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現役教員をはじめとした教育実践者たちが挑戦する、新しい「学びの場」づくり。あなたも、この実験に参加しませんか?


2020.02.28 update

「トラブルがなく、教師の言うことを子どもたちが素直に聞く学級」と「トラブルがあっても、それを自分たちで解決する学級」。どちらの学級で育った子どもの方が、社会で幸せに暮らしていけるのか。東京都の公立小学校に勤務する門野幸一先生は、後者の学級づくりを目指し、子ども同士の主体的な対話を促す「クラス会議」を行っている。その門野先生による模擬授業が、2019年11月に開催された。参加者の小学校教員ら約10人で模擬クラス会議を実施し、安心・安全な場づくりによる効果を感じ取った。

1.互いを受け入れ合う、温かい関係を築く

 教職歴9年目の門野幸一先生は、担任を受け持つ学級で「クラス会議」を定期的に実施し、子ども同士の対話を促して、主体性を引き出すとともに、子どもが安心・安全に過ごせる学級づくりに取り組んでいる。そのきっかけは、門野先生が学級経営に悩んだ際に、上越教育大学教職大学院の赤坂真二教授らが提唱するクラス会議のことを知り、自身の学級経営に取り入れたことだった。その後、実践を重ねる中で、子どもの変容を目の当たりにし、安心・安全な場づくりの重要性を実感している。

 「クラス会議の一番の目的は、自由な対話を通して、クラス全員が『自分たちは仲間だ』といった感覚を持てるようになり、各自の居場所をつくることです。学級にそうした雰囲気や関係性が生まれると、子どもは普段から自主的に話し合うようになり、授業での学び合いも深まりやすくなりました」(門野先生)

 今回の模擬授業は、アイスブレイクの後、門野先生と参加者が円形に椅子を並べ、車座になって行われた。

 最初に「最近、うれしかったこと」について、門野先生を含めた全員が時計回りに発表した。「温泉旅行に行った」「コンサートのチケットが当たった」「今日の朝食が美味しかった」など、皆が発表を終えると、門野先生は「自分が話した時、どのような反応があるとうれしかったでしょうか」「自分をしっかり見て話を聞いてくれたり、笑顔を向けられたり、拍手されたり、うなずかれたりすると安心しますよね。できるだけ、そのような聞き方を心がけましょう。また、話すことが思い浮かばない時は、パスをしてもかまいません」と、参加者に求められる姿勢を説明した。

2.相手の状況も理解してアイデアを出す

 次のテーマは、「最近、困っていること」。「予定を詰め込み過ぎて、本当にすべきことができない」「テレビをつけたままソファで寝てしまう」「スマートフォンの使い方が分からない」「寒くて布団から出られない」「父親とうまくコミュニケーションが取れない」などが挙がった。それらの中からこの場で話し合いたいことを1人2つ選んでもらい集計した。そして、多かったものをテーマとして、それを解決するアイデアを出し合った。

 「実際に学級でクラス会議を行うと、日常生活のことから、塾や家庭での悩みまで、いろいろな困っていることが挙がります。その中で、皆が『自分も気になる』『解決してあげたい』と思った内容をいくつか選んで意見を出し合います。そして、次のクラス会議で、その困っていることを出した子どもに、『その後どうだった?』と聞いてフォローします」(門野先生)

 参加者の挙手が多かったテーマの一つは、「寒くて布団から出られない」だった。発表者が、「目は覚めているが、ついもう一度寝てしまう」と状況を説明すると、「アラームを離れた場所に置く」「暖房をつけておく」「起きたらすぐに食べられるように、美味しいお菓子を用意する」などのアドバイスが出された。発表者はそれらを受けて、「暖房のタイマーをセットし、アラームは遠くに置いて寝ます」と自分で解決策を選んだ。

 「父親とうまくコミュニケーションが取れない」ことも、多くの参加者の関心を集めた。参加者は、「一緒に父親の得意なことをするとよさそう」「2人で山登りに行ってみたら?」「母親経由で気持ちを伝えてはどうだろう」「無理に話さなくても、同じ空間にいるだけでよいと思う」など、発表者の置かれた状況や思いを理解した上で、自らの経験を踏まえながらアイデアを出していた。

 発表者は、どのアイデアにも真剣に耳を傾け、「皆さん、ありがとうございます。最初から苦手意識を持たず、まず母親を通してコミュニケーションを深め、徐々に2人で過ごせる関係をつくっていきたいと思います」と述べた。

 門野先生は、模擬授業を体験した参加者に、クラス会議の意義を次のように改めて強調した。

 「実際に体験されてお分かりになったかもしれませんが、クラス会議では問題が解決できるかどうかは二の次です。一人ひとりの『自分の意見を聞いてほしい』という思いが皆から温かく受け止められる経験を通し、自分の考えを主体的に表現したり、学級内で安心して過ごしたりできるようになることが、より重要なのです」(門野先生)

3.認められれば、大人も子どもも幸せな気持ちに

 続いて、小金井市立前原小学校の蓑手章吾先生がファシリテーターとなり、各校でクラス会議をどう行えばよいか、参加者が意見を出し合った。参加者は自校の状況を踏まえながら、「いきなりクラス全員で行うのは難しいので、給食の時間などにグループごとに実践してみたい」「話し合うテーマは多数決で決めるだけでなく、『皆から意見をもらいたい』テーマを優先する場合があってもよいかもしれない」などの意見が聞かれた。

 終了後、参加者からは、「クラス会議が根づいたら、学級がもっと楽しくなりそう。ぜひ実践したい」「子ども自身が学級をつくる中で、主体的に伸びていく大切な機会になると感じた」といった感想が寄せられた。

 門野先生は、「参加者が積極的に自己開示をした、有意義な場となりました。皆に認めてもらえると幸せな気持ちになるのは、大人も子どもも同じであることを改めて実感しました。子どもが自律的にクラスをつくり、一人ひとりがクラス全体に影響を与えられることを実感できるクラス会議が、全国の学校にもっと広がるとうれしいです」と、今回の模擬授業を振り返った。

 本研究会は、都内で勤務されている先生方が授業を磨き合う場をつくることを目指しています。子どもの目線、あるいは、それぞれの専門の視点から対話の深まりを楽しみながら、今後の授業づくりについて考える場になればと思います。第1回は小学校の先生による「道徳×対話×ICT」の模擬授業、第2回は中学校の先生による「理科×問いづくり×探究」の模擬授業を行いました。あなたも、これからの授業について、実際に体験をしながら対話しませんか?ご参加お待ちしています。

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プロフィール

門野 幸一

門野 幸一(かどの こういち)

大学を卒業後、通信販売会社で勤務。営業マンとして汗を流す。その後、転職し、小学校の教員として、9年目となる。大学時代に10人部屋の寮に住んだり、カナダへの留学中にも100人以上の外国語人と共同生活をしたりするなど、常に人との関わりのなかで生活をする。また、東日本大震災で、苦しむ方々の姿や話を聞いて、『人と繋がり、語らうこと、共感することが力になること』を、実感。日々、どうすれば児童が主体的により良い関係を友達と築いていけるのか、幸せを創造できるのかを研究中。専門は外国語。

蓑手 章吾

蓑手 章吾(みのて しょうご)

教員13年目。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、学習心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通う。特別支援2種免許を所有。ICT活用に関しても高い関心があり、多くのセミナーや勉強会に参加。ICT CONNECT21が主催する「先生発!最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」ではグランプリを受賞。現任校ではICTプロジェクト主任も務める。 現在「教育の鉄人」こと杉渕鉄良氏主宰のユニット授業研究会に所属。その他、多種多様なセミナーや研修会、文献などからも学力向上について理解を深めている。 セミナー登壇経験多数。共著に『全員参加の全力教室2』『特別支援学校におけるICT活用実践事例集』などがある。
https://ict-enews.net/2017/10/27maehara-2/ https://edtechzine.jp/article/detail/1420

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