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大学授業レポート~新たな学びのスタイル~

「レゴ®シリアスプレイ®」メソッドを活用して、社会の見方を再構築し、自分と社会とのかかわりを探究する 前編

九州産業大学商学部

九州産業大学商学部

九州産業大学商学部の聞間(ききま)理教授は、担当するゼミで「レゴ®シリアスプレイ®」(*)メソッドを取り入れた2日間にわたるワークショップを行い、学生が社会の見方を広げ、自身と社会との関係を考えていく場を設けている。それはどのような手順で進められ、学生にどのような変容が見られるのか。ワークショップでの学生の様子をリポートする。

(*)レゴ®シリアスプレイ®の内容は下記ウェブサイトを参照ください。
http://www.seriousplay.jp/seriousplay/

(本記事は前編。後編はこちらです。

聞間理教授
  • 聞間理

九州産業大学商学部教授
専門は経営組織論。“個を活かす組織”をテーマとする中で「レゴ®︎シリアスプレイ®︎」(LSP)メソッドに出会う。その後、LSP開発者のロバート・ラスムセンによるトレーニングを受け、経営学教育への応用に取り組む。その他、企業課題の解決や、社会人のリカレント教育などにも幅広く同メソッドを活用している。

ゼミ活動の前提として、社会の問題や変化をつかむ視点を育む

 九州産業大学商学部の聞間ゼミでは毎回、2〜4年生の10人のゼミ生が持ち回りで、「現代の社会問題」をテーマに自身で選んだ書籍を紹介する活動を行っている。前学期の間に1人当たり1〜2冊発表するため、ゼミ生は全部で10〜15の「現代の社会問題」に触れることになる。その活動のねらいを、聞間教授は、次のように説明する。

 「経営学や商学を専門的に学ぶにあたって、社会の問題や変化をつかむ視点は必須です。そして、社会人になれば、社会問題に関する見解が求められるようになります。学生時代のうちに、領域にとらわれず、横断的に社会問題を知っておいてほしいと考えました」

 「レゴ®シリアスプレイ®」(以下、LSP)メソッドのワークショップは、自分やほかのゼミ生が紹介した様々な社会問題について、ニュースやインターネットなどで自身が持っている情報も含めて整理し、考えを深めるために行う。

 「情報のインプットだけでは、頭の中は混沌としたままです。設定された課題に関してレゴ®ブロックを組み合わせて作品を作る活動を通じて、情報を整理し、課題に対する考えが深まっていく。そして、情報が有機的に結びつくことで、学生は本当の意味で社会問題を理解していきます」(聞間教授)

【ワークショップ1日目】現在の社会問題と未来の社会問題を形にする

 今回は、「社会と私のつながりからマイ・ライフ・テーマを考える」をテーマに2021年11月上旬に2日間にわたって行われたLSPのワークショップの様子を紹介する。
※シラバスでは、前学期終了後の夏季休業中に実施予定だったが、緊急事態宣言の発出中だったため延期していた。

ワークショップ1日目
13:00 2日間の流れを説明
13:15 タワーの制作
13:45 「2030年の未来の私のコアモデル」の制作
14:30 「社会問題」をテーマにした制作
15:45 「社会活動」をテーマにした制作
16:00 グループで作品を配置したランドスケープ(社会構造の風景)を制作
16:45 共有

 1日目は、まず、タワーを作る課題でレゴ®ブロックの扱い方を確認した後、「2030年の未来の私のコアモデル」を作る活動を行い、9年後の自分を想像しながら、それぞれが全く異なる「未来の自分」をブロックで表現した。

 次に、2021年で重要と考える社会問題を表現する作品を2つ作った。「介護」「貧困と格差」「自殺」など、事象として起きている問題のほかに、「表面しか見ずに、本質を見ていない」「断片的な情報しか流されない」といった人間の内面の問題を指摘する作品もあった。

 それぞれの作品は、10〜15分間の短時間で完成させた。学生は、「日頃感じていることを手がかりに、内面を掘り下げながら作りました」と語った。
 自身が感じていた社会問題を形にすることで、普段、ゼミ生同士ではあまり話題にしないことを共有する機会にもなっている。
 「私が作品のテーマにした『表面しか見ずに、本質を見ていない』は、これまで誰かに話したことはありませんでした。ブロックで形にすることで、1人でモヤモヤしていたことを、ほかの人に伝えることができました」(学生)

 続いて、自身が作品にした社会問題を解決するための社会活動を表す作品を作った。さらに、2030年に重要になると考えられる社会の動き1つを表現する作品も作った。「テクノロジーの進化」「誠意」「アイデア」「革新的な人の登場」などが、作品のテーマに挙がった。

 最後に、4人1組のグループとなり、メンバー間で自身の作品を紹介してから、テーマとした社会問題や社会活動が類似する作品を近くに配置し、ランドスケープ(社会構造の風景)を作った。

【ワークショップ2日目】作品の関連性を見いだし、「2021年の社会システム」を制作

ワークショップ2日目
10:00 1日目の振り返りと本日の進め方
10:15 「2021年の社会システム」の制作
12:00 昼食
13:30 「2021年の社会システム」の共有
14:00 「2030年の社会システム」の制作
15:30 「2030年の社会システム」の共有
16:00 「私と社会のかかわり」を考える
17:00 チェックアウト、振り返り

 ワークショップ2日目は、まず、聞間教授から、「1日目に制作した作品を踏まえて、社会に様々な問題がある中で、自分がどのように生きていけばよいかを考えていくワークを行います」と、目標が伝えられた。

 最初の課題は、「2021年の社会問題と、それを解決する社会活動のシステム」だ。聞間教授は、次のように説明した。
 「要素の関係性をつないで、全体を表現したものを『システム』といいます。今日の活動におけるシステムは、皆さんが制作した社会問題やその解決のための社会活動の作品と作品をつないでいく作業となります。単につなぐだけでは、捉え切れない点があるので、『アクセル・ブレーキの関係性の表現』と『関係性の強弱の表現』を加えられるようにしましょう」

①アクセル・ブレーキの関係性の表現
「Aが強くなったらBも強くなる」というアクセルの関係性の場合には、「赤いチューブやブロック」を使用する。「Aが強くなったらBは弱くなる」というブレーキの関係性の場合には、「黒のチューブやブロック」で結ぶ。矢印を書いた付箋紙を貼り、どちらに力が流れているかを明確にする。

②関係性の強弱の表現
 「Aが変化するとBにも大きな影響が出る」場合には、「太いチューブやブロック」で、「Aが変化してもBの影響は小さい」場合には、「細いチューブ」で結ぶ。微弱なものは、結ばない。

 学生は、ランドスケープに配置された社会問題の作品と、社会活動の作品をつなげていったが、作品それぞれは、学生個人が単独で制作したものであり、ほかの学生の作品と関係性を見いだすことは容易ではなかった。学生からは、「物事を意味づける力が問われていると感じました」「どのような社会問題をテーマにした作品かを説明された時に、筋道を見通す力の重要性を感じました」といった声が上がった。

 社会問題と社会活動のつながりの強弱についても、様々な検討がなされた。
 「『社会的弱者が生まれる』という社会問題があり、さらにそこに『同調圧力』が加わって悪影響を一層強めていると思う」
 「『若者の声が政治家に届かない』をテーマにしたのだけれど、Aさんが作った『いろいろな政党があるけれど、みんな同じことを言っている』という問題につながりそうだよね。でも、どのチューブでつなげたらいいのだろう?」

 聞間教授は、各グループをまわり、次のように声をかけていった。
 「つながりが分からなくなったら、1つずつ指を差しながら、つながりを声に出して確認してみましょう。そうすると、ほかのメンバーが『そこは分かるね』『ここは関係ないのでは?』などとコメントしてくれるよ」
 「赤のチューブ(赤はアクセルの関係性)でつないでいるけれど、黒のチューブ(黒はブレーキの関係性)でもつなげることはできないの?」
 「矢印は一方向だけ? 反対の方向にも影響しない?」

「2021年の社会システム」と自分のかかわりを考える

 活動開始から1時間ほどで、どのグループもシステムを完成させると、そのシステムを全体に発表するため、次の3点を考え、ホワイトボードに記入。1グループ10〜15分間で発表した。
 ①一言で言うと〇〇社会
 ②コアな要素とメインの流れ
 ③どのようなことが起こりそう? その時私は?
 聞間教授からは、次のようなヒントが出された。
 「取り除いたら成り立たない要素は何だと思う?」
 「転移した問題ではなく、根本の問題はどれだろう?」
 「想定したコアの要素がなくなった社会は、どうなると思う?」

 ①「一言で言うと〇〇社会」は、それぞれ、「アイデア社会」「国と国民がズレた社会」「知ったかぶり社会」「ノーミス(失敗をゆるさない)社会」と名づけられていた。

「アイデア社会」のグループは、社会問題のつながりと、それに対応する社会活動を、「②コアな要素とメインの流れ」の考えに沿って、次のように発表した。

 中心的な社会問題に挙げた「貧富の差」が大きくなればなるほど、より「一部の意見が採用されやすく」なり、「若者などの声が政治に反映されなく」なることが増えると分析しました。さらに、「貧富の差」は「自殺者の増加」という問題にも深く関係があるため、それぞれを赤い太いチューブ(アクセルの関係性で強い影響)で結びました。
 さらに、「同じような政策を掲げる政党や候補者ばかり」という問題により、「貧富の差」は一層助長されます。その現状を打開しようとする改革がいくつか発生するものの、急激な変化は「同調圧力」によってつぶされてしまうでしょう。
 そこで、私たちのグループでは、解決策として「アイデアを出すこと」という発想にたどり着きました。アイデアは、政治、ビジネス、科学技術の進化などにつながります。ただし、新しい技術は新たな課題であるSNSの中での「誹謗中傷」なども生み出します。それは「自殺者の増加」の問題につながってしまうため、誹謗中傷に対峙する社会活動を「誠実さ」としました。

 2021年の社会システムにおける自分について考える、「③その時私は?」については、グループのメンバー全員が発表した。

 「誹謗中傷が増えたとしても、私は、誠実さを忘れずに、手の届く範囲の人たちをサポートしていきたいと思いました」
 「科学技術の進化で、社会は便利になりますが、複雑にもなります。その時に、複雑さの要因を取り除けるような働きかけができる人になりたいと思います」

 同じシステムを構築しても、自分がどのようにかかわるのかは個々に考えが異なり、より多角的な視点を持つきっかけとなる発表となった。

後編に続く)取材日:2021年11月6日、7日

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