初等中等教育研究室

調査・研究データ


  【分析1】勉強が「好き」な子どもの学習レリバンスの分類と構造

4.学習レリバンスの類型の再検討

本稿では、一貫して勉強が「好き」と語る子どもと勉強が「嫌い」から「好き」へ変化した子どもを3事例ずつ検討してきた。まとめると以下の表になる。

現在的レリバンスについて考えると、子どもが勉強について「好き」であると述べる際には、「好き」である状態の維持や変化が、勉強の面白さや特定の教科や単元の面白さと関連付けて語られていた。特に、「嫌い」から「好き」へ変化している子どもの勉強の好き/嫌いは、ある教科や単元では興味を示す一方、異なる教科や単元になると興味を示さなくなる可能性を持つことから、勉強の「好き」を維持することが不安定なものとなっている。このように、インタビュー調査では、本田(2004)のアンケート調査では明らかにされてこなかった現在的レリバンスと将来的レリバンスのさらなる分類が可能となった。現在的レリバンスと将来的レリバンスに下位分類を設けることによって、勉強が「嫌い」であった子どもが「好き」に変化したからといって、安定してそれが維持されるわけではなく、特定の教科や単元を面白いと感じるということは他の教科や単元では勉強の面白さを感じないという状況に陥る可能性があることが示された。

今回の分析では小6から中1の勉強の好き/嫌いの変化を捉えてきたが、中1から中2の変化はどうだろうか。中2で行われたアンケート調査では、一貫して勉強が「好き」な子どもは「好き」を維持している一方で、勉強が「嫌い」から「好き」に変わった子どものうち、06fさんは勉強が「嫌い」へと再び変化していることが示された。この結果からも現在的レリバンスにおける特定の単元や教科の面白さから勉強の好き/嫌いが決まることの不安定さが存在していると言えよう。

また、この類型は成績との関連が見られた。つまり、一貫して勉強が「好き」な子どもは全て成績上位であり、勉強が「嫌い」から「好き」へ変化した子どもは成績中位、下位であるということである。前者は勉強そのものの面白さを知ることで、教科や単元に関わらず自分で勉強を進めていくことができており、後者は特定の教科や単元の面白さによって、勉強をしたりしなかったりすることが生じていることが要因として考えられる。

5.おわりに

本稿では、勉強の好き/嫌いについて「好き」を維持している子どもと「嫌い」から「好き」へ変化している子どもについてそれぞれ3つの事例を通じて検討してきた。明らかになったのは次の3点である。

第1に、子どもが勉強を「好き」な状態で維持するためには、勉強の面白さを知る機会があったかどうか、自分で勉強を進めていくという「勉強のやり方」が身についているかどうかという点が重要となる。今回分析で取り上げた家庭はどの家庭も子どもと親とのコミュニケーションが密であると感じられる語りが多かった。親がつきっきりで勉強の内容を教えているからといって勉強が好きになるわけではない。むしろ、勉強が「好き」を維持している子どもの家庭では、中学校に入ってから親が勉強内容を教えないという事例も見られたように、勉強を教える/教えないは子どもの勉強の「好き」に影響を与えるわけではない。しかし、そこで注意したいことは、勉強内容を教えないからといって保護者は子どもの勉強に関心を持っていないわけではないということである。勉強をわからないときには、子どもに自分で調べるように声をかけることで、自分で勉強を進めていけるように働きかけていた。

第2に、勉強の好き/嫌いと成績との関連が見られた点である。一貫して勉強が「好き」な子どもは成績が上位であった。そして、勉強そのものの面白さから勉強が「好き」と語られていることが多かった。一方、勉強が「嫌い」から「好き」になる子どもは成績下位~中位であった。「好き」になるかどうかは特定の教科や単元の面白さに起因している場合、それは上述したように、勉強の「好き」を維持させることが困難な要素となりうる。とは言え、成績下位の子どもが勉強を「好き」になるきっかけとなっていると言えよう。

第3に、一貫して勉強が「好き」な子どもは、卒業後の「遠い」将来志向である将来的レリバンスを持っていたのに対し、勉強が「嫌い」から「好き」になる子どもは在学中の「近い」将来志向である将来的レリバンスを持っていた点である。このことが示しているのは、「遠い」将来について考えることができるようになると勉強そのものの面白さを知ることが可能になるのかもしれないし、反対に、勉強そのものの面白さを知ることで、「遠い」将来を考えられるようになる可能性があるということである。この点において、勉強そのものの面白さと「遠い」将来的レリバンスは強く結びついていると言えよう。

勉強を「好き」と語る子どもたちの分析を通して示されたのは、学ぶことの面白さを知ることが勉強を「好き」になるきっかけとなっているということと、卒業後の自分の将来について考えることを通して、勉強の「好き」を維持していくことである。また、勉強そのものの面白さを知ることも「好き」を維持していくために必要な要素となっていた。とは言っても、特定の教科や単元の面白さを知ることが不十分であるということを指摘したいのではない。むしろ、それは「嫌い」から「好き」へ変化するための要素となっており、今後「好き」を維持するために、勉強そのものの面白さを知る機会を得られるようにしていくことが重要であるということである。本調査は子どもの勉強の好き/嫌いをある時期で切り取ったに過ぎない。今後、「嫌い」から「好き」へ変化した子どもたちが「好き」を維持する可能性もあるし、成績が上位になる可能性もある。そのためには、子どもが「勉強のやり方」を身につけていくことであったり、自分の将来について自分自身で考えていくことであったりする機会が必要である。その機会は保護者の働きかけに大きく左右される可能性が高いが、今回の分析で示したように保護者が勉強を教えなくても塾の先生からの働きかけによってその機会を見出すことは可能であった。しかし、塾に限らず、学校を含める子どもと関わる人々全員が、子どもに対して「勉強のやり方」を伝えていくことで子どもが自ら勉強を進めていくことができるようにしていくことは可能であるように思えるし、将来に対する展望も考える機会を与えていくことも可能となるだろう。

参考文献

・本田由紀(2004)「学ぶことの意味-『学習レリバンス』構造のジェンダー差異」苅谷剛彦・
志水宏吉編『学力の社会学』岩波書店、pp.77-98.

・桜井厚・小林多寿子編(2005)『ライフストーリー・インタビュー 質的研究入門』せりか書房.



「子どもの生活と学びに関する親子調査2016」





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