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学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、これからの授業づくりについて議論を深めます。


2020.03.06 update

「主体的な学び研究会」では、熊本県立第二高等学校を訪問して先進的な授業づくりを見学し、同校の実践研究を基に第3回研究会を実施した。後編では、同校の実践やその後の議論を振り返りながら、生徒が主体的な学びに向かう授業のポイントを探っていく。
※所属・肩書きは公開時のものです。

1.教員個々の課題の共有が、指導改善のヒントにつながる

 熊本県立第二高等学校(以下、第二高等学校)の教員も参加した「主体的な学びフォーラム」(詳細は前編参照)の終了後、「主体的な学び研究会」(以下、研究会)のメンバーによる振り返りと、今後の研究に向けた意見交換が行われた。

 まず、メンバーがそれぞれ参加した分科会の議論の要点を発表。メンバー間で、教科・科目や教職歴、役職などを超えて、成果や課題を共有した。研究会のメンバーで、第二高等学校の家庭科教員の田尻美千子先生は、今回のフォーラムを次のように振り返った。

熊本県立第二高等学校 田尻美千子先生
熊本県立第二高等学校 田尻美千子先生

 「教職歴や教科・科目の違いもあり、教員はそれぞれ異なる課題を抱えています。そのため、議論が停滞することもあり、校内研究という同じ土俵で進めるのは難しいと感じていました。しかし、今日のフォーラムでは、教員間に課題の違いがあっても、率直にそれを話し、分かち合うことで、多くの指導改善のヒントが得られました。

 リフレクションで本校の教員が発表した振り返りは前向きな内容ばかりで、今後、校内研究が大きく前進すると期待が持てました。とりわけ、授業づくりには正解がなく、だからこそ、悩むのは当然と捉えて、気負うことなく取り組もうといった雰囲気が生まれたことは、本校の大きな財産になったと思います」

 田尻先生は、今後の校内研究につなげるため、「主体的な学びフォーラム」での各教員の振り返りを、校内の情報共有のために発行している「SSHかわら版」に掲載した。

「SSHかわら版」

「SSHかわら版-1」 「SSHかわら版-1」
※上記画像をクリックすると拡大します。

2.他校の実践を自身や自校の授業改善に結びつける

 「主体的な学びフォーラム」は、第二高等学校の教員だけでなく、研究会メンバーにとっても大きな示唆を得られる場となった。研究会メンバーの中から4人に、「主体的な学びフォーラム」に参加し、第二高等学校の研究実践や分科会を通して考えたこと、今後、勤務校や自身の授業改善に生かせると感じたことなどを振り返ってもらった。
※肩書は取材当時のものです。

組織的な取り組みには、全校での意識統一が必須

広島県立祇園北高等学校元校長 柞磨 昭孝氏
広島県立祇園北高等学校元校長 柞磨 昭孝氏

 第二高等学校の研究実践が成果を出している最大の要因は、主体的な学びを目指し、全教科・科目で展開している点にあると感じた。管理職の理解の下、田尻教諭が優れたリーダーシップを発揮し、組織的に進めていることが大きい。教務部や多くの教員が協力的であることも下支えとなっている。教員間に温度差はあるものの、協力的な環境にある。

 また、SSHの指定校という環境が、求心力として働いていることも大きいだろう。新しい教育を標榜し、指導と評価を開発するという目的意識が、全教員の意識の底流にある。その上で、学習理論に基づいて研究を展開していることがポイントだ。ICEモデルとインストラクショナルデザイン(以下、ID)を組み合わせ、「授業改善のための工夫の見せどころシート(以下、見せどころシート)」を作成し、全教員が授業デザインを行うシステムが構築されている。そうした取り組みは、全国的に見ても先進的といえる。

「授業改善のための工夫の見せどころシート」

「授業改善のための工夫の見せどころシート」
※上記画像をクリックすると拡大します。

他者との相対化が、学びには不可欠だと実感

大阪府教育センター附属高等学校 酒井将平先生
大阪府教育センター附属高等学校 酒井将平先生

 第二高等学校の授業を見て、周囲の生徒との意見交換を頻繁に取り入れていることが重要な意味を持っていることに気づいた。生徒にとって、自身の考えを他者と比較し、相対化して、考えを深めるきっかけになっているようだ。また、定期考査の問題も、例えば、課題文についての一連の対話が示され、その対話に沿って設問を解くことで、おのずと考えが深まっていく構成となっていた。

 また、「見せどころシート」は、ICEモデルやIDの枠組みを取り入れて作られていた。教員が、このフォーマットに自分の授業を当てはめて考えることで、手応えや疑問、違和感は、授業づくりに対する自身の考え方を相対化する機会へとつながっていくことだろう。 他者と比較し、相対化することは、生徒にとっても教員にとっても、学びにおける重要な過程であり、意識して取り入れたいと思う。まずは、自身の定期考査の作問から始め、授業中の生徒どうしの話し合いは学年団や教科団で相談しながら充実させていきたい。機会があれば、「見せどころシート」のような取り組みも、校内で提案しようと考えている。

自校でもICEモデルの観点から授業を見直したい

三田国際学園中学校・高等学校 佐藤充恵先生
三田国際学園中学校・高等学校 佐藤充恵先生

 第二高等学校の授業では、生徒一人ひとりが自分の頭で考え、前向きにディスカッションする様子が見られ、モチベーションと自己肯定感の高い生徒が多いと感じた。同校が、学校全体でICEモデルとIDを意識した授業づくりを行ってきたことによって、生徒の中に、物事を客観的に見たり、目的を考えたりしながら取り組む姿勢を育むことにつながっているのだろう。

 勤務校では、5年前から学校全体で、「トリガークエスチョン」という発問から始まる授業づくりに取り組んでいる。試行錯誤を積み重ね、現在は、各教科・科目が教材をある程度、蓄積した状態にある。第二高等学校の実践を見て、本校が蓄積してきた教材をICEモデルの観点から見直すことで、教科・科目共通の問いや論点を見つけ、目的化しない教科横断やSTEAM教育を実現できるのではないかと考えている。

生徒主体の研究として、真の成果を出す

滋賀県東近江市立五個荘中学校 林秀樹先生

 第二高等学校の生徒の授業における姿を一言で表すと、「授業をとても楽しんでいる」だった。研究指定を受けると、とかく「研究のため」の授業や研究となってしまい、「生徒の成長のため」という視点が置き去りにされている場合があると聞く。一方、第二高等学校の授業には、生徒が自ら考えて授業を楽しむ姿があった。そうした姿を引き出している要因は、同校が、生徒のニーズを把握し、生徒の多様性や考えを尊重している、生徒主体の研究を行っていることにあると感じた。

 今回のフォーラムに参加し、授業改善は生徒のためのものであると再認識し、学校全体で取り組む必要性を改めて感じた。まずは、私自身が授業の意義に関して、「授業を受けた。だから何?」と自問を繰り返し、生徒が新しい価値を見出せる「Eレベル」(ICEモデルのE。知識を統合するレベル)の問いを考えて、少しでも多くの先生と共有していきたい。




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