初等中等教育研究室

調査・研究データ

「データで考える子どもの世界」

  【分析2】中学1年生にとっての「テスト」と「主体的な学び」

3.「テスト」に左右される動機づけ

<モチベーションを上げる「テスト」>

勉強が苦手な生徒にとってはやや重苦しい響きを持つ「テスト」であるが、中には「テスト」をモチベーションの源泉としている生徒がいた。エピソードを2つ紹介してみよう。それぞれのエピソードは筆者がインタビューの要約を行っているが、引用部分は「 」で表し、筆者が意味を補足している部分は( )で表している。

01f(成績上位)さんは、インタビュー時、非常に勉強に対するモチベーションが高い状態であった。その理由は、数学の先生が、「(数学は)楽をする勉強だ」と教えてくれて、数学に興味が持てるようになったことにある。結果的に、最初のテストで「結構手応えがあって」、その後の学年順位も34位→25位→15位と上がり続けているという。ただ「どうしてもクラス3位以上にいけな」いこともあってか、これまで「またテストの時になればがんばればいいや、程度」だったのが、テスト以外でも「しっかりやらなきゃ」と考えるようになった。進学先の選択肢を広げるためにも、「自分の生きたい道が途中で見つかったら、そっちのほうにも行けるような学力が欲しいなと思って」いる。

02m(成績上位)さんは、小学校の時は成績やテストを意識してはいなかったが、中学になって「結構友だちとかとテストの順位とかいろいろ話したりする」ようになったという。順位が出るので「もうちょい上げたいかな」と思っているが、周りの友だちには「(順位が)同じくらいの人もいるし、もっと必死な人、上の人も」いる。勉強の理由は「多分テスト」。いい点を取れると「おもしろい」と感じている。親から見ても、中学になって、自分から「勉強したい」と言うようになったという。順位がつくことで、子どもが「他人と自分を比べるということを多分し始めたんじゃないかな」と思っている。

どちらのエピソードも、テストで順位がつくことが、勉強のモチベーションにつながっている。テストで良い結果が出ることによって、モチベーションが上がるという好循環が生まれ、01fさんに至っては、テストだけでなく普段の学習にも力を入れ始めている。「テスト」がうまく作用した事例だと言えよう。

また、03f(成績上位)さんも、夏休み以降は勉強が好きだと感じなくなっていたが、「学年末のテストが2月にあるので、それに向けてたくさん勉強するのがちょっと好きになって」いったという。テスト勉強をきっかけに「ちょっと苦手なところとかを中心に勉強したりして、少しは前よりはわかるようになった」ことで、勉強が楽しくなってきている。

こちらの事例は「順位」とは関係がないが、テストをきっかけに変わった事例である。ただし、上記の3例ともが「成績上位」であったように、「テスト」をモチベーションにつなげている生徒は、高学力層に偏っている可能性は十分にあることは注意しておかなければならないだろう。

<モチベーションを下げる「テスト」>

一方、テストをきっかけとして、小学校時はやっていなかった宿題にきちんと取り組んでいるという事例もあった。

07m(成績下位)さんは、中学入試の期間に勉強が「なんかいきなり嫌になった」という。その後、やる気を取り戻すも、1学期の中間テストの結果が思うように伸びず、モチベーションが下がっている(その際に順位も発表されている)。授業は「だるい」と思っているが、小学校の時にはやらなかった宿題に取り組んでいる。その理由は「補習にかかりたくないから」。補習は、テストの点数や課題で決められるため、手を抜くことはできない。そういった様子を見ている父親は、中学に入り学級の様子が「ムチャクチャ」であるのに、テストでは点をしっかりとるクラスメイトたちに、我が子がとまどっているように感じるという。

この事例では、補習にかからないように、これまでやってこなかった宿題に取り組む生徒の姿が見られる。ただ、テストの結果が芳しくなかったこともあり、モチベーション自体は低いものにとどまっている。ここに見られるのは、モチベーションの低さがテストでのつまずきを生むというよりも、テストのつまずきがモチベーションを低下させるというプロセスの一端である。また、父親から見ると、努力と結果に関する「因果律」を狂わせる存在として、クラスメイトが位置付けられていることも興味深い。

同じく下記の07f(成績中位)さんもまた、テストの結果によってモチベーションを下げた1人である。

07f(成績中位)さんは、 入学当初は成績もまだ良かったが、「どんどんなんか2年生になるにつれて難しくなってって、どんどん成績が下がってっちゃって、やる気があんまり起きないって感じ。」になっている。数学の内容がわからないことが他にも影響を与えており、「もう全部なんか少しでも下がっちゃうと、全教科だめんなっちゃう。なんか下がると、もうだめだってなっちゃうんですね。」というように、成績の下がり具合がモチベーションに直結している。

これらの事例が示しているのは、テストの成績が良かった生徒はますます学業に取り組み、テストが振るわなかった生徒はモチベーションを下げていき、学業から離れていってしまう可能性が高まるということである。「配分・選抜機関」としての学校教育の特徴を先に述べたが、テストの結果に左右されない動機づけがなされなければ、学力差の固定化、拡大が待ったなしでやってくるかもしれない。「この勉強方法じゃ、君は一生、多分一生ではないけど、成績が上がんない」と、塾の先生に言われてモチベーションが下がってしまった03m(成績下位)さんのように、自らの努力が報われず、先の見通しも持てないという状況をどのように打破していくかが問われている。

4.「テスト」と努力主義

<テストにおける「努力主義」>

「努力主義」は、日本の教育を象徴的に語る言葉である。古くは、福沢諭吉が『学問のすすめ』において、みな平等に生まれたはずなのに、「雲と泥との相違」とも言うべき社会的地位の違いが生じるのは、学問を修めたかどうかによるものだと述べている(福沢 1872)。学問を修めるために努力すべしという考え方は、100年以上経った今でも、人々に広く共有されているように思われる。努力するためにもさまざまな条件が必要であり、社会階層に由来する「意欲格差」(苅谷 2001)の存在が指摘されて久しいが、日本の教育を見つめる努力主義的なまなざしは色あせていないのではないだろうか。

そんな中で、「テスト」にも努力主義が色濃く反映されていると考えられる。とりわけ定期テストというものは総じて、「習ったことの中から」「範囲が示されて」「(部活が休みになる等)勉強の時間が確保され」たうえで行われる。(実際はそうではないが、)「同じ条件」で学習することで、学校教育の成果の一部と社会的地位が結び付いていくことを正当化していく。そして、「正当化」とともに、努力を結果に反映させることを通じて、自己効力感や「勤勉であること」の大切さを伝えるための恰好のツールとなる。

<努力すれば結果が伴う>

それでは、中学1年生の生徒は、「テスト」と「努力」をどのように語るのであろうか。二つのエピソードを紹介してみたい。

08f(成績中位)さんは、2学期の中間テストで成績が下がるが、期末テストで盛り返した。08fさん曰く、その要因は単純明快で、「頑張ったから」である。その背景には、テストの点が「悪かったら先生が怖い、塾の。」という理由から、好きじゃなくてもとにかく勉強はやらないといけないという気持ちがある。ただ、将来、看護師になるという夢もあり、そのためにも勉強は頑張りたいとも思っている。

05m(成績中位)さんは、普段からまじめに課題をこなしているタイプであるが、定期テストについて次のように語る。「で、そうなると辛いんですよ、すごい。点数取りたいなっていう気持ちと、勉強しなきゃいけないなっていう気持ちがあって、辛くて。まあやだなって思うのがあって、ちょっと(「勉強の好き嫌い」の推移を表すグラフを)へこましてるんですけど」。たくさん勉強することは、「やだな」という気持ちが増えることでもあり、テスト前は普段の生活リズムも崩れてマイナスの気持ちになるが、「勉強した分だけ結果が大きくなるので、やったって思うとまたモチベーションが上がって」、「勉強したら成績が上がる」という価値観を持っている。これまでは「定期考査のための勉強しかしてない」が、将来の夢のこともあり、「中2になってからそれ以外の勉強もしてみたいなあって思って」いる。

08fさんは頑張ったから成績が上がったと言い、05mさんも勉強した分だけ結果が大きくなると、努力の効用について語る。かれらには、努力すれば結果が伴ってくることが、価値観として共有されている。

<努力の大切さを伝える保護者・教師>

こうした、努力の大切さを伝える言葉や、学習上の仕組みはさまざまなところにあふれている。

たとえば、先にも紹介した07f(成績中位)さんは、「どんどんなんか2年生になるにつれて難しくなってって、どんどん成績が下がってっちゃって、やる気があんまり起きないって感じ。」になっているが、母からは「努力すれば絶対結果は出るから、努力しなさい」、「すぐに結果は出なくていいから」と言われている。学校でも、テスト後には、「成績表もらって、なんか自分の偏差値と点数と学習態度と、学習態度のマル、バツ、サンカクがあって、そこに丸して、自分がどこがいけなかったのかを全教科書いて、親に見せて、親からのコメントとサインをもらって、また担任が見るっていうのはあります」というように、細かく自らを反省的に振り返るような機会が設けられている。

また、定期テストではないが、05f(成績中位)さんの学校では、必ず月曜日の朝にテスト(週替わりで英・数・国)がある。日曜の部活で疲れて勉強できず、「いい点数にはならない」のが困ったところだが、「ちゃんと勉強すれば満点取れますよ」とは先生にいつも言われているという。また、「そういう期末とか、おっきなテストの2週間前は、そういう学校からなんか計画表くださいっていうのがくるんですよ。」というように、計画表の提出が求められ、コツコツと準備をすることが奨励される。家族からは「(勉強を続けていないと)今後大変だよ」と言われるが、「テストがあればテスト勉強をするし、そういうテストがなくて、終わったって感じんなれば、もうテレビに直行みたいな感じの日もあります」というように、「テスト」は良くも悪くも勉強する機会を提供している。

<努力したがうまくいかない>

とは言え、実際にはかなり細かく「学習の仕方」を伝えなければ、「テスト」でうまくやることは難しいことを示す事例もある。

01m(成績上位)さんは、2学期末の社会のテストが70点くらいと「かなり悪くて」、「ほんとに自分でも落ち込んでいた」。社会には苦手意識があり、学年末テストでは、「テストの範囲がちょっとよくわかんなくて。基本的にはページとかの範囲は決まってるんですが、その中のどこらへんが出てくるとか(よくわからなかった)。普通に(すべてが)重要そうだなっていう。」という感じになっていた。さらに国語でも、「テスト直前にすごい頑張って覚えようとしたんですが、やっぱり」間に合わなかったという(ただ、インフルエンザにかかったり、通信教育教材をやらないといけなかったりしたことも関係していると思われる)。

06f(成績下位)さんは、1年の途中でテストの点数が90点ぐらいから70点ぐらいに下がってしまった。06fさん自身の分析によると、勉強の仕方の変化によるものだという。つまり、もともとは数学と国語と英語を中心にしていたが、「社会が全然取れなかったんで、社会と数学を中心にやってたら、英語が落ちてました」ということを語ってくれた。

いずれの事例も、本人たちが努力していないわけではないのだが、時間配分や学習の進め方などでつまずいている。テスト勉強の進め方について、より丁寧な説明が必要な生徒が数多くいるとも考えられるだろう。

勉強の計画を立てたり、コツコツと勉強したりすることの重要性を重々承知していたとしても、最終的にその「オペレーション」は個々人に任せられている。上手にオペレーションできるかどうかは、本人の経験にもよるが、どんな人と関わっているかに左右される部分も多いだろう。

<努力しなければと思うができない>

最後に示すのは、「やらねばならない」と思いながら、やる気が出なかったりやり方がわからなかったりして、葛藤を抱えている生徒のエピソードだ。中学1年生にとっては、「努力主義」がすんなりと受け入れられる時もあれば、そこに意味を見出しにくいこともある。

09f(成績中位)さんは、2学期に入って行き始めた塾の指導が自分に合わなかったせいで英語の成績が下がり、「成績下がったら普通に好きじゃなくなるし」という状態になっている。そんな今、テスト前でも勉強をしないという。その様子を次のように語ってくれた。「テスト前は本当にやらないんですよ。自分でもダメだなと思っても、やる気を失ったりして。やろうと思うんですよ、だけどどこをやっていいかわからないし、テスト範囲でそこが丸々出るけど、なんか自分がやりたいと思ったところ、教科書とかワークとかいろいろなテキストを見て、1つずつ探さないといけないからめんどくさいんで、やる気が失せて、ああ、もう1日終わっちゃったーって感じで、それでもう終わる感じで。けど2月末ぐらいにテストがあるんで、そのときは頑張って自分でやろうかなと思ってますけど、もしかしたらまたやる気がなくなってやらないかもしれませんが。」

他の事例でもあったように、09fさんもまた、成績が下がったことでモチベーションを低下させている。そして、低いモチベーションを奮い立たせながら、やらなければならない自分と、やれない自分の間で揺れ動いているように見える。今回のインタビューの対象であった18人の生徒は、どちらかと言えば向学校的な生徒たちであったが、そうした生徒の中にも、いや、そうした生徒だからこそ、こうした葛藤が生まれるのかもしれない。

ちなみに09fさんは、テスト前に計画を立てるように学校で推奨されているが、計画が変わることが嫌で、あえて立てないようにしているという。勉強に対しては、「ただやっとけばいい、みたいな感じしかありません。だって社会に出ても、勉強は基本的なのができてればいいと思うし、そんな東大とか行くんじゃないから、そんなやらなくてもいいかなという感じで。と、努力主義とは距離を置いている。「親の自己満足なんですよ、大体本当に。大体、親がいい学校行かせればいいみたいな感じなんで。だけどそんな、うち良い学校、別に行きたくもないんで、勉強しなくても、という感じ。と、徹底的に冷めた見方をしている。ただ、進学に関しては「良い学校に行った方がいいと思う」とも語り、行きたくはないが行った方がいい、という微妙なバランスのうえに09fさんの「テスト勉強」が行われている。

本節では、テストのために努力するという努力主義的規範と、その規範の伝達のための声かけや、テストの計画表や振り返りといった仕組みがあることを見てきた。その中で、やらなければならないことはわかっているが、方法的に困難を感じる生徒、なかなかやる気が起きない生徒がいることを指摘した。そのような生徒に向けて、実践的に何が可能か。その点については、最後に考えてみることにしよう。



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