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激しい社会変化のなかで、子どもの生活や学びもどのように変化しているのか。
その変化を多面的、継続的に捉えるために、ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所は共同研究プロジェクトを立ち上げました。 そこで実施された調査の結果データを、いま多くの研究者たちが分析しています。本プロジェクトデータから得られた洞察と仮説をもとに、社会課題の解決の糸口を模索しています。
研究論文には書ききれなかった思いと展望を、研究者自身が伝えます。

小・中・高校生の学校外読書時間の全体像を描く――読書時間分布における「読む山」

猪原 敬介
  • 猪原 敬介

    北里大学一般教育部 講師
    専門は教育心理学・認知科学。2012年,京都大学大学院教育学研究科より博士号(教育学)を取得。 言語インプットとしての「読書活動」と,その成果物としての「言語力」の相互促進的関係について,調査・実験・計算モデルを組み合わせた多角的な研究を行う。
    2016年,第4回野島久雄賞(日本認知科学会)を受賞。複数の小学校で読書と語彙・読解・作文の関係についての縦断的調査(追跡調査)を行い,学校へのフィードバックを行っている。 著書に『読書と言語能力 言葉の「用法」がもたらす学習効果』(京都大学学術出版会)など。


はじめに

 YouTube等による動画視聴が当たり前となっている現在,読書の意義そのものが問われている。本稿ではパネル調査データ (「子どもの生活と学びに関する親子調査Wave1~4,2015-2019(調査番号SSJDA1363))における「読書時間」を分析することで,児童・生徒の読書行動の実態を明らかにする。 ここには,現代における児童・生徒の読書への素直な態度が反映されていると筆者は考えている。今を生きる彼,彼女らにとって,読書とはどういったものであるのか。 読書に関心を持つ教育関係者・研究者らの参考となれば幸いである(詳細な分析結果の報告は,猪原 (2022) を参照されたい)。

比較対象:学校読書調査

 本稿の読者の多くは,児童・生徒の読書行動の調査と言えば,全国学校図書館協議会と毎日新聞社が共同で毎年6月に実施している「学校読書調査」を思い浮かべるかもしれない。 例えば直近の第66回学校読書調査(全国学校図書館協議会・毎日新聞社,2021) は2021年6月第1・2週に行われ,小学校4~6年生1994名,中学校1~3年生1971名,高校1~3年生4902名を対象に 「あなたは5月1カ月の間に、本を何冊ぐらい読みましたか.借りて読んだ本も入れてください(教科書・学習参考書・マンガ・雑誌やふろくをのぞく). 1冊も読まなかった人は0と書いてください.」という質問を行っている。

 その結果はwebページ( https://www.j-sla.or.jp/material/research/dokusyotyousa.html ) にて公開されているので,一読を薦める。教育関係者から特に注目されるのは,5月1か月間に読んだ本が0冊の児童生徒の割合, すなわち「不読率」である。例えば,上述の第66回における不読率は小学校4~6年生が5.5%,中学1~3年生が10.1%,高校1~3年生が49.8%であった。 学校段階が上がるごとに不読率が上昇しているが,小学生・中学生の不読率は相対的に低く,高校生になると跳ね上がって半数近くが不読になること,などが読み取れる。

不読率:15.8%から始まり,59.5%まで増加する

学校読書調査とパネル調査の相違点

 では次に,パネル調査データにおける不読率を見てみたい。ただしその前に,学校読書調査とパネル調査の相違点についてここでは2点だけ述べておく。

 1点目は,調査対象者の違いである。 学校読書調査は小学校4年生から高校3年生までが対象であったが,パネル調査には小学校1~3年生も含まれている。 猪原・上田・塩谷・小山内 (2015) で指摘したように,小学校低学年児童に読書活動を自己報告させることは難しい可能性があるが,パネル調査データでは小学校1~3年生児童については保護者による代理回答がなされている。 これによって,これまで知ることの難しかった小学校1~3年生の読書時間について知ることができる。
 2点目は,質問項目の違いである。 パネル調査での質問項目は「あなたはふだん(学校がある日),次のことを,1日にどれくらいの時間やっていますか。 学校の中でやる時間は除いてください。日によって違うときは,平均してだいたいの時間を教えてください」 (選択肢:「しない」「5分」「10分」「15分」「30分」「1時間」「2時間」「3時間」「4時間」「4時間より多い」)であり,様々な活動の中の1つとして「本を読む」が含まれている。 本稿ではこの項目への回答を「読書時間」とみなしている。
 学校読書調査は「冊数」によって読書活動を測定し,学校の中で行われる読書と学校の外で行われる読書を区別していない。一方,パネル調査データは「時間」によって読書活動を測定し, 学校の外で行われる読書に限定して質問をしている。これらはどちらがより優れているというものではないが,学校読書調査を基準とすれば,パネル調査データにおける読書時間は, 「1日5分だけ読書をする」のような小さな単位の活動の違いまで測定できる可能性があること,学校外で自分の意志で読書をするような, いわゆる「余暇読書」を反映しやすいことが想定される。

パネル調査データにおける不読率

 さて,図1がパネル調査データにおける不読率である。ここでは,上記の読書時間質問に対して「(「本を読む」を)しない」と回答した児童・生徒を「不読」とみなした。 つまり,不読の割合である不読率とは,その学年において本を全く読まないと回答した児童・生徒の割合と言うことになる。

図1
図1 パネル調査における小学校1年生から高校3年生までの学年別不読率
注)横軸の「小」「中」「高」は小学校,中学校,高校を,数字は学年をそれぞれ表す。

 図1から分かることは3点ある。1つ目は,不読率の全体的水準の高さである。繰り返しになるが,第66回学校読書調査(2021年実施)では, 不読率は小学校4~6年生が5.5%,中学1~3年生が10.1%,高校1~3年生が49.8%であった(小学校1~3年生は調査に含まれていない)。 ここから,「小学生の不読率は5%前後」という印象を持っている教育関係者・研究者は多いのではないだろうか。しかしながら,パネル調査データでは,小学校1年生の段階でも不読率は15.8%,小学校6年生では29.4%である。 ここには,本調査の読書は学校外に限定されたものであること,学校読書調査が「冊数で0冊回答者を不読」とし,本調査では「読書時間で『しない』回答を不読」としているなどの違いが影響している。 しかし,これらの違いを踏まえた上で,調査方法によっては「小学生の不読率は15.8%~29.4%」となることを知っておくことは重要であろう。 小学生の読書実態についてのイメージが更新されるのではないだろうか。
 2つ目は,学年による不読率の単調増加である。学年が上がるごとに,ほぼ線形に不読率は上昇していく。 学校読書調査における「小学校4~6年生が5.5%,中学1~3年生が10.1%,高校1~3年生が49.8%」という情報からは,学校段階による上昇しかイメージされないかもしれないが, 実際には学年が上がるごとに着実に不読率は高まっているのである。
 そして3つ目が,学校段階による不読率への加算的影響である。学校段階が上がると不読率が大きく上昇するが,学年による単調増加に学校段階の影響が加算されているように見える。 また,小学校から中学校への移行よりも,中学校から高校への移行において上昇幅が大きい(小学校から中学校:7.6ポイント上昇,中学校から高校:10.2ポイント上昇)。 「小中高の接続の問題」は児童・生徒の精神的健康や授業内容の高度化の文脈で議論されることが多いが,「読書習慣の維持」の文脈においても重要トピックであると言えるだろう。
 パネル調査データの不読率から見たとき,現代の児童・生徒の読書活動の全体像は以下のように描くことができる。まず,小学校入学直後の1年生の段階で,すでに15.8%の児童は不読状態である。 学校外の読書に限るとは言え,これから言葉を発達させていく段階の児童にとっては,やや心もとない印象を筆者は持つ。ここから不読率は,階段を1段1段着実に上るように学年が進むごとに高まり, 学校段階が上がる際には2段飛び,3段飛びするように跳ね上がる。そうして高校3年生には全体の6割弱に当たる不読率59.5%へと到達する。

不読率を越えて:相対度数分布で見つかる「読む」山

学年別相対度数分布の導入

 読書活動推進の立場から見た場合,以上は少々ネガティブに捉えすぎた全体像であると思われることだろう。なぜなら,「(「本を読む」を)しない」の回答割合である不読率のみに着目し, 他の選択肢(「5分」「10分」「15分」「30分」「1時間」「2時間」「3時間」「4時間」「4時間より多い」)の回答割合の情報を全く無視しているからだ。
 そこで,「読書時間」項目におけるすべての選択肢の選択率を示した学年別相対度数分布を棒グラフの形で図2に示した。「しない」は0,「1時間」は60, 「4時間以上」は300として表示されている。★と△は,それぞれ,その学年での選択率が第1位と第2位の選択肢である。「0(「しない」)」の割合だけに着目すれば,図1の不読率と一致することが分かるだろう。

図2
図2 小学校1年生から高校3年生までの読書時間回答における学年別相対度数分布
注)横軸の単位は分。(a)と(b)では縦軸のスケールが異なるので注意されたい。

 最多回答(★がついた回答)に着目すると,小学校1年生では「10分」回答が最多であったが,小学校2年生と3年生では「30分」が最多となり,小学校4年生以降は「しない(不読)」回答が最多になっていることが分かる。

「読む山」の発見

 しかし,筆者が図2で示したいのは,各学年で2番目に出現頻度が高かった回答(△がついた回答)に着目したときに見つかる,読書時間の分布における「読む山」である。 小学校1年生では最多が「10分」,2番目が「15分」と,最多と2番目の回答が隣接しており,1つの分布の山を形成しているとみなすことができる。小学校2年生では最多が「30分」,2番目が「10分」と間に「15分」を挟むようになり, 小学校3年生では最多が「30分」,2番目が「しない」となり,分布としては2つの山を持つ傾向がはっきりしてくる。小学校4年生以降はすべて「しない」が最も高い山,「30分」が2番目に高い山となり, そのまま高校3年生まで維持されている。
 意外なのは,「しない」が最多なのだから,2番目は次に読書時間の少ない「5分」になりそうなところ,そうではなく,2番目は高校3年生まで「30分」のままであり,その「30分」を頂点とした「読書する児童・生徒」の山が維持される点である。 言わば,「読まない(不読の)山」と「読む山」の二峰性が読書分布にはあるのである。そして, その二峰性の傾向は小学校2年生においてすでに兆候が見られており,小学校3年生において明確に現れてくる。児童の読書活動について何らかの働きかけを行う際には, 小学校低学年あるいはそれ以前の入学前時点での働きかけが重要であることがここから示唆される。

学校読書調査に二峰性は存在するか

 なお, 学校読書調査にこうした二峰性は少なくとも顕著には見られない。毎日新聞社(2020,p110) で報告されている2019年実施の第65回学校読書調査の結果によれば, 高校生においては「0冊」が最多となるが,2番目に回答が多いのはどの学年でも「0冊」と隣接する「1冊」である。
 また,毎年質問される項目ではないが,学校読書調査にも読書時間についての質問項目が含まれることもある。例えば2015年実施の第61回学校読書調査(毎日新聞社, 2016, p148) には 「あなたは、次のことをするのにどのくらい時間を使いましたか.昨日のことを思い出して、それぞれについてあてはまる番号を〇で囲んでください」という質問項目があり, 「3. 本・雑誌・新聞を読んだ」に対して,「0分」「15分以内」「30分以内」「1時間以内」「2時間以内」「3時間以内」「それ以上」「無回答」の選択肢があった。小学校6年生男子, 中学校1~3年生女子においてわずかに二峰性(「0分」が最多,「30分以内」が2番目に回答が多い)が見られるのみであり,パネル調査データほど明確に二峰性を確認することはできなかった。 こうした二峰性は,学校外読書が反映する余暇読書において特に顕著であるのかもしれない。

「読む山」を中心とした学校外読書の全体像

今後の研究の方向性:何が「読む山」を作るのか?

 不読率のみから描く学校外読書時間の全体像に対して,相対度数分布に基づく「読む山」を発見した後の全体像とはどのようなものだろうか。
 図1のように,小学校入学以降,読書をしない「不読」の児童・生徒の割合は上昇していく。しかしながら,これだけ急速に不読率が上昇する中で, それでも1日平均30分程度は読書をする層も消えずに存続し続けているのである。例えば,高校3年生においてさえ,「30分」回答者は13.7%いる。 「(「本を読む」を)しない」以外をすべて「読む山」であるとみなすなら,その割合は40.5%にもなる。「高校3年生では不読者が59.5%」と「高校3年生においても40.5%はほぼ毎日読書をする」では, 受ける印象は全く異なる。しかし,これらは両方とも事実なのである。
 「読む山」の児童・生徒を惹きつける魅力が読書にはあり,その魅力をアピールすることで「読まない山」の児童・生徒を「読む山」へ引き込むことができるかもしれない。 今後の調査では,上記の「魅力」とは何なのか,児童・生徒がどのような気持ちで読書を続けるのか(あるいは,不読になっているのか)を「読書動機づけ」の観点から測定することで, 読書活動推進に役立つ知見が得られるかもしれない。

現代における読書の必要性と将来

 最後になったが,筆者は必ずしも「すべての児童・生徒がいかなる時期も読書習慣を維持すべき」とは考えていない。 ただし,言葉の発達のためにはある程度の読書習慣はすべての児童・生徒に必要ではないかと考えているし(猪原 (2021) も参照されたい), 学校在学中に読書の方法を身につけなければ,卒業後に自ら本を手に取る選択肢すら失われてしまうであろう。また,変化の激しい時代についていくために最新の知識を学び, 人生の発達段階に応じた物語に触れ,人類知の涵養と温故知新の観点から古典を紐解く,という読書の役割に一定の説得力も感じている。
 高校生の不読率の高さや,高校卒業後の大学生・成人の不読率の水準(平山 (2015) や国立青少年教育振興機構 (2013) の調査などを参照されたい)を鑑みるに, 上記の「読む山」まで遠からず無くなってしまうのではないか……という危惧もわずかながら抱いている。教育における必要性とは別に,読書好きの一人としても, 読書文化の消滅はなんとか避けたいものである。

引用文献

平山祐一郎 (2015) 大学生の読書の変化―2006年調査と2012年調査の比較より―. 読書科学, 56, 55-64.
猪原敬介 (2021) 読書量と語彙力の相関関係──子どもの生活と学びに関する親子調査と国内先行研究との比較──. SSJ Data Archive Research Paper Series, 77, 30-41.
猪原敬介 (2022) 小・中・高校生の学校外の読書時間についての横断的・縦断的分析─4時点3年間の大規模追跡調査に基づく検討─. SSJ Data Archive Research Paper Series, 80, 140-152.
猪原敬介・上田紋佳・塩谷京子・小山内秀和 (2015) 複数の読書量推定指標と語彙力・文章理解力との関係:日本人小学校児童への横断的調査による検討. 教育心理学研究, 63, 254-266.
国立青少年教育振興機構 (2013). 「子どもの読書活動と人材育成に関する調査研究」【成人調査ワーキンググループ】報告書. Retrieved from http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/80/(検索日:2022/6/12)
毎日新聞社, 2016, 『読書世論調査 2016年版』 毎日新聞社.
毎日新聞社, 2020, 『読書世論調査 2020年版』 毎日新聞社.
全国学校図書館協議会・毎日新聞社 (2021) 第66回学校読書調査 (2021年). Retrieved from https://www.j-sla.or.jp/material/research/dokusyotyousa.html(検索日:2022/6/12)

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