ベネッセ教育総合研究所

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学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、これからの授業づくりについて議論を深めます。


2020.03.02 update

生徒の深い学びにつなげるために、ICEモデルなどを取り入れた授業づくりを進める熊本県立第二高等学校。2019年11月に同校が開催した「学校オープンデー」に、「主体的な学び研究会」(事務局・ベネッセ教育総合研究所)のメンバーが参加し、同校の授業を研究事例として第3回研究会を実施した模様をレポートする。

1.ICEモデルを取り入れた、学校独自の授業づくりを実践研究

 生徒の主体的な学びを引き出す指導法の研究を目的として、広島県立祇園北高等学校の元校長である柞磨(たるま)昭孝氏を中心に、高校や中学校の教員ら11人が集まり、「主体的な学び研究会」(以下、研究会)を2019年4月に発足させた。研究会はこれまで2回開催。メンバーの実践研究を題材として、授業づくりや生徒への発問のあり方などを議論し、メンバーそれぞれの授業づくりに生かしている。

 今回、研究会のメンバーである田尻美千子先生の勤務校・熊本県立第二高等学校(以下、第二高等学校)において、学校オープンデーが行われることとなり、第二高等学校の授業を事例とした第3回研究会が開催された。

田尻 美千子先生

 第二高等学校は、普通科、理数科、美術科を有する県を代表する進学校だ。2003年度、文部科学省「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定を受け、探究型授業の実践研究に取り組んできた。第4期(2017~2021年度)にあたる現在は、「3学科すべてが科学と融合する3年間」を掲げ、全教科・科目において探究型授業を実施。田尻先生が所属する授業開発部が中心となり、生徒の主体的な学びを支える上で求められる授業づくりに取り組んでいる。

 その中心的な試みとなるのが、「二高ICE(アイス)モデル」(※)の確立だ。第二高等学校では、生徒の学びを深めるための手法として、授業づくりにICEモデルを取り入れている。各教員は、自身の実践を、学校が独自に作成した「授業改善のための工夫の見せどころシート(以下、見せどころシート)」(図1)に記入。全教員で共有して授業づくりに生かせるようにし、ICEモデルを活用している。

 「『見せどころシート』のフォーマットは、効果的・効率的に授業を設計するための手法である『インストラクショナルデザイン(以下、ID)』の視点も取り入れて作成しました。短時間でも記入できるように工夫し、よい取り組みを共有しやすいようにしました」(田尻先生)

 ※第二高等学校の取り組みの詳細は、田尻先生の寄稿記事「みつめる きわめる つなげる 二高ICEモデル」を参照。

図1 「授業改善のための工夫の見せどころシート」

「授業改善のための工夫の見せどころシート」
※上記画像をクリックすると拡大します。

 第二高等学校では、IDの「教科を超えて活用できるツール」という一番の長所に着目し、「IDを活用し教員のメタ認知力の向上を支援することは授業改善を促進する」との仮説の下、以下の6つのアプローチによって改善を進めている。

① 授業改善のための工夫として「見せどころシート」を作成する
→シートを作成する過程で授業の理解を深めていく
② 教科会で「見せどころシート」を検討する
→同教科の同僚の視点によるインスピレーションの獲得
③ 同校の他教科の教員と「見せどころシート」について検討する
→教科を超えた教員によるインスピレーションの獲得
④ 他校の教員と「見せどころシート」について検討する
→外の教員の視点によるインスピレーションの獲得(今年度は「主体的な学びフォーラム」)
⑤ 「IDの前提(高校版)」(図2)に取り組む
→IDに関するチェック項目を定期的に振り返ることにより、理解の再構築を促す
⑥ 生徒の変容の様子を知る
  (1)「学習設計マニュアル」への取り組みを実施した生徒の感想(各自の振り返りをシェアするお便り)を教員が共有することによって生徒の変容を認知する
 (2)「ミライノカタチ発表会シナリオ」(1年生の「総合的な学習の時間」でのオープンキャンパス報告会を工夫したもの・図3)のように、生徒が主体となってグループワークを進めることで、生徒が主体的な学びを得られることを教員が認知する
 (3)IDとICEの視点で作成した「生徒主体の授業デザインになっているかを問う授業振り返りシート」(授業評価の第二高校改訂版・下記)を分析し、授業改善の視点を得る


 「以上6点をICEの視点で捉え、①~④はIのフェーズ(ID・ICEを知ること。プロフィールを広げること)、⑤⑥はC/Eのフェーズ(ID・ICEをメタに捉えること)といえるのではないかと考えています。このように、多様なアプローチによる刺激との出合いが授業の改善を進めていることにつながっています。言い換えると、"授業改善は教員の探究活動"だと捉えています」(田尻先生)


図2 「IDの前提(高校版)」

「IDの前提(高校版)」
※上記画像をクリックすると拡大します。

「ミライノカタチ発表会シナリオ」

GRシナリオ
~担当の先生の協力を得ながら、今日の発表会を楽しみましょう~
〇教室は6人グループ×7班にしておく。(先生と協力してください)

〇今日は、オープンキャンパスへの参加情報をもとに作成した「ミライノカタチ」を共有するワークショップです。みなさん、自分の未来をしっかり見つめて、楽しい時間にしましょう。
〇それでは、これから10分間、自分の「ミライノカタチ」を発表するための準備をします。発表は一人2分です。家庭科のホームプロジェクト発表会のシステムと同じです。1枚15秒を目途に8枚のKP(紙芝居プレゼンテーション)を作ってください。1枚の分量は、1行10文字程度、1枚3行程度です。書き込み過ぎないようにしてください。
「ミライノカタチ」の書き方が分からなくて取り組めなかった人は、書いてきた人に少しだけ見せてもらって、自分の発表原稿を考えてください。
それでは始めます。(タイマーで10分計測)

〇それでは発表会に入ります。
〇1番に発表してくれる人を決めてください。次からは時計回りに進みます。
発表は計測しますが、発表が早く終わってしまったら、大きな拍手はせずに、発表者への質問を考える取り組みを始めてください。
発表2分、質問考え時間1分、質問会2分で進みます。

〇それでは、1番目の発表者、よーいスタート。(2分計測)
〇終わりです。全員質問を考えてください。発表者は、自分に対してどんな質問が生産的かを考え、記録しましょう。(1分計測)
〇それでは、発表者の左隣から時計回りの順番で質問・返答を行ってください。(2分)
・・・・・(6人繰り返す)・・・・・

〇発表が全員終わったら、最も質が高い発表ができた人をグループ内で選出してください。
〇発表者を挟んで3人がグループ居残りです。それ以外の人は、他の班に移動して発表を聴きにいってください。

〇移動した班で発表を聴きます。それでは、よーいスタート。(2分計測)
〇発表が終わったら、発表内容についてシェアしてください。(1分計測)
〇もとのグループに戻ります。聞いてきたことを共有します。(1分計測)

〇最後はまとめの記入です。
自分が今日考えた質問の中から、最も質の高いものを1つ選んでください。また、今日の活動の中で聞いた質問で、最も質の高いものを思い出しておいてください。その質問が、ICEのどのフェーズにあたるかを考えてください。
〇用紙への記入が終わったら、各自eラーニングに投稿を行ってください。
〇みんなで共有できて楽しかったですね。御協力ありがとうございました。


図3 「『生徒主体の学びのデザイン』がなされているかを問う授業振り返りシート」

図3 「『生徒主体の学びのデザイン』がなされているかを問う授業振り返りシート」
※上記画像をクリックすると拡大します。

2.生徒に主体的な学びを促す問いかけとは?

 研究会のメンバーは、第二高等学校で午前中に公開された授業を見学。各授業の担当教員が作成した「見せどころシート」を参考に、授業を通して生徒がいかに主体的に学び、理解を深めたり、新たな疑問を持ったりするかを見取った。その上で、午後には、研究会のメンバーや第二高等学校の教員らが参加し、研究会と校内研修を兼ねた「主体的な学びフォーラム」が行われた。

 第二高等学校の山本朝昭校長の挨拶や参加者の自己紹介、そして、田尻先生が校内研究の概要を説明した後、分科会が実施された。分科会は、研究会のメンバーと第二高等学校の教員の混成とし、教科別の5グループと、これからICEモデルを取り入れた授業づくりに取り組む教員が集まった入門グループの計6グループに分かれた。

 各グループとも、議論のテーマを、
①判断の入らない素直な問いかけ
②前の質問と考えにおける思考の連鎖を受けて、つながる問いかけ
③共感を持った問いかけ
の3つを大切にする「共鳴質問」とし、「見せどころシート」を活用しながら話し合った。

 田尻先生が進行役を務めたグループでは、柞磨氏ら研究会のメンバーに加え、第二高等学校の数学・理科・家庭科の教員、計16人が参加。当日の授業の様子や「見せどころシート」の内容を基に、生徒に主体的な学びを促す問いかけについて議論した。

 理科の教員は、「見方・考え方」について、自分と生徒との意識の隔たりをどうすれば改善できるのか、問題提起した。
 「既習事項を関連づけて思考を広げる指導に重点を置いていますが、生徒への授業アンケートでは、1クラス40人中10人が『授業で知識の関連づけが行われていると感じていない』といった結果がでました。どうすれば、私の授業の意図が生徒に伝わるのかが課題です」

 参加者からは、「どの学力層の生徒が『知識の関連づけがされていない』と感じているのかを分析すれば、対応策が見えるかもしれない」「学力層によっては、教員が知識の関連づけをしても理解できていない可能性がある」といった意見が出された。

 一方、柞磨氏は次のように指摘した。
 「『関連づけができている』と捉えている生徒の根拠を探ると、授業の改善点が見えるのではないでしょうか。ICEモデルの観点から説明すると、生徒には最初に見方・考え方を教えますが、そこから生徒が自分で考えて関連づけができるよう、教員が意図的な問いかけをする必要があります。その問いかけによって、生徒に『自分で知識を関連づけられた』と実感させることができるでしょう」

 次のテーマは、「最近、困っていること」。「予定を詰め込み過ぎて、本当にすべきことができない」「テレビをつけたままソファで寝てしまう」「スマートフォンの使い方が分からない」「寒くて布団から出られない」「父親とうまくコミュニケーションが取れない」などが挙がった。それらの中からこの場で話し合いたいことを1人2つ選んでもらい集計した。そして、多かったものをテーマとして、それを解決するアイデアを出し合った。

3.生徒が授業内容を実感できる問いかけとは?

 この話題を発展させて、知識や思考をつなぐ指導のあり方について議論が進められた。 数学科教員の「三角関数の単元では、測量について話して、授業内容に関心を持たせるなど、指導が上手な教員は授業内容と日常生活とを関連づける引き出しが多い」という意見には、多くの参加者が賛同した。

 それを受けて、柞磨氏は、生徒自身が授業内容と日常生活を関連づけられるような問いかけの重要性について、次のように語った。
「例えば、自動車の仕組みが分からなくても運転できますが、探究者になるためには、その仕組みに関心を持ち、知りたいと思う姿勢が重要です。そうした姿勢を生徒に育むためには、効率重視の知識の伝達ではなく、必然性を感じて共感できる問いかけを、授業にできるだけ盛り込みたいものです。いったん疑問を持てば、生徒の思考は自然に広がります。教員が説明しすぎないことがポイントです」

柞磨 昭孝氏

 授業内容を日常生活などの具体的なイメージに結びつけさせる上では、教員と生徒の生活経験や言葉の違いに留意する必要があるという指摘もあった。
ある教員は、「自宅がオール電化という生徒は、理科の実験で初めて火を見たと言い、火に対して私たちとは全く異なるイメージを持っていました。生活経験の違いで生じる認識の差は、意外にあるのではないかと感じさせられました」と語った。

 それに対して、柞磨氏は、「できるだけ感覚に訴えて、共感を得ることが大切です。例えば、アミノ酸への理解を深めるために、うま味調味料の説明をしても、今の生徒は知らないかもしれません。その場合は、『肉はどうしておいしいと感じると思う?』など、多くの生徒がイメージできると思われる話から、アミノ酸につなげると関心を持ちやすいかもしれません」と意見を述べた。

 さらに、感覚と理論を結びつける指導について、柞磨氏は、絵画鑑賞を例にして次のように語った。
「教員が『こう見えるでしょう』と教えるのは、適切ではありません。まず、子どもに絵画を見せて、自分の印象を持たせた後、『こういった技法が使われているから、このように見える』と言語化して説明します。その技法を理解させてから改めて絵を見せると、感覚と理論が結びついて理解が深まります」

 また、柞磨氏は、既習事項の関係性を理解させる指導の重要性について、次のように強調した。
「フィンランドの学校では、1つの解法を学んだら、必ず別の解法でも解答させます。例えば、三角関数を学んだ後、それ以外の解法で取り組ませると、『三角関数が使える範囲』が理解できるからです。授業で扱ったことしか学習していない生徒は、出題範囲の決まっている定期考査の問題には正解を出せますが、模擬試験などでは『どの解法を使えばよいか』を考えた経験がないため、問題に対応できないのです」

 分科会の後には、6グループのメンバーが混在するように新たなグループをつくり、分科会で議論された要点を共有するリフレクションが行われ、第二高等学校での「主体的な学びフォーラム」は終了した。

 後編では研究会メンバーによる、第二高等学校の全校を挙げたカリキュラムマネイジメントと、それらがどのように自校でも活かせるかの振り返りをお届けします。




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