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学びをより良いものにするためには、学んだものをどのように評価し、次の学びにつなげるかが大切です。普段の授業はもちろん、もしかすると入試でさえ、そのような学びを振り返る機会に成り得るのかもしれません。


2020.03.31 update

東京女子学園中学校(東京都港区)は、2020年度入試において、通常の入試では使用が禁止されているスマートフォンを活用して解答してよいという方式の入試を実施した。この入試方式を導入するに至った経緯と狙いを、提案者である同学園広報部長の立原寿亮先生に聞いた。

1.スマホの検索や計算の機能を用いてOK

 東京女子学園中学校は、2020年2月1日と2日午後に実施する算数1科目入試で、受験者がスマートフォンを持ち込み、検索機能やアプリケーションによる計算機能などを使って解答してもよいことにした。複数ある入試タイプのうちの一つではあるが、日本初のスマホ持ち込みOK入試として多くのメディアに取り上げられた。入試概要と結果は下記の通りだ。

■「スマホ持ち込みOK入試」試験概要

科目:算数(小学校で学習した範囲の理科・社会などの知識も求める)
試験時間:60分
実施場所:図書館
大問数:
【外部知識問題2題】本文の情報だけで解けず、外部の情報を参考に解決する問題。
【内部知識問題1題】与えられた情報から、思考、判断し解決する問題。
※いずれの問題もスマートフォン、タブレット、図書資料等の活用を可とする。
※試験中は、試験問題の外部への発信、及び外部とのやり取りは禁止。
※希望者には、学校側が用意したタブレット端末を貸与。
試験問題例:2020年2月1日に実際に出題された内部知識問題

試験問題
※上記画像をクリックすると拡大します。

 「実際にはふたを開けるまでは受験者がいるかどうかも分からない状況でしたが、今回の結果には満足しています。受験者数および合格者数は若干名ですが、本校の規模であれば初年度としては十分。受験当日も様々な想定をしていましたが、機器トラブルなども含めて混乱は一切なく、チャレンジしてくれた全員に感謝しています」(立原先生)

2.建学の精神と教育理念を現代版にアレンジし新しいスローガンを設定

 東京女子学園中学校・高等学校は、1903年、東京府下最初の普通科の私立高等女学校として東京都港区芝に設立された伝統校である。「教養と行動力を兼ね備えた女性(ひと)の育成」を建学の精神に掲げ、「人の中なる人となれ」を教育理念として教育活動を行ってきた。

 創立から1世紀以上経ち、社会が大きく変化する中、同校は現代にふさわしい教育を行うため、教育環境を整えるべく、2015年、校内のICT化に着手。一部校舎にWi-Fiを設置し、共用のタブレット端末を活用した授業を英語科から開始した。加えて、現代の学校教育での実践活動として再考する動きが起きた。当時のことを、立原先生は次のように振り返る。

 「2017年、本校のこれからの教育について考える委員会が立ち上がりました。そこでの議論で、建学の精神や教育理念を包括し、本校が目指す教育の方向性を現代版にアレンジした『地球思考』という新しいスローガンが生まれました」(立原先生)

 「地球思考」には、「これからの時代にふさわしい能力と見識を持ち、世界とつながる女性(ひと)を育む」という想いが込められており、その実現に向けて、探究活動やアクティブ・ラーニング、eポートフォリオといった取り組みをスタートさせた。そして、新しい教育活動で育成した資質・能力を測る基準(カリキュラムポリシー)として、「地球思考コード」(下記図)を設定した。これは、学校での学びが、知識の習得にとどまらず、論理的思考から創造的思考に広がるとともに、仲間と共有し協働する経験を通して、生き抜く力に昇華していくプロセスを明文化したものだ。

「地球思考コード」

「地球思考コード」
※上記画像をクリックすると拡大します。

 新たなスローガンに基づいて取り入れられた探究活動などの教育活動を充実させるため、2017年には、1人1台タブレット端末を配備。すべての教科の授業でタブレット端末の活用を開始した。

 現在は、小テストや宿題、連絡事項もタブレット端末を用いて行うほか、生徒会選挙ではWebで投票する仕組みを構築。タブレット端末はWi-Fiのない場所でも通信可能なセルラーモデルのため、修学旅行や校外のフィールドワークにも持ち出して活用しており、生徒たちは様々な場面でICTを活用している。

 タブレット端末の1人1台配備により、情報活用力が身についただけでなく、様々な生徒の成長を感じたと、立原先生は語る。

 「本校の生徒は、積極的に自分の意見を発表する元気な子というより、全体的におっとりしています。ただ、芯が強く、よい意見を持っている生徒が多くいます。タブレット端末の活用により、多様な意見を自由に発言できる環境を整えることができました」(立原先生)

 また、立原先生は、「地球思考コード」の横軸である論理的思考や批判的思考、創造的思考も伸びていると感じている。

 「私の担当教科である英語の授業では、最後に振り返りをeポートフォリオなどに書いています。また、学期の終わりには50分間をかけて、その学期の授業で学んだことを書く機会を設けています。高校3年生にもなると、授業でどのようなことを学んだのか、どのように学びを生かしていきたいのか、豊かな言葉で論理的に書けるようになっていました」(立原先生)

3.これからの時代を生きていく生徒に合った新しい選抜方法を模索

 そうしたICTを活用した教育活動を入試説明会で紹介するうちに、立原先生は入試改革を行う必要性を感じるようになった。

 「東京都には多くの私立学校がありますが、まだまだ知識の量を問うような入試問題が中心です。本校の教育が大きく転換している中、従来型の入試のままでよいのかという疑問を持つようになり、従来の入試の内容とは異なるスケールで受験生が持つ資質や能力を評価したいと考えるようになりました」(立原先生)

 では、どういった入試をすればよいのか。従来型の知識の量を問うような入試では、「知識・技能」を測ることはできるが、「思考力・判断力・表現力等」や「学びに向かう力・人間性等」を十分に測ることは難しい。そこで、後者の能力を新しいタイプの入試で測ろうと考えた。

 「本校の教育活動の特徴であるICT教育や探究活動にもつながる入試にしたいと考えました。そこで、スマホを使用可能とする入試方式を提案し、新しいことにチャレンジする資質も評価したいと考えたのです」(立原先生)

 問題は、外部の情報を参考に解決する「外部知識問題」が2題と、与えられた情報から、思考、判断し解決する「内部知識問題」1題の計3題からなる。採点では、受験者の解答を、問題解決の力、問題解決へのアプローチ、問題解決の実行の3つの観点でルーブリック評価する方法で行った。

 「『スマホ持ち込みOK入試』は、約5年前から進めてきたICT教育が素地にあったからこそ導入できた」と立原先生は話す。

 「生徒が十分にICTを活用し、成長していく姿を、本校の教員は実感しているため、このような形態の入試を実施することへの障壁はさほど高いものではありませんでした。また、入試広報の観点では、本校の教育の特徴やアドミッションポリシー(入学者受け入れの方針)を打ち出した入試になり、本校の教育に共感した生徒の確保につながると考えました」(立原先生)

4.これからの時代を担う子どもたちに、学びの楽しさを知ってほしい

 このように入試方式を改革することは、教職員一体となった取り組みが欠かせない。これに関して、2020年4月から校長に就任する河添健氏(元慶應義塾大学総合政策学部学部長)もこう期待する。

 「現在、多くの学校や予備校では、1点でも高い点数をとることを勉強の目的とし、偏差値を上げることが学びとなっています。しかし、学びの本当の楽しさは、答えが分からないこと、未知への探究だといえます。『スマホ持ち込みOK入試』では、問題を理解し、解答を得るために最適な情報を収集しそれを分析する、その過程を測るものでした。覚えた公式に当てはめて解答を出すのではなく、解答にたどり着くまでのプロセスを、本校では見たいと考えました。今回の入試での受験者の解答を見ると、私たちが想定する以上の話題の広がりを感じました。そうした気付きを自由に書いてもらうのも個性が表れると思っています」(河添新校長)

 今回は、中学校のみが新方式を実施したが、今後は高校入試も変えていく予定だという。また、同校では、「地球思考コード」に基づいたカリキュラム・マネジメントを統括して行う先端学習という部署を設置予定であり、今後も学校改革を継続していく。

プロフィール

立原 寿亮

立原 寿亮(たちはら としあき)

2014年より東京女子学園に英語科教諭として勤務し、2019年より同学園広報部長に就任。学内では探究活動やICT環境整備もカバーするなど、教科の枠にとらわれない教育活動を展開。2020年に日本初の中学入試「スマホ持ち込みOK入試」の起案・作問を担当。また、学生時代から音楽に造詣が深く、10年間にわたる茨城県水戸市立笠原小学校での打楽器を教えるボランティア、青山学院管弦楽団団長、同楽団ドイツ演奏旅行総責任者としての経験が評価され、2013年には国立青少年教育振興機構主催日独学生青年リーダー交流事業に日本団キャプテンとして参加。2017年より東京都高等学校吹奏楽連盟理事も務める。Ensemble Toi Toi Toi!代表。

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