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「誰もが等しく学べる社会」の実現

  第4回「学ぶことの大切さ」を伝えることで教育格差を乗り越える(木村治生 ベネッセ教育総合研究所)

ベネッセ教育総合研究所の調査結果では、「社会経済的地位」(Socio-economic Status、以下SES)によって、子どもの学習に対する保護者の意識や働きかけが異なることがわかりました。SESの差は、子どもの学習成果にも影響を及ぼしています。ただ、重要なのは、教育にお金をかけることではなく、子どもの学びに対して強い関心をもち、学ぶ意義や価値を伝えること。そして、子どもが主体的に学習をコントロールする力を身につけるのを援助することです。

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生

家庭環境によって異なる子どもの進路への期待

「社会経済的地位」(Socio-economic Status:SES)は、個人や家庭の状況を、収入や職業、教育の状況からとらえます。子どもの家庭環境を表す指標の一つです。東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の調査では、SESが低い方から順に、L層・LM層・UM層・H層とカテゴライズし(図1)、そうした階層によって家庭の教育がどう異なるのかを分析しました。

図1 社会経済的地位(Socio-economic Status:SES)


*出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」
*対象:小1~高3の保護者15,598名のうち、SESが判別できた15,552名を分析。

図2は、子どもにどの学校段階まで進学してほしいかを保護者にたずねた結果です。それを見ると、「大学・大学院」への進学を期待する割合は、L層では約4割ですが、H層では8割を超えていました。

SESが高い保護者ほど、「成績を上げてほしい」「無理をしても教育にはお金をかけたい」と答える割合が高く、子どもの教育に強い関心をもつ傾向があります。

図2 保護者が子どもに期待する進学段階(SES別)


*出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」
*対象:小1~高3の保護者15,598名のうち、SESが判別できた15,552名を分析。

「学ぶことの大切さ」を伝える子どもへの働きかけが重要

教育意識への違いは、子どもに対する働きかけにも表れています。例えば、子ども1人当たりの1か月の教育費支出は、L層では1万円程度なのに対して、H層は2万円程度で、2倍近い開きがあります。

また、図3の通り、「勉強の面白さを教える」といった働きかけは、H層がもっとも「あてはまる」と答えています。このほか、「勉強で悩んだ時に相談にのる」「落ち着いて勉強できる環境を整える」といった項目でもSESが高いほど「あてはまる」が多く、H層は子どもの学びに積極的にかかわっていることがわかります。

図3 保護者の子どもに対する働きかけ(SES別)


*出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」
*対象:小1~高3の保護者15,598名のうち、SESが判別できた15,552名を分析。

そうした保護者の働きかけは、子どもの学習意欲や行動にプラスの効果をもたらします。そして、学力や成績のような学習成果にも影響し、子どもの進路選択を左右する可能性があります。

しかし、家庭のSESは容易に変えることができません。そのため、社会的な政策が必要になります。具体的には、子どもの学習や進学を支えるような経済的な援助が考えられます。これは教育格差を是正するうえで必要な機能です。

一方、家庭でできる身近な試みとしては、子どもへのかかわりを変えることが挙げられます。子どもの学びに高い関心をもち、学習環境を整えることは、お金をかけなくてもできることがたくさんあります。

例えば、「学ぶこと」に価値があり、自分にとって大切な経験であること、将来の幸せに役に立つことを伝えることは、意識すればできます。それを伝えるためには、保護者自身が「学ぶこと」を楽しむ姿を示せるといいかもしれません。SESがどうであっても、保護者の働きかけは子どもにとって大きな意味をもちます。

最後は、子ども自身の主体性を信じて、はげます

これまでお伝えしてきたように、家庭によって、子どもの学びに対する考え方や働きかけは異なります。その違いに気づくことが、子どもへの働きかけを変え、教育格差を小さくしていく第一歩です。

子どもが小さいうちは、子どもにとって「ちょっとだけ難しい問題」をいっしょに解くなどして、知ることや分かることの楽しさを味わえるとよいでしょう。中高生になると、自分の学びを将来と結びつけて考えることができるようになります。親子でいっしょに「学ぶこと」が将来にどうつながっているのかを、話してみてはどうでしょうか。

「さあ、今から子どもと勉強のことを話そう」などと、構える必要はありません。学校でどんなことを学んでいるのかをたずねるくらいで十分です。それに対して、「面白いね」「よく考えたね」と前向きの言葉をかけたり、「どう思ったの?」と思考をうながしてあげたりすることが、大切に思います。

また、最近のニュースについて話題にしたり、自分が読んでいる本を紹介したりと、社会に関心が向くような働きかけも有効です。学校の学習とは直接かかわりがなくても、「学ぶこと」は「よく生きる(Well-being)」ために必要で、価値あるものだという意識を育んでいけるとよいでしょう。

データを見ると、保護者のかかわりは、子どもの意識や学習行動に影響を与えています。しかし、保護者がどうあろうとも結局は、子ども自身が自分の学習に前向きに取り組まないと、学習成果が上がらないことも明白です。保護者は子どもの学びの環境を整え、ときにいっしょに考え、ときに子どものやる気を刺激する。そして、あとは子どもの主体性を信じて、はげますしかありません。

家庭ではできないこと、難しいこともあるでしょう。すべてを家庭で抱え込まず、対応に困った時や不安がある時は、学校や行政に頼ることも必要です。経済的な問題は行政に相談したり、子どもに十分な対応ができない時は「学校の先生に聞いてみて」とうながしたりするだけでも違います。今、できることから始めてみてはどうでしょうか。

(まとめ・TIPS)

SESの影響があり、家庭によって、子どもへの働きかけは異なります。しかし、家庭環境に関係なく、大事なことは、子どもが学習の楽しさや面白さに気づくような働きかけです。親子で一緒に学んだり、学習が社会でどう役立つかについて話したりすることで、子どもに学びへの価値を育んでいきましょう。

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