初等中等教育研究室

ベネッセのオピニオン

第88回 「主体的な進路選択」に必要なこと
~「高校生活と進路に関する調査」結果から~

2016年01月14日 掲載
主任研究員 邵 勤風

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進路 主体的な学び

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 学校教育法に規定されている小学校教育の「学力の3要素」(第30条第2項)は中学校、高等学校にも適用されている。高大接続システム改革会議の「中間まとめ」(平成27年9月15日)では、これからの時代に生きる子どもたちにとって必要な能力という観点から「学力の3要素」を捉え直している。とくに3つ目の要素である「主体的に学習に取り組む態度」は「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度である」と示された。学ぶ態度に関する記述が高等学校段階に合わせて、主体的に多様な人々と関わりながら学んでいく必要性が強調されている。高等学校段階はいよいよ社会に出ていく準備期間であり、自立して活動することに加え、主体的に多様な人々とともによりよい社会を創るために、社会とのつながりをより強く意識する必要がある時期と言える。

 さて、子どもたちは生活と学びの中で、どれくらい主体性を持っているのだろうか。東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所の共同研究「子どもの生活と学び」研究プロジェクトでは、2015年3月~4月上旬に、全国の高校3年生を対象とした「高校生活と進路に関する調査」を実施した。この共同研究プロジェクトは小学1年生から高校3年生までの成長にともなう生活と学習の変化(プロセス・因果)を明らかにすることを目的としており、今回の調査はその共同研究の一環として行ったものである。

 本調査では、①高校3年生での生活や学習における様々な経験や体験、活動への取り組み状況②進路選択のプロセス③高校生活を振り返っての成長実感④自分自身の「自立」状況に対する評価などを明らかにした。高校生の進路選択に関する調査は他に多くあるが、本調査は高校生の「進路選択における主体性」に焦点をあてたという点で貴重なデータである。したがって、本稿では、この「進路選択における主体性」にフォーカスし、高校3年生が「高校生活を振り返って成長実感を持てているのか」「成長実感を規定する要因は何か」「主体的な進路選択に必要なことは何か」について分析を行いたい。

成長実感に強く影響しているのは「自分で何か目標を設定して達成した」経験と「進路選択の主体性」

 3年間の高校生活に対する自己評価をみると、「自分は成長した」(「とてもあてはまる」+「まああてはまる」)と回答した高3生は約9割である。一方、1割は成長を実感していない(「あまりあてはまらない」+「まったくあてはまらない」)こともわかる(図1)。

図1 「高校3年間で自分は成長した」割合

 成長実感に影響するものとして、「学校の授業」「友だち付き合い」に積極的であること、「人の考え方や話でわくわくした経験や体験」をしていること、「自分で何か目標を設定して達成」していること、「主体的に進路を選択」していることが確認できた。(詳細は、本調査のニュースリリースを参照)
それでは、様々な経験や体験、高校生活での多くの活動のうち、より高3生の成長実感を規定するものは何だろうか。とくに、「進路選択の主体性」はどれぐらい成長実感に影響しているだろうか。その関連を明らかにするために、重回帰分析を行った結果が下表である。

使用する変数一覧

表1 高3生の成長実感の規定要因(重回帰分析)

 

 標準化偏回帰係数の大きさから、それぞれの独立変数が「成長実感」という従属変数への影響の強さを推定すると、以下のことがわかる。

 1つ目は、「自分で何か目標を設定して達成した」ことは成長実感にもっとも強く影響している。さらに、「進路選択の主体性」がこれに続く。

 2つ目は、「友だち付き合い」は「学校の授業」よりわずかではあるが、成長実感に強い影響を与えている。高校生活における友だちの重要性を改めてうかがえる。

 3つ目は、「仲間と協力して目標を達成した」ことは、有意な差は見られなかった。「主体性」「自立」という観点からみると、「仲間と協力して達成」は「自分で達成」より成長実感への影響は弱いということがわかる。

社会への貢献意識が高いが、「社会問題について真剣に考えた」行動が低い

 高校生の成長実感に強く影響する要因の一つが「進路選択の主体性」であるならば、それを高めることが重要だろう。「進路選択の主体性」に関連することはいくつか考えられるが、本稿では将来の職業に対する意識や、社会との関わりの視点を取り上げ、「主体性」との関連を検討してみたい。

図2 「進路選択の主体性」と「どのような職業に就くか」を意識した時期との関連

図2 「進路選択の主体性」と「どのような職業に就くか」を意識した時期との関連

※上記画像をクリックすると拡大します。

注:進路選択における主体性を尋ねた質問で、「自分の進路について真剣に考えた」「自分から進んで進路に関する情報を収集した」「自分の意思で進路を選択した」の3項目について、「とてもあてはまる」を4点〜「まったくあてはまらない」を1点として合計得点を算出し、「進路選択主体性・高群」「進路選択主体性・中群」「進路選択主体性・低群」に3分割した。


 主体的に進路選択を行った高3生ほど、より早い時期から「どのような職業に就くか」を意識したことがわかる。一方で「進路選択の主体性・低群」では、「高校3年生」になってから将来の職業を意識したのは3割弱、さらに2割は「意識したことはない」と回答したのが気になる(図2)。職業を意識すると、目標を持って学ぶことができるため、主体的に進路を選択するうえで重要であると考える。

 次に社会貢献についてみてみよう。社会貢献は「将来に対するイメージ」の中の一項目として尋ねているため、ここで「将来に対するイメージ」を押さえておこう(図3)。

図3 自分の将来に対するイメージ

 図3のように、「家族の幸せ」、「自分の趣味」、「経済的な自立」、「安定した仕事」といった項目が上位に入る。「社会のために貢献したい」については、13項目中上から7番目ではあるが、7割を超える回答(「とてもあてはまる」+「まああてはまる」)となっている。高3生の社会への貢献意識は比較的に強いといってよい。身近なことについての将来イメージを抱いている一方、「出世」や「高い目標にチャレンジする仕事」、「世界で活躍」といったチャレンジングなことについてはあまりイメージを持てない高3生の姿が浮かぶ。

 社会への貢献意識は高いが、高校3年間を振り返って、実際自分自身がどれぐらい社会問題について考え、行動しているのだろうか。今回の調査では、高3生の「自立」度に対する自己評価を、「生活」「興味・勉強」「考えること・行動すること」「人との関係」「自分自身・将来」の5つの側面で尋ねているが、本稿では「自分自身・将来」の中から、「社会問題への関心」を取り上げる。

図4 「社会問題への関心」の割合

 図4をみると、「社会問題への関心」については、「関心を持つ」高3生は4割5分で、「自分にできることを考える」になると3割にとどまり、さらに「自分にできることをしている」という行動レベルでは、1割となる。

社会問題は意識するだけでなく、実際行動を起こしているほうが「進路選択の主体性」が高い

 「進路選択の主体性」は「社会問題への関心」に対する意識や行動によって、変わるのだろうか。下記図5はその結果を示した。

図5 「社会問題への関心」と「進路選択の主体性」の関連

図5 「社会問題への関心」と「進路選択の主体性」の関連

※上記画像をクリックすると拡大します。

 「進路選択の主体性」と「社会問題への関心」との関連をみた結果、「関心を持つ」より「自分にできることを考える」、さらに「自分にできることをしている」のほうがより主体的に進路選択を行っていたことがわかる(図5)。意識より行動を起こすことが「主体性」への影響が大きいと解釈できる。

まとめ~より主体的な進路選択ができるようになるために~

 「自分から目標を設定し達成した」ことや、「主体的な進路選択」が高3生の成長実感に強く影響している。また、早い時期から将来の職業に意識したこと、社会に対する関心を持ち、かつ自分なりできることを行動している生徒ほど、より主体的に進路選択を行ったことがわかる。また、社会への貢献意識は高いが、実際自分にできることを考えたり、行動したりすることにはまだつながっていない高3生の姿が浮き彫りになった。

 昨年、18歳まで選挙権を引き下げる改正公職選挙法が可決されるなど、高校生も社会参画意識や自ら行動していくことがより求められる時代になった。高校時代には進路選択を含めた主体的な学びが、誰(何)のためのものなのかを深く考える必要があるのではと感じる。自分自身の成長や充実、また社会で自立して活動していけるために学ぶことも重要である。一方学びの社会にとっての意味・意義を考え、学んだことを社会に生かし、主体的に社会に関わり、他者とともによりよい社会を創っていくことも一人の良き市民としての重要なことでもある。

 さて、高校生が社会に目を向けるために、そして目を向けるだけでなく、実際に行動を起こすためにどのようにすれば、よいのだろうか。また早期から職業を意識するにはどうすればよいのだろうか。子どもの発達段階に合わせて、学校や家庭、地域で子どもが社会とのつながりを意識し、自分にできることを考え、行動するきっかけを作ることが必要であろう。たとえば、学校や地域では、学ぶ意味、意義を考える場を設定することができる。家庭では、世の中で何が起こっているのか子どもが関心を持てるような話題を取り上げたり、将来やりたいことなどについて親子で話し合ったりすることもできるだろう。また子どもの地域や学校の行事、ボランティア活動などへの積極的な参加を促すことも社会への貢献意識や参画行動を育てるのにつながる。

 1月以降、高3生が進学や進路をより真剣に考える時期になる。高校生が社会への関心を高め、主体的な進路選択ができるように、我々大人は何ができるのか真剣に考えなければならない。

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著者プロフィール

邵 勤風
しょう きんふう

初等中等教育研究室 室長/主任研究員

初等中等教育領域を中心に、子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究を担当。
これまで担当した主な調査は、「学習基本調査・国際6都市調査」(2006年~2007年)、「第3回子育て生活基本調査」(2007年~2008年)、「小中学生の学びに関する実態調査」など。最近、幼保小接続や小中接続といったテーマに関心を持ち、子どもの発達を踏まえ、学びの連続性を保障するために、周囲(親や教師など)の適切な支援の在り方を考えたい。

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