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学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、これからの授業づくりについて議論を深めます。


2020.03.13 update

新学習指導要領で掲げられた「資質・能力」のうち、思考力の育成が課題だと感じている現場の教員も多いだろう。今回は、教科学習のなかでメタ認知力を高め、思考力を育む授業づくりに取り組む東京都新宿区立西戸山小学校の上島響先生による6年生の社会の授業を紹介するとともに、授業のねらいを聞いた。

単元名:戦後の歩みと未来をつくる日本(全6時間)
単元の目標:
・ 日本国憲法の基本的な考え方に着目し、関連する事項を調査したり、施設を見学したり、各種の資料を活用したりして、日本国憲法が国民生活に果たす役割を考える。そして、日本国憲法は、国家の理想、天皇の地位、国民としての権利及び義務など、国家や国民生活の基本を定めていることや、現在の我が国の民主政治は日本国憲法の基本的な考え方に基づいていることを理解できるようにする。
・ 日本国憲法では、国家の理想、天皇の地位、国民としての権利及び義務など国家や国民生活の基本が定められていることについての課題を主体的に調べ、解決しようとするとともに、我が国の憲法に関心を持ち、我が国の政治の働きについて考えようとする態度を養う。

本時の目標(全6時間中の6時間目):我が国の政治と日本国憲法の基本的な考え方を振り返ることを通して、より良い社会を考え、学習したことを社会生活に生かせるようにする。

1.授業の様子

●導入:子ども同士の話し合いを中心とした活動で前時を振り返り、本時の問いに向かわせる

 上島先生は、子ども同士の話し合いを中心とした学び合いがテンポ良く展開するよう社会の授業を設計している。授業冒頭には、上島先生が、前時までに本単元で学んだことを、隣の席の人と30秒間で話し合うように指示。挙手した子どものうち1人が意見を発表した。それを聞き、意見のある子どもはハンドサインを使って挙手する。発言者の子どもは、友だちが示すハンドサインを手がかりに、次の発言者を指名する。

**上島先生のクラスのハンドサイン**

人差し指一本…前の発言者に付け足して意見したい場合
チョキ…前の発言者と反対の意見がある場合
グー…前の発言者に賛成だけど、違う意見も言いたい場合
パー…前の発言者とは、全く違う意見

 発言者(Aさん)は、人差し指一本(付け足しで意見を述べたい)のハンドサインを出す子(Bさん)を、次の発言者に指名した。

 「Aさんの意見に関連していますが、日本国憲法に書かれている基本的人権の尊重、国民主権、平和主義は、自分たちの生活には身近なものではないように感じられるけれども、実際には、身の回りにも関係していることがわかりました」(Bさん)

 上島先生は、Bさんの「身の回りにも関係している」という発言を取り上げ、「実際にどんなところに存在していると思いますか?」とクラス全体に問いかけた。

 上島先生のクラスでは、前時までに新宿区が平和な町を目指すために設けた施設について調べており、身の回りにある平和主義に関連するものを挙げた子どもが目立った。それを受けて、上島先生は「日本国憲法が制定され、私たちの暮らしはどのような影響を受けているのか」を子どもに質問すると、「自由に平和に暮らせる」「安心して暮らせる」などの声が挙がった。

 上島先生は今日のめあては、「より良い社会について自分たちは何ができるか考えてみよう」と伝えた。

●展開:ワールドカフェ形式の話し合いで、子どもの思考力を伸ばす

 上島先生の問いに対し、1人の子どもが「私たちもお小遣いからお菓子を買うときなどに、消費税を負担しています」と発言。

 上島先生は「消費税も良い意見です。今からふせんを配るので、より良い社会をつくるために自分たちは何ができるか、そこに書いてください」と伝え、4分間、1人で考える時間を取った。

 4分間が過ぎると、上島先生は「この後、どうしたいですか?」と問うと、子どもから「意見交換」という意見が出たため、子どもは教室内を移動して自由にグループを作り、話し合った。その間、上島先生は教室内を巡回し、各グループで出た意見を板書にまとめた。

 上島先生は、さらにクラス全体に「どうしたいですか?」と問いかけた。1人が「数人がグループに残り、他の人は違うグループの意見も聞きに行くと良いと思います」と発言。今回の授業では、1〜2人がグループに残り、他のメンバーが他グループで話し合いを行うことを2回行った。

 それは上島先生が、そうした形式の話し合いを授業でよく行うため、このような発言が子どもから自然に出てきた。この形式は、「ワールドカフェ」と呼ばれ、ワークショップで用いられる討議の手法だ。参加者が少人数に分かれたテーブルで自由に対話を行い、途中でメンバーをシャッフルしながら話し合いを発展させていく。

 最後に、「授業前の自分と比べて、日本国憲法の考え方に基づいて、より良い暮らしのために何ができそうだと思ったか」「将来、日本国憲法に基づいてより良い暮らしにするために、何ができそうか」について、2分程度考えさせて、3人の子どもに発表させた。そして、各自に授業の振り返りをノートに書かせ提出させ、授業は終了した。

2.授業づくりのねらい

 上島先生は、以前は教員主導の一斉授業を行っていたが、現在は子どもの話し合いによる学び合いを重視している。授業形式を変えるきっかけとなったのは、前任校で高学年を担当し、一斉授業では子どもが主体的に授業に参加しないと感じたからだ。

 「私の授業を見た先輩の教員に『子どもの表情が良くないのは、先生の指導が悪いからです』と言われました。具体的には、『先生ばかりが話している』と指摘され、子どもが学びたいと思うような授業ができていないと気づきました」(上島先生)

 前任校の東京都町田市立鶴川第二小学校では、思考力を高める授業づくりに学校全体で取り組んでおり、先輩の教員に何度も授業を参観してもらいアドバイスをもらいながら、学び合いにより子どもの思考力を伸ばす授業を目指していった。
 今回の授業のポイントを3つ挙げてもらった。

ポイント1、子どもの立ち位置を明らかにし、思考を深めさせる

 上島先生が社会の授業で大切にしているのは、自分は社会のどこに立っていて、これから何をすべきなのか、自分の考えを持たせることだという。

 「例えば、ユニバーサルデザインについて学んだ授業の後と、子どもが、『駅前の点字ブロックの上に自転車がとめられているのを見て、自転車を少し移動させた』と教えてくれました。このように、授業で学んだことを自分の生活に生かせるような子どもを増やしていきたいと考えています。そこで意識しているのが、社会の授業のなかで、子どもに今どこに立っているのか、自分の立ち位置をメタ認知させることです。今日の授業であれば、日本国憲法を学び、より良い社会をつくるために自分たちは何ができそうか、自分の考えを持たせる授業づくりをしました」(上島先生)

ポイント2、子ども主体の話し合いで学びを深めさせる

 子どもの話し合いは「ワールドカフェ」を採っていた。

 「グループの代表が前に出て話し合いの結果を発表するスタイルの方が、『みんなの意見が聞けて良い』という子どももいます。一方、『ワールドカフェ』では、自由にいろんな人と意見を交換します。話す相手によって内容や言葉、伝え方も工夫することができるため、意見交換しやすいという声を聞き、授業に積極的に取り入れるようになりました」(上島先生)

 加えて、何回かメンバーを入れ替え話し合いを行うため、子どものアウトプットの機会が増えるのもメリットだという。

 「他者に伝え、他者の意見を聞くことで、自分は何がわかっていて、何がわかっていないかがをメタ認知できるため、次第に意見が洗練されていきます。今日の授業でも前半の話し合いでは良い意見が浮かばなかったグループも、後半はふせんに自分たちの意見を書き込んでいました」と上島先生は話す。

 また、話し合いでは、近い席の人と同じグループになるのではなく、教室内を動き回り、子どもが自由にグループになり話し合うようにした。その意図を上島先生は次のように話す。

 「自由に学び合わせることを繰り返すうちに、子どもなりに『次にあの子に話を聞きたい』という思いを持つようになりました。例えばCさんは、視点がユニークなので、そうした話を聞きたい子はCさんのところに集まります。そうした姿勢が身についていれば、将来、社会に出たときにも『あの人から情報を得よう』と自分で学びの方向性を決められるはずです」(上島先生)

ポイント3、相互指名させ、授業を自分たちの手でつくる喜びを感じさせる

 上島先生の授業では、ハンドサインを活用して相互指名を行う。ハンドサインを使って挙手するには、発言者と自分の考えが関連しているか、否か、すぐに判断しなければならず、自分の考えをメタ認知する必要があり、自分の思考の整理を鍛えることにつながると上島先生は考えている。

 「指名をする側も『自分の意見と関連した意見を持つ人を先に指名した方が、クラスの話し合いが深まる』など、次の授業展開を考えて、指名するようになりました。今回の授業では、普段は手を挙げない子が違う意見を言いたいとハンドサインを出し、それに発言者が気づいて、その子を指名しました。その子の意見は『日本にいる外国人にも選挙権を与えるように働きかけをしたい』という意見で、子どもの視野を広げ、授業を深めるものになりました」(上島先生)

 ハンドサインを用いた相互指名により、クラス全体で学びを形作っていく喜びが感じられるようになり、より主体的に意見が出されるようになったという。

3.授業づくりのねらい

 

 今後の課題について、上島先生は次のように話す。

 「子どもたちが、自分自身で学びのエンジンをかけられる授業を意図して設計していきたいと考えています。また、社会の授業で身につけた思考力が、他教科はもちろん、行事やクラブなどの課外活動に生かせるようにしていきたいです」(上島先生)

 そして、すべての教科で思考力を高める授業をしたいと考えているが、まだ意図的に授業設計ができていないと感じているという。

 「『学校全体で思考力をどのように育成するか』という視点を踏まえて年間授業計画を練っていく必要があると感じます。そのためにも、各教科でどのように思考力を高めていけば良いのか研究を続けていきたいと思います」(上島先生)

プロフィール

上島 響

上島 響(かみじま かおる)

東京都新宿区立西戸山小学校 主任教諭

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