2009年調査では「0」31.4%、「1」45.3%、「2つ以上」23.3%であり、複数の活動をしている子どもが23.3%いた。これが、2013年調査では「0」35.3%、「1」45.1%、「2つ以上」19.5%となった。スポーツ活動をしていない「0」が増え、複数している「2つ以上」が減っている。このように、活動の数を絞り込む状況は、スポーツ活動だけでなく、芸術活動や学習活動にもみられる。一定程度の家庭で、習い事のかけもちをやめているのだろう。

また、費用の増減をみると、幼児や小学生に比べて、中学生や高校生の減り幅が大きい。図1は学校段階別に活動費の変化を示したものである。単純にそれぞれの活動費を積み上げた合計金額は、幼児で500円、小学生で1,700円の減少に対して、中学生は2,800円、高校生は2,200円の減少だ。

図1. 1か月あたりの学校外教育活動の費用(学校段階別)
図1 1か月あたりの学校外教育活動の費用(学校段階別)

この中学生・高校生の活動費の抑制には、世帯年収の減少が背景にある可能性が高い。従来は年功序列で年齢や勤務年数とともに上がっていった給与が、一定の年齢で頭打ちになる状況が生まれている。厚生労働省の「国民生活基礎調査」で世帯主の年代別に1世帯あたりの平均所得金額の変化(2005年→2010年)をみると、「29歳以下」8.2万円増、「30~39歳」34.9万円減、「40~49歳」65.7万円減、「50~59歳」20.5万円減であった。子どもの教育費がもっともかかる40歳代で、収入が減少していることがわかる。

今回の調査でも、子ども(第1子)の年齢別に世帯年収を算出して2009年と2013年を比べたところ、子どもの年齢が高いほうが年収の落ち込みが大きい結果になった(図2)。高校や大学などへの進学にかかる費用がかさむ年代で、家計の状況がより厳しくなったとみることができる。

図2. 世帯年収の平均(子どもの年齢別)
図2 世帯年収の平均(子どもの年齢別)
* 区分ごとにたずねた年収を、「200万円未満」は150万円、「200~300万円未満」は250万円のように換算して平均値を算出した。「わからない」「答えたくない」と回答した者は除外した。

活動費の格差は変わらずに存在

さらに、活動費の格差も変わらずに深刻だ。この間、政府は、子ども手当の支給や高校の授業料無償化など、給付政策を拡充してきた。そうした給付により、世帯年収の低い世帯で活動費が増えたかと言えば、そうではない。

図3は、1か月あたりの学校外教育活動の費用を世帯年収別に示している。「年収800万円以上」の世帯は25,600円で、「年収400万円未満」の8,500円と比べるとおよそ3倍の支出である。世帯年収により教育活動への支出が異なる状況は変わっていない。とくに、教室学習活動の費用の差が大きい。

図3. 1か月あたりの学校外教育活動の費用(世帯年収別)
図3 1か月あたりの学校外教育活動の費用(世帯年収別)

活動率でみると、教室学習活動は「400万円未満」では28.4%であるのに対して、「800万円以上」では57.6%と2倍の開きだ。ちなみに、家庭学習活動は「400万円未満」50.3%に対して、「800万円以上」は67.6%とそれほど大きな差はない。塾や予備校などの教室学習は、価格が高いため、世帯年収により通える・通えないが左右される状況が生じている。東京大学の大学経営・政策研究センターが保護者の年収によって大学進学率に差があることを実証しているが、年収による違いはこうしたプロセス段階から大きく開いている。

また、世帯年収による活動の格差は、子どもの「貧困」の問題とも重なる。今回の調査では、年収「400万円未満」の世帯が18.8%あったが、この世帯は子どもに「何も活動させていない」比率が20.7%だった。子どもの発達や嗜好に応じて、スポーツ、芸術、学習のバランスよい活動が必要だと考えるが、そうした余裕がない家庭が一定の割合で存在することも裏づける結果だ。

課題の改善をめざして

今回の調査では、全体に学校外教育活動が抑制される傾向が浮き彫りになった。学習活動に比べるとスポーツ活動や芸術活動が軽視される傾向が強まっていることや、子どもの学年が上がるにつれて重くなる費用負担の問題、世帯年収による格差の存在など、いくつかの課題も明らかになった。限られた家計収入をどのように分配するかは各家庭の切実な課題だが、子どもに必要な機会が十分でないとしたら心配だ。一人ひとりのバランスのよい育ちのために、学校や地域において必要な場を充実させるなどの対応が必要だろう。

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著者プロフィール

木村 治生
ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

ベネッセコーポレーション入社後、初等・中等教育領域を中心に子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。専門は社会調査、教育社会学。これま でにかかわった主な調査研究・論文は以下の通り。

その他活動:東京大学社会科学研究所客員准教授(2007年)、中央大学非常勤講師(2005~2008年)など

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